表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/57

女子中学生と肉体の悪魔




 濃紺のブレザーのスカートや、


―純白のブラウス。奥に在るのは、雛鳥のそれ。


―薄くしかない心臓を覆う皮膚を、


―おじさんは、熱い視線で舐めてくるのね。


()うやら、ロリコンみたい。


電車で居合わせたおじさんは。


私を飢えた(ライオン)みたいな目で見つめてくるのだ。


髪の毛もライオンの様に赤黄色く脱色していた。


香水が(くさ)い。


首にはフェイクゴールドの喜平(きへい)チェーン。


銀色のいかついロザリオ。


視線を紛らわす様に文庫本を読んでいて、それはレーモン・ラディゲの『肉体の悪魔』―


―私だって知ってる、フリン小説だそれ―


―であるのが全体の雰囲気に不似合いで、―


なにか。


―おじさんの全貌としてはカオスに()っている。


私は、おじさんに擦り寄り、身をくっつける様にすると、


熱された生クリームみたいな言葉を告げた。


耳打ちした途端に、おじさんは私にとっての傀儡(くぐつ)


脳味噌の無いライオンに変わり、私に誘導されるまま。


電車を降りたら、ひとけの無い、ビルとビルのはざまの隘路(あいろ)―、


其処(そこ)までヒョコヒョコ着いてきたのだ。


多少は警戒しているらしくて、周囲に探りの目を投げていた。おやじがり、みたいのを想像しているのか。


またはお金をせびられるとでも。


其処で私は言うのだ。何時(いつ)もの通り。


―ねえ、おじさま。此処(ここ)は粘膜の底みたいね、狭くて、暗くて。―


―暑くて。熱くて。(かわ)を脱ぎたいぐらいに。―


私は濃紺や白の装いを剥ぎ取り、裸の白猫に()る。


あまりの過善(かぜん)に至ると、人間というのは恍惚ではなく憂虞(ゆうぐ)の表情を浮かべるものらしい。


今回のライオンさんも其の様になった。


私は淀みなく言葉を紡ぐ。


―ねえ、おじさま。でもね、此処。粘膜というより、矢張(やは)り本当は地獄の底みたいじゃない、―


―狭くて、暗くて、熱くて。皮膚(かわ)を脱ぎたいぐらいに。―


私はあっという間に剛毛()を被毛し、首狩り鎌の様な爪を(あらわ)す。


其うして、愚物(ぐぶつ)を咬合する為の、


牙。


其れを剥き出しにするのだ。


月の(はだえ)の色にかがよう(つめ)たい牙を。


―後にはただ血塗れの『肉体の悪魔』が一冊、落魚(おちうお)みたいに夜気を浴びるばかりである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ