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第五十六話 後はがっちりとこう……結ばれる訳だよ!

 とある平日の放課後。

 バイト先のコンビニにて。


 夕方のピーク時間が過ぎて一段落していた俺は同じシフトの石神井(しゃくじい)先輩と共に品出しをしていた。


「先輩、上の段は俺がやるんで大丈夫ですよ」

「いや、平気……ギリ届くから……っ!」

「その体勢で言われても説得力無いですからね」


 石神井先輩の身体はとても小さい。つま先立ちで片腕をピンと伸ばしながら全身を震わせる姿はまるでおつかいに苦労する小学生のようだ。

 少しだけ意地っ張りで健気な様子は見ているだけで和むが、年齢は俺より一つ上である事を忘れてはならない。先輩の顔を立てつつ上手にフォローしないと。


「ちょっとだけ……三センチくらいで届く……ひゅっ!」

「安全第一ですよ。脚立持ってきたんでこれで続きお願いしていいですか?」

「おお、助かる助かる。ありがとね!」


 先輩の意志を尊重すると共にコンプレックスを傷付けないサポート……これが優秀な後輩の立ち回りだぜ――と自画自賛はここまでにして。


 俺と同じ目線になった石神井先輩から放たれる感謝の笑顔に心癒されつつ、商品の荷出しを続ける。


「そういえば先輩……ファミレスのバイトの方はどうですか。調子良いですか?」

「んーばっちり快調だけどメインはコンビニ(こっち)だからね。シフトは入れ過ぎないようにしてるよ」

「なるほど。……あと田端は上手くやってます? 前見た時はミスしまくりでしたけど」

「うん、確かに最初の頃は皆に怒られてばかりだったし私も心配してたけど、今は普通に仕事を任せられるようになったよ」

「へぇー、飲み込みが速いな。流石は『完璧な男』だ」


 ロリコンという最大の汚点さえ除けば、だけど。


「田端くんってさ、凄く向上心があると思わない?」

「そうですか……ねぇ?」

「私も見習わなくちゃって思った所もあるんだけど……。例えば私が注意したら田端くんは素直に聞いてくれて改善点を見出してくれるの。そして同じミスは二度起こさないのも凄いと思うよ」

「なるほど。……それにしても先輩。やたら田端を褒めますね」


 あいつが真面目なのは石神井先輩がいるからですよ、と付け加えたい所をなんとか抑える。田端も田端なりに努力しているのは分かるし、俺が水を差すのは良くないだろうからな。


 ところが打って変わって、俺は先輩の様子に違和感を感じた。若干照れくさそうに田端の話をする姿。これはもしかして――


「そ、そうかなっ!? 全然贔屓(ひいき)なんてしてないからねっ!」

「は、はい……」

「別に特別扱いなんてことも……し、してないよ!?」


 もし俺の勘が的中しているとしたら、先輩は物凄く分かりやすい態度をしている。いつもより一段階高いトーンで若干の早口。慌てるような身振り手振りと紅潮した頬を見たらもう……。


 この人、田端が好きだろ――と考えるのはもはや自然の摂理では無いだろうか。


 とはいえ、必死に隠そうとする先輩の努力を無駄にする訳にもいかないので、()()な後輩である俺は相槌だけ打って知らないフリをする。


「分かりました。これからも田端(あいつ)の事……よろしく頼みます」


 しかし正直驚いた。まさか先輩からあの気持ち悪いロリコンに好意が向くとは思わなかった。まあ見た目は良い奴だし、田端の本性を知らなければ先輩が抱く心情は分からなくもないが、いざ付き合ってみたらドン引きするんじゃ……なんて考えるのは野暮か。部外者の俺にあれこれ口出す資格は無いしな。


「う、うん……! それより狭山くんの方はどうなの? 志賀郷さんとの関係は」

「変わらないですよ。ただの隣人です」

「またまたぁ。本当は付き合ってるとかじゃないの?」


 かなり強引に矛先をこちらへ向けてくる先輩。相当焦っていらっしゃるようだ。


「有り得ませんよ。俺なんかが志賀郷と……」

「うーん……。でも狭山くんは志賀郷さんが好きではないの?」

「そういう『好き』ではないと思いますよ。まあ嫌いじゃないですが」


 あくまで隣人として。クラスメイトとして友好関係でいられたら良いと思っていた。


 ……少し前までは。

 今は上手く言い表せないけれど、志賀郷と離れたくないという汚い欲が自分の心の中で垣間見える気がした。


 ただ、それが恋愛感情なのかは分からない。もしそうだとしても、恋というコスパ最悪の代物に貧乏人の俺が手を出す訳にはいかない。それが俺のポリシーなのだから。


「んー。じゃあこれだけは言っておくね。お姉さんからのありがたいアドバイスだよ!」

「は、はあ……」

「『好きな人の身分は気にするな』って事をよく覚えておいてね。志賀郷さんはすごーくお金持ちだけど……好きになるのは自由じゃん?」

「……まあそれだけなら仰る通りですけど」

「でしょー? んで、そしたら後はがっちりとこう……結ばれる訳だよ」


 めでたしめでたし、と両手でハートマークを作ってこちらに突き出す先輩。いや……色々と大事な展開をすっ飛ばしてませんかね?


「もしそんな簡単に恋人ができたら、そこら中リア充だらけになりませんか?」

「分かってないなあ狭山くんは。現実がそんな単純だったら面白くないでしょ」

「そうですか……。なら先輩も頑張ってくださいね。田端の家は結構な金持ちみたいですけど」

「なっ……! た、田端くんは今関係無いでしょう!?」


 途端に顔を赤くして動揺MAXな先輩はなんというか……分かりやすい。


「手が止まってしまいましたね。早く品出しを終わらせましょうか」

「う、うん、そうね。品出し品出し……」


 ボソボソと呟きながら商品棚に視線を向ける先輩を横目に、俺も番重(※)から荷物を取り出す作業を再開させる。



 もし……。万が一、俺が志賀郷と付き合いたいと思ったとしたらその後はどうなるのだろうか。先輩の言う通り、トントン拍子で事が進むのだろうか。


 でもそれには志賀郷が俺をどう思っているのかが重要になる。まさか嫌いとは思ってないだろうけど……異性として見てくれているのかは分からない。下手に告白して彼女の心を傷付けてしまったらトントン拍子どころか、今の和やかな関係も崩れてさよならバッドエンドになりかねない。それだけは避けたい。


 願わくば、今の日常がずっと続けば良いのに……。

(※)番重

主に食品業界で利用される、薄型の運搬容器の総称。by Wikipedia


休養から復帰しました、きり抹茶です。大変お待たせいたしました。

長い間更新していませんでしたので、以前からお読みいただいている読者様向けにキャラと舞台紹介を書いてみました。

私の作者ページから活動報告にアクセスいただくとご覧になれます。

きっと「田端……? こいつ誰だっけ」みたいになってるはずなので、ご活用いただければ幸いです。


次話は10月9日(土)投稿予定です。週一更新が続きます。よろしくお願いいたします。

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