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錫杖の裏切り

2020/6/28 誤字修正しました。

教えて下さってありがとうございました。

私達はユミル王の後に続いて、迷路のような通路を進んでいき、王宮の広間にたどり着いた。



王の後に続く私と桔梗を見て、ホッドと彼にへつらう貴族たちが訝しげな顔をしている。

そして、ウエスタンで見た事がある貴族は、私達を見て青ざめた顔をした。



ユミルが玉座に座ると、私と桔梗に傍らに来るように指示をした。


ホッドが私と桔梗を睨み付けて制止する。

「サウス領主の家臣ごときが王の傍らに鎮座するなどあってはならぬこと……父上、何故この者達を傍らに置こうとされたのですか!」


ユミルは玉座のわきに置かれた錫杖を見ながら、威厳のある声で答えた。

「カイン公が私の身を案じて、わざわざ自分の重心を王の護衛にと推挙したのだ。ガイとキキョウを近衛の者に任じて、傍らで警護に当たらせる。」


ホッドは内心では(ほぞ)を噛むような気持ちだったが、素直にユミルに従った。


ユミルはホッドに問いかける。

「錫杖をここまで運んでくれたのはお前かな?」


ホッドは胸を張って答えた。

「王の後継者たる私が、しっかりとここに運ばせていただきました。もちろん兄上のように錫杖に拒まれるということはありませんでした。」


ユミルは苦笑しながらホッドに話しかける。

「それはありがたいことだ。ところで、バルデルと共にウエスタンに出陣した貴族から、使者が来たと聞いたのだが、書簡はどこにあるのか?」


ホッドが悲しげな顔をしながら、ユミルに書簡を手渡した。

「私宛に書簡を頂きましたので、先に読ませていただきました……全く、兄上はとんでもない禁忌を犯したものですな。」


ユミルはホッドから手渡された書状に目を通す。



――書状にはこう書かれていた。


バルデル様がウエスタンに到着してニヶ月が過ぎた頃、我々はクロード公に卑怯な罠にかけられ、窮地に立たされました。


バルデル様は怒り狂って、親衛隊(ナインソード)を暴走させて異形の化物に変えた挙句、このような結果になったのは、私たちの不甲斐なさのせいだと言って、化物達を我らにけしかけてきたのです。


我々はバルデル様のために身命を捧げたのに、このような仕打ちを受けたことに失望して、ウエスタンを後にしてセントラルに帰還することに致しました。


我々は命を惜しむわけではありませぬが、この汚辱を晴らすため、以後はホッド様の剣となって、人の心を失ってしまった元主君の命を絶つことで、今までの間違いを正したいのです。


なにとぞ……我らに機会を頂けますようお願い申し上げます。



ユミルは呆れた顔で私と桔梗に問いかけた。

「そこで傅いている使者に見覚えはあるか?」


私と桔梗は笑みを浮かべて頷いた。


ホッドが土気色の顔をしている使者に問いかける。

「なに……それは、どういうことなのか? なぜウエスタンでカイン公の家臣と会っているのだ?」


使者は、私を指さして必至で取り繕うとした。

「いえ……それは、カイン公は初めからウエスタンと通じていたに違いありませぬ。バルデル様がウエスタンから呼ばれた後に、ウエスタンがサウスに組すると宣言したのです。さらに、その次の日、この者が妙な技を使ってバルデル様の選りすぐりの兵とナインソードの半数を叩き伏せたのです。その結果……あのような惨劇が……」


ユミルは首を振りながら、使者の言葉を止める。

「それは不思議な話だな。ガイとニエルドから話を聞いたが、化物となった者はすべてガイに浄化されて人に戻り、バルデルも立ち合いに敗れた。彼らは皆、罪を償うためにクロード公の家臣として忠誠を誓うそうだ。」



使者は目を見開いて後ずさりした……


そして、決して言うべきでなかったことを叫んだ。

「そうか……カイン公は王位を狙っていたのだな? よくも我々全てを騙してくれたな……こんなにも都合よくウエスタンの民達やバルデル様達が、カイン公に寝返るはずがないのだ。なんという卑怯な真似をするのだ!」


ホッドが使者を睨み付けて問いかける。

「そもそもカイン公には王位を継ぐことができないだろう。まさか、自称でもする気なのか? それこそ民や兵達から見放されて、自壊するのが目に見えているだろう。」


使者が私とニエルドに、下卑た笑みを浮かべて喋りだす。

「バルデル様が王の書簡を見て、我らに告げたことは忘れておりませぬぞ。フレイ様は王の隠し子だったそうですな……ニエルド様もとんだ災難でしたな。自分の妻が王と不貞を働いた上に、娘を生んでしまうとは。」


ホッドが目を見開いてユミルを見つめた後、怒りに震えた声で父をなじった。

「なんということを……側近の妻に手を出されていたとは、度し難いにもほどがあります! 私達はけっしてカイン公が王位に就くことは認めませぬぞ……尋問官などという汚れ仕事をしていた上に穢れた生まれのものが王女などと、誰が認めるのでしょうか!」


周囲の嘲るような視線を受けてニエルドが怒りに震える中、私はユミルを見つめる。


ユミルが発言の許可を与えてくれたため、私は周囲に問いかけた。

「尋問官が穢れた仕事と申されましたが、フレイ様は数々の諸悪の根源を断ち切ってこられました。穢れを浄化するのに自らの手を汚すのを嫌っているような者が、果たして王にふさわしいと思われますか?」


ホッドが怒りをあらわにして私を怒鳴りつける。

「カイン公の家臣ごときが王の在り方を説くとは、なんという不敬な! それに、たとえ尋問官でなかったとしても、不貞の子供という穢れた生まれの者が王女などと認められるはずがない。」


私は微笑しながら首を振って、静かに答えた。

「ウエスタンの民とサウスの民達……そして隣国のヘカテイアはフレイ様が王女であることをお認めになるでしょう。私もあの方を王女として奉る者の一人です。」


その場にいる貴族達が、状況の悪さに騒めき始めた。


ホッドが怒りで深紅に染まった顔で私に向かって叫ぶ。

「黙れ、下郎! 下賤な者がいくら屁理屈をこねようが、正当な王太子が国を継ぐのが理というもの。誰か……この者を不敬罪で捕えるのだ。」


ユミルがホッドを窘めようとしたが、私はさらに言葉を続ける。

「ホッド様に一つお聞きしたいことがあります。貴方がもし王位を継いだとされた時、どのようにして民を導こうとされているか教えていただきたい。」


ホッドは呆れたような顔で私の問いに答える。

「私が王になるのは当然のことであり、貴族達も相応の働きをして国を動かしていくだろう。民は王の威光にひれ伏して我らを崇めていればよいのだ。」


私は静かに首を振って、彼を見据えて言い放った。

「民は無条件に王を慕うわけではございませぬ。王が真の王たる偉人であるからこそ、自ら進んで国の為に尽くすのです。ホッド様は暴君になりたいのでしょうか?」


ホッドは私に掴み掛らんとする勢いで怒鳴った。

「一体貴様は何者つもりだ! 自分が王にでもなったつもりか? 父上はこの様な下賤なものに好き放題に言わせていて何も感じないのですか? 余りにも我らを軽視しておりますぞ。」


ユミルが静かに首を振って周囲の者達へ告げる。

「今まで皆の者に伝えていなかったが、ガイ殿、そしてキキョウ殿は超越者だ。そして、ガイ殿は前の世界で天下を統一されて、国の半分近くを統治していた時期もあったそうだ。」


ホッドと貴族達が、信じられないものを見る目で私と桔梗を見つめていた。


ユミルは本当に残念そうな顔をして、ホッドを一瞥する。

「ホッドよ……私はバルデルの討伐の時に、自分で動こうとしなかったお前に失望していた。そして、ガイ殿が身命をかけてお前に諫言をした時に、お前は下賤な者だからと言って、話をまともに聞こうとしなかったな。」



――ホッドはユミルが何を言おうとしているのかを察した。


彼は玉座に駆け寄り、玉の錫杖を奪って必死に叫んだ。

「王の錫杖よ、お前ならわかってくれるはずだ! カイン公とそこの下賤なる者の二人、そして父上ですらお前をないがしろにした。だが、私なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ……だから頼む、俺を王に選んでくれ!」



その瞬間、ホッドの手に握られた錫杖が禍々しい光を放った。


貴族達がホッドに傅いて叫ぶ。

「ホッド様はついに王の錫杖に認められて、王位を継がれたのだ! 我らはホッド様に身命を賭して仕えます。」


ホッドは勝ち誇った笑みを浮かべてユミルへ向き直る。

「どうやら錫杖は私を選んだようです。父上は速やかに退いていただきましょうか。」


ユミルは玉座から立ち上がると、威厳のある顔で周囲のものを叱りつけた。

「愚か者め、王ではなく錫杖に仕えるとでもいうのか! お主らは王を自称するものは、民達から見放されると考えていたのではなかったのか?」


王の腕輪から強大な理力が放たれて、貴族達は思わず平伏した。



錫杖が怒り狂ったような音を立てて王を威嚇する。


ホッドは冷徹な笑みを浮かべてユミルに言い放つ。

「父上がどう足掻こうが、錫杖は私を選んだのです。もうここに貴方の居場所はありませぬ。自室に戻られて私の沙汰を待つことですな。」


広間に兵達が入って来てユミルを拘束しようとした為、私は前に進み出る。

そして、武器に理力を込めて広間の床を全力で叩き付けた。



地割れでも起こすような振動と轟音が広間に響き渡り、錫杖が怯えたように静かになる。


私は周囲の者達を威圧した。

「正式に王位を譲られてもおらぬ者の言を聞き、ユミル王に対して無礼な態度をとる者は誰だ! ガイとキキョウが王の剣としてそやつらを成敗してくれる。」


広間に居た者達が私の気迫に押されて動けなくなる中、ユミルは静かに立ち上がった。

「それでは、私は部屋に戻らせてもらおう。」


ホッドと貴族達は何かを言おうとしたが、あまりの恐怖に一言も発することもなく、私たちの背中を見送った。


 *


王の私室に戻った私と桔梗は、ユミルに傅いた。


私はユミルへ謝罪する。

「出過ぎた真似を致しました……王子に対する不敬、いかような罪に問われても仕方がないと考えております。」


ユミルは首を振って静かに言った。

「本来であれば、私がホッドに言わなければならなかったことなのだ……それを代わりに言ってくれたこと、感謝するぞ。」


そして、困った顔をして問いかける。

「それで、どのようにしてサウスへ脱出するのだ? 周囲は兵で囲まれておるぞ。」


私は笑みを浮かべる。

「セントラルは確かに堅牢ですが、一つだけ弱点がございます。」


ユミルが興味深そうな顔をする。

「ほう? それは後学のために是非とも聞かせてもらいたいものだ。」


私は白銀のマントを飛蝙蝠に変えて答えた。

「空を超えて城壁を突破するものが居なかったことです。」


ユミルは驚きに目を見開いた後、大笑いした。

「くっ…ハハハ、確かにそんな馬鹿げた手段でセントラルの城壁を突破するような者は、古今を問わずお前たちぐらいなものだ。私もそれに乗せてくれるということだな。」


私が静かに頷くと、ユミルは目を輝かせた。

「今まで、セントラルの景色はこの部屋から見るものが最高だと思っていたが、それを超える景色が見れるとなると、楽しみでしかたがないぞ。」



ユミルはニエルドに宰相と執務長の脱出を指示すると、私に問いかける。

「途中でセントラルの広場に寄り道をすることは可能かね?」


私は王の危険を考えて、ニエルドの方を見た。


ニエルドは苦笑しながら、私に告げる。

「恐らく王はセントラルを離れる前に民に声をかけたいのだろう。王の頼みを聞いてはくれぬだろうか。」


私は微笑して頷いた。

「確かに、ユミル王は民にとっての希望ですからね。セントラルを発つ前に民へ声をおかけになるのは、良いことだと思います。」


ユミル深く頷くと、ニエルドにもう一つ指示をした。

「すまないが、()()をサウスに持っていきたいのだが……頼めるか?」


ニエルドは静かに頷くと、宰相と執務長と共に静かに秘密の通路へ消えていった。


私はユミルと共に飛蝙蝠でバルコニーから飛び立った。

桔梗も私の後に続いて風に乗る。


ユミルが眼下に広がる光景を見て、感嘆の声を上げる。

「セントラルを空から見たら、このように見えるとは……おお! 人があんなにも小さく見える。ふふ、貴族どもが驚嘆した顔で、私達を見上げているようだ。」



私は笑みを浮かべながら、童心に返ったかのようにはしゃいでいるユミルを見た。


桔梗も微笑ましげな顔で王を見ている。


眼下に見える民達は、あまりにも非現実的な光景に驚いていたが、王の姿を見て歓声をあげた。

「王が空を飛んでおられる。」

「なんという奇跡を起こされたのだ……ユミル王万歳!」

「われらの未来は再び明るいものとなるだろう!」



セントラルの広場に私達が降り立つと、民達が王の周囲に集まってきた。


ユミルはすぐに威厳のある顔になって、民に向かって叫んだ。

「セントラルの民たちよ……私は王位を譲るべきものを見出した!」


民たちが驚く中、ユミルは言葉を続ける。

「我が娘、フレイの夫……サウス領主を務めているカイン公こそ、次代を託すに値する英雄だ。」


民達が騒然とする中、さらにユミルは語り続ける。

「私の不徳により、国を分けた戦になるやも知れぬ……だが、新たな王を連れて、再びセントラルに戻ってくることを許してくれるだろうか?」


広場の民の一人がユミルに傅いたのを皮切りに、ほとんどの者がそれに従った。


そして、皆が口を揃えて叫んだ。

「我らはユミル王に従いしセントラルの民……王が選びし新王と共に、セントラルへ帰還する時を心待ちにしております!」



広場の騒ぎを聞きつけた衛兵達が、民を掻き分けながら私達に迫ってきた。


ユミルは微笑しながら民達に優しく声をかける。

「さらばだ、我が愛する民たちよ……セントラルに栄光あれ。」



私達は風に乗って、広場から飛び立った。


衛兵達が弓で射掛けようとしたが、何処からともなく彼らに石が投げられる。


自分達の王に危害を加えようとした衛兵たちへ、民達が怒りの声をぶつけていく。

「王に向かってなんて不敬な!」

「この兵士を統率しているのは誰なのだ!」

「まさか……ホッド様なのか? なんという恐ろしいことを……」


衛兵達は、自分達が仕出かしたことの重大さに気づいて、逃げるようにその場から走り去る。



民達は、軽蔑した顔で衛兵たちを一瞥した後に、白銀に輝く蝙蝠となって空を駆ける王を、名残惜しそうに見続けるのだった。

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平和な世界で魔王軍と人間の共生のために奮闘するような形で書いていきたいと思っています。
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