魔法鳩
公園に行く。
冬の鳩が居るのだけれど、遠景のうちは爾としなかったものの、グレイがかった芝のエリアの細々が明らかになるにつれて、翼、胴、頭部、などディテールが瞭然としてくる。
『其れ』が『鳩』ではない事に私の眼は気づき始めるのだ。
齧歯類めいた貌を持つ生き物は、人間の子どもの指の様な物をクチャクチャと食んでいる。
飛膜があり有翼なのは確かだが、今まで眼にした生命体のどんな器官にも似ていない翅で、むしろ水晶と言った族種の鉱物に類似していた。透過性をそなえ、朝まだきの光陽にキラキラとハレーションをしているのだった。
丸々した胴体には魚鱗じみた表在組織。
其れが一体では無くて、不整円を描き、ざっと十ぐらい蝟集しているだろうか。
非常に不思議な事に、此の近距離になるまで(『鳩』らの細部が瞰られる程なのである、)私には察知できなかったのだけれど。
生物のなす不整円の中心部には、人物が存在して、謂わゆる『餌付け』の様な行為をおこなっていた。
人物はひとりではなく二名で、背格好からして二人組の少女の様である。
彼女らは一糸もまとっていず、よくよく瞻るに、其の細っそりした肢体に粉の質感があった。
真っ黒な粉料で、皮膚というキャンバスに斑灰を生起させている。
けたたましく笑う表情をみせるのだが、だけれど実際音としては静寂という他なく、声音と言うものを持さない存在に思えた。
『餌付け』の要領でなにがしか投擲げている。然し、其の手には指というものが一、二本くらいしか所在していないのだ。いや。さっきまで在ったのだろう。抉れた様な断端部から赤い液汁が滴っているのだから。
其れは血液であろうはずなのに、何故かルビーを連想させた。
私は次に彼女らが抛っているものの正体を具にして、愕とするのだった。
彼女らは、其れは自身のものであろうか、『指』を投じていたのだ。
或いは、次から次へと、素早い植物類の様に聳起してくる指かもしれない。
私は物も言わずに踵を返した。
汗びっしょり、引きかえす道すがら、疲れた眼には公園のバスケットコートが映じたが、何か子どもがそうした様な『魔方陣』の幾何学模様が、缶スプレーの白と赤で描き殴られていた。




