跨線橋
―カフカの様な言霊を、と大それた事を念じながら、
―跨線橋のとば口に身を進めた。
鋼鉄の構造物に虧月が光を降らしている。
何か月の明るい辺にダイダロスみたいな神が歩くのを幻覚た。
いや『幻覚した』。
感覚が鋭敏になっている―、
―今日は施設に行ったけれど、預けている母は肺炎を起こしていた。
抗生剤や栄養物の点滴チューブを皮膚下につなぎながら、母は本当は何を思っているのだろうか。
ベッドに白い紐で手脚の拘束を受けていたし―、
おまけにグローブ状の『ミトン』をしていたが。
まあ然し今日は昏々としていた。
はっきりしているより幸せかもしれない。―
意識のない体の爪を切ると、半年前より更に薄く、脆く感ぜられた。
其れがさびしく、ロビーの自動販売機でやたらと缶珈琲を買い、腹を水膨れにした一日だった。
他に何をした訳でもないのに、―帰りは此んな遅くなってしまった。
ブックオフが開いていたら、漫画の『鬼滅の刃』を選ってみよう等と考えていたけれど、其れも無理である。
私はスマホを操作してみる。こつこつと鈍色の階段を昇りながら。
投稿をつづけている―、
流行りの素人文芸サイトがあり、
―其処に本日の寂寥の感覚を寄せようと―
鏤刻をこころみた。
けれど、なんの呪句も文言も浮かばない。
なにか自棄に悲しくなった。
さびついた悲しい気持ちを曳航式に引きずりながら、私は下の階段に差し掛かった。
降ったさきに家系の脂こいラーメン屋があるので、
―せめて腹を橙いろに明るむくらい、―
いっぱいにして暖まってやろう、と目算したのだ。
―が。
其処には『何も、無かった』。
真っ暗な奈落の様な深潭が口をひろげていた。
振り返ってみるが、其方も八幡の闇であった。
―ただ。
頭上に虧月ばかりが、―爽やいでいる。




