小人たちとブルーハーツ
キッチン流しの傍ら、ステンレスの小さな銀色平原、
―に。
ドーム状の室が家並みを成しており、其れらには琥珀色の小人が住まっているのだ。ちょうど菌類がコロニーを作るのと相似している。
母が点鬼簿に入り、情婦とも縁が薄くなったら、寂しさの所為か―
そうした幻視が、定在的に現前する様になったのだ。
二十か三十くらいの集解であるドームらは、円蓋の輪郭を霞ませている。
隈を作る様に外縁部がミスト化している―
―という様子はいささかアニメーションじみている。
ボンヤリと幽けき様子であって、色調はやはり小人の固有色と並び、琥珀。
虚構存在に現実感云々と取り沙汰するのも可笑しな話だが、どちらかと言うと『現実感をあまり伴わない幻視』だろうか。
結像点がズレている感じと言えば良いか。
―いや、―
老眼でモノを見た様と言うと平たくなるか。
―また、―
なにか機械的に手を振り足を動かして循環運動を続ける小人らは、目鼻に表情という物を漂わせない。
だが皆、私が出会ってきた人々らと何処となしに似ているのは、私自身の無意識から引き出された幻影だからだろう。
母に似た小人もあり。情人の宙子に似たのもあり。
―私に似たのさえある。
驚くべき事に、小人同士で性交さえ演じるのである。
無闇な探究心からドームの内部を虫眼鏡で覗いたら、『私』と『宙子』がまぐわっているのを発見した。
私自身の前意識が忘却している事も、無意識のほうは覚えているらしく、―
―入院中の病棟で、人生をすれ違った、
同病の仲間、医師や看護師、作業療法士、なども首を揃えているのだから面白い。
面白いと同時に、少々センチメンタルな気分に浸った。
酒は不思議ともう欲しくない。女も良いやという感じがする。
―もうじき私も通院日だ。―菓子でも土産に持って、未だ入院中の仲間に面会でもしようか。
舶来絵本のリサとガスパールが好きな女の子も居たけれど、彼女は未だ入院しているろうか。―しばしば隔離室にまで入っていた娘だったけれども。
私はまず、主治医に対して、先日の飲酒行為を何う釈明するか、申し開きのほどを煎じだしたのである。
―思案橋のBGMとしては、ブルーハーツの『スティック・アウト』や、彼らのファーストアルバムを流しておく。
―夢、旅人、台風、と名ナンバーが目白押しなのだ。
―其うし乍ら、茫洋と小人の蝟集を見つめていたが、やはり其れは茫洋とするばかりであった。
『ダンスナンバー』が掛かれど、小人たちが踊ることは無かった。




