表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/57

保険証と哄笑発作




 保険証を財布から取り出すと、刻まれているのは私の名前ではない。


―何処かで取り違えたのか。


慌てながら触れてみた口元には髭があり、女の私の物ではなかった。


鏡を見てみる。


知らない男が笑っている―


、獣の様に。


狂気は()の様にやって来るのだろうか―


、だが。


だけれど、おそろしさを包み隠して。


()()りで靴を履いて外に出てみる。


何かを(ふる)い落とす様に肉体を動かす私。


()の私を裏切る様に靴は私の物ではない。


ブカブカで、ガサガサと、慣れないスニーカー。


ヒールの方がまだ歩きやすいだろう―、


と。


蹌踉(そうろう)としていると女の背中が舗装路に見えた。


見覚えのある背中だから―、


声を掛ける。


振り返る。


其の(ひと)は私の顔をしていた。―


戦慄するばかり。


言葉を(うしな)い、私は震えた。


久しぶりに過呼吸発作を起こしかけた。


だけれど、鏡の前同様、真実には笑っているのだ。


男の私の哄笑が鼓膜を(つんざ)く。


若い女の『私』は怪訝な面持ちをしたし、―


()うして気味悪そうに場を去ろうとするばかりであった。


(のが)すまいと()()()()()を取ると―


仕舞いには悲鳴を上げるので―


(いさ)めようとしたら勢いが余り―


、私は私を絞殺(あやめ)てしまうのだった。


()うして()うなったのだろう。


髭を生やした私は立ち尽くしているのだ。


私の死骸を見下ろしながら。


笑いながら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ