表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/72

第十四話 今日は二人きり……だねっ!

 志賀郷のノーガードな寝顔から一日が始まり慌ただしく時が流れていき、今は放課後。


 この日は自宅最寄りの駅で志賀郷と別れ、俺は一人でとある場所に向かっていた。

 駅前の繁華街を抜けてから徒歩五分。郊外感漂う幹線道路を進んでいくと一軒のコンビニが見えてくる。ここが俺のバイト先なのだ。


「いらっしゃいま――あ、狭山くんおはよう〜」

「おはようございます、石神井(しゃくじい)先輩」


 店に入るなり、俺に営業スマイルではない天然スマイルを向けてきたのは、バイト先の先輩である石神井心夏(ここな)さんだ。客の入りが少なくて暇なのか、カウンター越しから手を振ってくれている。可愛い。


「そういえば今日、秋穂ちゃんは休みになってたけど狭山くん知ってる?」

「え、四谷は今日来ないんですか?」


 この店は基本的にアルバイト三名の体制で動いている。今日は俺と先輩と四谷のシフトだったのだが、一人欠けるとなると……仕事が増えて忙しくなりそうだな。


「家の用事があるらしくて来れないって連絡があったんだよ」

「マジすか……」

「だから今日は私と二人きりだね。……えへへ」


 自分で言ったくせに恥ずかしくなったのか、先輩は照れながら微笑んだ。この人は天然な性格らしく、捉え方によっては勘違いしてしまうような発言をよくするのだ。おまけにいつも天使のようなニコニコ笑顔を振りまいてくるので、先輩と出会った当初は「もしかして俺に気があるんじゃ……」等と思い違いをすることもしばしばあった。


 しかし先輩の体型は小柄で幼く、まるで中学生のような見た目をしているので、恋愛対象というよりは我が子を暖かく見守る親のような心情に近い。以前、四谷が石神井先輩のことを『歩くアロマ』と例えていたが、あれは中々的を得ていると思う。要するに先輩はこのコンビニの癒やしキャラなのだ。


「あんまりからかわないでくださいよ。俺は平気ですけど調子に乗る男もいますから。言い方には気を付けてくださいね」


 特に一部のロリコン――イケメンの馬鹿(田端)には要注意だ。あいつは危険すぎる。


「もう、私だって人を選んでるし大丈夫だよ? それに、私が困ったら狭山くんはきっと助けてくれると思うもん」

「あの、先輩…………そういうとこですよ」


 これも無自覚で言ってるのだから石神井先輩は恐ろしい。でももしかしたら本当に俺の事が……? って考えるのはやめよう。俺まで田端みたいな人間になってしまう。


 俺は苦笑いを浮かべつつ、カウンターの奥にある事務所に入っていった。



 ◆



「暇だねぇ……」

「ですね……」


 業務開始から約二時間。今日は客足が全く伸びず、品出し等の仕事は既に終えてしまった為することが無いのである。


 俺と石神井先輩はそれぞれのレジの前に立ってぼんやりと店内を見つめていた。


「フェイスアップする……?」

「さっきしたばっかですよ。全部綺麗に整えました」

「だよねぇ……。じゃあCG(※)切っておく?」

「お客さんが来ないから切れるお金が無いですよ」


 ガラガラとレジのドロアーを開ける。中身は適量だ。一万円札も全て金庫に入れたし完璧である。


「……暇だし、狭山くんに質問してもいい?」

「え、別に構わないですけど」


 振り向けば、悪戯気に笑う石神井先輩がいた。


「狭山くんって昨日とか一昨日辺りに……彼女できたりした?」

「え、えぇ!?」


 まさか俺と志賀郷が一緒にいる姿を見たのだろうか。それとも四谷が嘘八百の情報を流したか……。いずれにせよ面倒な事態である。


「……どうしてそう思ったんですか?」

「だって今日の狭山くん、なんだか楽しそうな顔をしてるんだもん。今までよりも何て言うか……リア充してるって感じ?」

「そうですか。でも残念ですが、俺は未だに非リアですけどね」


 自嘲気味に笑う。どうやら石神井先輩は俺の表情だけで判断していたようだ。しかし俺は今日も普段通りの仕事をしたつもりだし、浮かれたような態度をとった覚えも無いのだが……。


「うーん。私の読みは外れちゃったのかなー。でもさ、私に何か隠してる事はあるでしょ?」

「いや、隠し事なんて無いっすよ」

「狭山くん。君はいま嘘をついてる顔をしているね。あからさまに目を逸らしたし」


 お互いの制服が擦れ合うぐらいまで距離を詰めた石神井先輩が真っ直ぐ立てた人差し指を俺の頬に当ててくる。細くて小さな指だな……じゃなくて。俺の細かくて小さな癖まで熟知してる石神井先輩からは逃れられないようだ。


「……黙秘権を行使します」

「そんな権利は狭山くんに無いのだよ」

「ですよねー」


 見た目こそ中学生だが、石神井先輩は俺より一つ年上だし、バイト歴も長い上司だ。歩くアロマとはいえ、闇雲に逆らえない存在なのである。


「さあさあお姉さんである私に話してみなさいな」

「はぁ、こういう時に客が来ないのは何故ですかね……」


 逆に休みたい時に限ってレジに行列が出来たりするんだよな。

 俺は小さく溜め息をついてから、志賀郷との厄介な関係について話すことにした。

※Cash Guardの略。大量の現金をレジに保管する必要は無いため、一定金額に達するとレジから回収するようにお知らせしてくれるのだ。諭吉様はできるだけ早くお家(金庫)に帰してあげよう!


※次話は2/23(日)投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品が面白いと思った方。以下のランキングサイトへの投票協力を是非お願いします!
ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング

● 他作品のご案内 ●
ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか
幼馴染のロリJKに振り回される学園ラブコメディ。
甘酸っぱい恋の行く末を是非ご覧ください。完結済み小説です。

従妹に懐かれすぎてる件
甘い、甘すぎるぞぉ!
天然な従妹と二人暮らしをするちょっぴりエッチな日常系ラブコメディ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ