表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/57

キリコ




 キリコの名画、『通りの憂愁と神秘』には、逆光のために形象(すがた)のいっさいを真っ黒に塗り潰された少女が現前している。


あの少女が(こわ)い。―、しかし怕いという字は、どうしてこう『こわい』のだろう。心に白と書いて、こわい。色彩を欠き落とす瞬間をとらえた語彙(ごい)と言うわけであろうか。唸らざるを得ないな。


 其れは蛇足だが。


 白であれ黒であれ。


 一色に染まってしまった存在体と言うのは、例えば理神(りしん)の神への其れめいた畏怖心を惹起(じゃっき)するに相違ない。


 そんな事を考えながら、私は廃屋のそばを歩んだ。なにを()るわけでもない。ただ歩んだ。歩んでいた。ひねもす数字をいじくっていると、生計(たつき)とは言え、イヤになるのだ。


アタマを空っぽにする為、私は淋しい通りを選んで歩く。


丁度。『通りの憂愁と神秘』という画題におあつらえ向きの『通り』ではある―、と(おも)うと、少し可笑しい。実際、しばらく振りで破顔(わら)ったかもしれない。


そう思惟し、顔を確かめようと破れ()のくすんだ窓ガラスを鏡にする。


そうしたら、向こうから覗く顔があった。


其れは少女の顔だったが、非常に奇妙な形態をしていた。


族種としては、其れは人間なのか、果たして。


真っ黒に塗り潰されたかの闇に沈む相貌。


其処には在るべき眼球が無くて、ただ皮膚がのっぺり眼窩を(ふさ)いでいた―、


そうして、脣と言えない様な暗黒にて、ひたひたと破顔(わら)っていたのだ。


私は嘔吐した。


地肌に(ぬめ)るその吐瀉物は、まるで人の臓器が()したものでは無い様に、白一色にかがやいていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ