女子中学生と肉体の悪魔
濃紺のブレザーのスカートや、
―純白のブラウス。奥に在るのは、雛鳥のそれ。
―薄くしかない心臓を覆う皮膚を、
―おじさんは、熱い視線で舐めてくるのね。
何うやら、ロリコンみたい。
電車で居合わせたおじさんは。
私を飢えた獣みたいな目で見つめてくるのだ。
髪の毛もライオンの様に赤黄色く脱色していた。
香水が臭い。
首にはフェイクゴールドの喜平チェーン。
銀色のいかついロザリオ。
視線を紛らわす様に文庫本を読んでいて、それはレーモン・ラディゲの『肉体の悪魔』―
―私だって知ってる、フリン小説だそれ―
―であるのが全体の雰囲気に不似合いで、―
なにか。
―おじさんの全貌としてはカオスに成っている。
私は、おじさんに擦り寄り、身をくっつける様にすると、
熱された生クリームみたいな言葉を告げた。
耳打ちした途端に、おじさんは私にとっての傀儡。
脳味噌の無いライオンに変わり、私に誘導されるまま。
電車を降りたら、ひとけの無い、ビルとビルのはざまの隘路―、
其処までヒョコヒョコ着いてきたのだ。
多少は警戒しているらしくて、周囲に探りの目を投げていた。おやじがり、みたいのを想像しているのか。
またはお金をせびられるとでも。
其処で私は言うのだ。何時もの通り。
―ねえ、おじさま。此処は粘膜の底みたいね、狭くて、暗くて。―
―暑くて。熱くて。服を脱ぎたいぐらいに。―
私は濃紺や白の装いを剥ぎ取り、裸の白猫に成る。
あまりの過善に至ると、人間というのは恍惚ではなく憂虞の表情を浮かべるものらしい。
今回のライオンさんも其の様になった。
私は淀みなく言葉を紡ぐ。
―ねえ、おじさま。でもね、此処。粘膜というより、矢張り本当は地獄の底みたいじゃない、―
―狭くて、暗くて、熱くて。皮膚を脱ぎたいぐらいに。―
私はあっという間に剛毛を被毛し、首狩り鎌の様な爪を顕す。
其うして、愚物を咬合する為の、
牙。
其れを剥き出しにするのだ。
月の膚の色にかがよう冰たい牙を。
―後にはただ血塗れの『肉体の悪魔』が一冊、落魚みたいに夜気を浴びるばかりである。




