46/57
雨が集る
蟻が集る―
という表現はあるが、
―雨粒が集る―、
という表現はない。
だけれど、今、其の様に成っているのだ。
私が緑地の舗装路を逍歩していると、雨が降ってきた。
はじめは細雨だったけども、雨滴が丸こくなり―、
此れも可笑しな表現だが、其れら雨粒一つ一つに、動物的な『毛』が生えている様な心持ちがする。
―幸いにも撥水性の生地をしたアーミーを着ていたから、―
手の甲のあたり、頬や唇に触れるのが不快なくらいであったが。
―だが。
私の全細胞が不意に悲鳴を上げて、鳥肌を粟立てるのである。
全ての雨粒に私の姿が映っているが、其の全ての私が爆ぜながら夥しく死んでいく―、
ことを深く感取したから。
―克つ。
雨は一粒一粒が少女の踵の形状をしているのだ。
毛の生えた踵である。
其の毛は棘ばり、悪魔の皮膚のごとく美しく透けている次第なのである。
私は今、蕃神に捧げられた贄なのである。
―私は昏倒した。
冷雨は何時までもいつまでも路上の心臓を冰やしていた。




