蛭
非常に肥った蛭が、木間に見える。
緑陰に散る陽光を綾羅、其れは美しい存在体にさえ感取られた。
黄色な肉体、艶をながした、照をながした其れは、さながら地の天女でもあろう。
川端康成の文章なんかだと、意外に、蛭、というのが美質の象徴だったりするけれども、首肯できるなあ。
外来の診察を待つあいだ、私はボンヤリと其んな事象に耽るのだ。
同行の夫は優しいので、私の代わりに待ち合いで座っていてくれている。申し訳ない様なものだが。甘えて身を遊ばしているのだった。
なかなか呼ばれないので、焦れる気持ちも現れてきた処、夫も同じ様に思えたのか、少し所在なさそうに私の傍に現れた。
眼鏡の奥の目を、まるくした。
蛭が眼に入ったのだろう。
私の名を呼び、其れから、
―こんな大っきな蛭を僕は見たことがないなあ、君は見た事あるかい。
と、さらにお皿の目にしているのが可笑しい。
―綺麗なものだね、これっくらいに成ると。
と、なにやら首を捻り、間。
―ねえ、君、コイツは味はどんなだろう、味もやはし、美しいのかしら。
と、探求癖が頭をのぞかせ始めた。
其れから、華やいだ表情を飾り、言うのだ。
―君、コイツを食って確かめてくれないか。
抗える筈はない。
私はキラキラと光や翳、いっしょくたに纏う蛭を。
ついと摘むや、口に入れた。