犬のペリー
犬の名はペリーと言い、黒船のペリーから付けた。
妹が付けたのだ。私の妹は少し変わっている。
黒船だから黒いだろうというと其んな事はなく、草色をしている。
犬の被毛が緑というのは珍しい。私もペリー以外で見た事はない。―
―が、
生来、緑だったかとなると違い、段々に帯緑していったのだ。はじめは普通な茶色と白のブチ模様であった。
だから普通な犬だろうと判じ、其処いらのコンビニだのペット屋だので購入したドッグフードを上げていた―、
―が。
筋骨たくましくなると、食べなくなったのだ。
病気だろうと訝しめど、比較的に元気であるし。
(また獣毛は、植物みたいな固有色に変化しだした。ブチが褪せはじめた。茶色はゆっくり緑がかり、白い部分は其れより早く浸蝕された。)
其れにしても食物を摂取しないのは心配だけれど、妹は落ち着いた様子で此う宣った―、
―もしかしたら此の仔は妖精かもしれないね、兄さん。
私の妹は少し変わっている。
―妖精であるなら、蝋燭を食べるはずだわ。石鹸やら。
其んな話を聞いたことがない。だが小学校だと其んなファンタジーやらマンガやらが流行っているのかもしれない。
とは言え。
其んな物を食べさしたら死んでしまうのは明白。―窘めると、―妹は非常に悲しそうな顔をした。私は胸が痛くなった。
―他の物をあげるわ。魔法のゴハンを。
悲しんだ側から、こみ上げ笑いをする妹。
頬に笑みを貼りつけたまんま、さくさく玄関を出るなり、―何処かへ転く様に行ってしまうのだった。―
―やがてして。
切り取った様な『青空』を、妹は持ち帰ったのだ。
其うだった。彼の日は良く晴れていた。
キューブ状の青空だった。内部には白い雲が浮いていて、各切断面には清らかな露がふるふる繊く揺れていたのだった。
妹は小さな両の掌に懸命に載っけて、蒼穹を持ち帰ったのだ。―妹自身も露まみれの立方体と一緒に仲良く、―揃いで汗びっしょりであった。
しばらく何にも口にしていなかったのだから、空腹だったろう―、
―犬はぺろりと舌舐めずりをひとつ。
あっという間に空を餐んでしまった。
其れからは、妹がペリーの給餌係である。私には青空なんて獲れないから。
まったく。
ペリーも妹も少し変わっている。
或る夕方は、相撲の件でも驚かされた。
居間でテレビを観ていたら、さっきまで一緒に居た妹もペリーも忽然と姿を消していて、―
次の瞬間、テレビモニターの土俵には。
―まわしを付けたペリーと、ジャージ姿の妹が映り、―
―嬉々と立ち合い戯れるのだった。―
ペリーも妹も少し変わっているのだ。
本当に、実に。




