こわい
ファミレスで立ち聞き―、いや、座り聞きと称するべきか、まあ拾い聞いた話である。
私がバジリコの効いたパスタを食べていると、黄色い声が背後で騒めいた。泉の様にである。
語呂の良い事に黄泉となるから、お誂え向きだ。
隣のシートに女子高校生が三人腰掛けていて、其の中の一人の子が言うのだった。
―こないださ、マジで怖えぇ話、聞いたんだけど、―
と。ひんやりと切り出されたのは、以下の様な事象。
誰も居ない黄昏。
若しくは夜中、の教室。(此のあたりの時刻背景は瞭然としないらしい。)
夜としておこうか。
闇に沈む黒板がある。
其の下辺には、白墨が数本、蟠っている。
音もなく。
其の白墨の一本が、ふわ、と浮かび上がり、人の手に把持されている様に此う板書くのだ。
―こわい。
と。
―其れだけの話で、他愛も無い。怖いという程の事も無い。聞き耳を立てた時間が無駄だ。莫迦らしいので、会計に席を立つ。
其の刹那、臨席の女の子らが目に入ったのだが。
彼女ら、幼いくらいの真っ白な腕が六本、机上に並んでいる。
良く良く見ると、其の腕すべてに細かい皺の様なものがビッシリと走っている。
いや―、更に見れば、其れは『傷』なのだ。細い細い傷が、寄生虫のごとく絡みついている。『針』の様なもので象り刻むのか。つまりは皆が皆、自傷癖を持っているのか。
瘡蓋まじりでもあり、不気味に痛々しい。
其うして私の眼は気付くのだった。
其れら引っ掻き傷は、こんな文字を成している。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい―
慄然とした私を見て、三人が示し合わせた様に、笑う。




