人獣
出社拒否も四日目である。
昔、虐められていた頃に登校拒否を繰り返した日々があったけれども、きっと瓜二つだった。
但し、人間の記憶のメカニズムとは不可思議なものであって、あんまりにも艱難だと、避弾傾斜をもちいる装甲車の様に、―
―思い出自体を溷濁さしてしまうらしい。
盾に隠れた内部構造という訳であろう。
私は十代の頃のことを殆ど記憶していない。
私はおそらく惰弱な人間だが。
現実社会と言う硝子瓶も大概ヒビだらけなのであろう。当たり前だ。選り分けて、選り分けて、人間という族種繁栄のために有利な生体を封入しているうちに。
擦り減り、錬磨というより消耗していくのであろうから。
其んな具合に観念と同居し、観念と溶け合っていく様な日である。
―其の四日目。私は自身でも不可解な行動に走りはじめた。
―裸で外を歩きたくなったのだ。
満身に隈なく刺青を施した人間に憧れるのは、存在を観念の中に埋めてしまっている態度からだろう。―
やはり避弾傾斜の属目としての刺青。いや―、
賭している、と言った方が良いのか。
肉体を賭している。捧げている。
―が、何に?―、
―またぞろ観念的な思惟を循環させつつ、服を着ない私は扉を開いた。
私は女だが、無用心も気にせずアパートの一階に住まっている。
踏み出すと外界に直ぐに接続するのだ。
―四日ぶりに確かな気分で浴びてみた外気。
陽光。
明るく、其うして冷たく、くすぐったかった。
孵卵したばかりの生物が此んなだろうか?
―不思議なことに、私が其の後、人間に出会う機会は二度と二度と無かった。




