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鉄の繭
夜のマンホールの蓋を見ると―
、下に何が広がっているんだろう―
、地面や世界は何を包み隠しているんだろう―
、其う想像する。
だけれど私は下ばかり向いて歩いているんだろうか。
だから其んな物ばかりが目につくのか。
駅からアパートへ帰る、短い道のりの間に、私は背の曲がった老婆に成ってしまったろうか。
反芻や煩悶、慚愧、といった情緒が去来する。
しかし其れもまた韜晦でしかない。
感情と言う螺旋形のオモチャを手遊びしながら、時間を食い潰していくばかりである。私の『日々』は。
鉄の繭があり。
其の繭がむしろ私である。
涙が何うしても流れた。
やがてして、アパートにたどり着いたら、飼い猫が死んでいた。
今朝まで元気だったのに。
私は剃刀を捜した。心療内科で貰った睡眠導入剤も。
バスタブにお湯を張り、子供の頃に聴いていた子守唄を歌いながら、猫を抱えた。
降りだしたばかりの雪の様に冷たいのだった。
白い新雪を想像しながら、私は服を脱いで―
、一緒にお風呂に浸かった。
雪は溶けてしまうだろうか。
同じ夜、私は亡くなった。




