山梨県
山梨県に越した人があり、車にガソリンを足して、会いに行ってみた。
私はきっとメロドラマ的な快楽に飢えているのだろう。
その朝はニビ色の雲を流していて、晴れやかな気分とはなりがたかった。
私は初めて恋をしたのがこんな朝だったことを何となく思い出した。
現在の山梨県は霧に囲まれている。ニュースにその様に出ていた。だから気をつけなくてはならない。
高速道路で、安価とは言えない額のお金を支払う。するとサイフは空とまで勿論いかないけれども、さびしく寒いものになってしまった。
高速道路を降りると、ヤギが白く並んでいた。
なので、これ以上は車では行けない。
轢いて、殺してしまうだろう。
可哀想だし、あたりが血で赤くなるだろう。
私は歩くことにした。銀のシューズを履いて。それは月の様に輝く。踏みしめるたび、たんび、たんび、たびに山梨県の道も呼応してピカピカと光ってくれた。
なんだか有り難く、いつまでも歩いていたいなと思ったけれど、みるみる足は進み、目的の場所についた。
なぜか、あれだけニュースに出ていた霧には出会わなかった。
こんにちは、ではなくて、こんばんは、の時間だ。既に。
私は
こんばんは
と威勢よく声を掛けてみたが、返事は無かった。
会いに行ってみても、そこにはもう人がいなかったのだ。
私は私に向けて、この住所から手紙を書くことにした。
そのためのテーブル、ペン、といった一揃いがあり、私のための物の様にそれらは手に馴染むのだった。
ここに引っ越そうかな、と少し考えた瞬間だった。




