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じい、っと見つめる青い目を見れば、自分の浅ましい考えが全て暴かれ、軽蔑されてしまう。
そんな恐怖が、ふとサージャを襲った。
気が付けば、顎にあったギルスの手を払い除けていた。
顔を背けて、逃げ出していた。
そんなサージャの右手を、ギルスが掴む。
そのまま、ぎゅっと、後ろから抱き締められる。
「俺に隠せると、俺から逃げられるとお思いか?」
「・・・くっ」
涙がボロボロと、零れ落ちた。
見られたくなくて、ギルスの手の中から逃れようと暴れると、くるりと体をひっくり返された。
胸に顔を押し付けるような形で、再び抱き締められる。
右腕で両腕を抑えられ、左腕で頭を抱えられる。
「言え、サージャ。全部聞くから」
耳元でそっと、そんな風に優しく言われれば、もう堪えられなかった。
「う、ぐっ・・・」
ギルスの胸に顔を押し付けて、サージは泣いた。
声を堪えて、唯々大量の涙を流した。
ギルスは落ち着くまで、ずっとサージャの髪を撫で続けた。
※ ※ ※
「・・・もういい。大丈夫だ」
サージャはそっと、ギルスの胸を押し返した。
ギルスはその拘束をほどく。
「とりあえず、座りますか」
二人は隣り合わせで座った。
荷物の中からタオルを出し、サージャに渡す。
「・・・すまん」
サージャは受け取り、顔を拭った。
ふう。っとため息を一つ。
「・・・その、悪かった。お前の気持ちに、付け入るような真似をした」
「わかってますよ。そういう時のサージャ様を知ってますから」
言って、ギルスはサージャの肩に手を伸ばす。
「じゃなきゃ、気が付きませんでしたよ?襲っちゃいましたよ?」
笑いながら肩を抱き寄せた。
「それで怖気づいた私が、お前を殴るんだな。なんだ、いつもの事か」
「そうです。いつもの事です」
笑いながら、サージャはギルスの胸に頭を預ける。
いつもとは違うこともある。怖気づかない。サージャはギルスを殴らない。
心が弱っている。今のサージャはギルス以外頼れない。
それでも、サージャはギルスに聞かなければならないと思った。
「ギルス」
「なんでしょう?」
「これを聞いたら、お前、死ぬまで私から離れられないかもしれないが、良いか?」
「今更ですね。死ぬまで離れる気はありませんし、出来るなら死んでからも離れたくないですね」
「・・・私もな、お前に死なれたら、多分もう、生きていけない」
思わずギルスはサージャを見た。
見上げるサージャと目が合った。
照れたように、サージャが目線を外す。
「・・・狡いな、私は。これを知ったら、お前は私から離れてしまうかもしれないと思った。いや、私が、お前を手放さなければいけないと、そう思った」
「でも、その、もしかして、離れたくないと、思って頂けたのでしょうか・・・?」
ギルスの心臓がバクバクした。
まじまじとサージャを見てしまう。
そんな風に思ってもらったことが、今まであっただろうか。
いいや、無い。一方的にギルスが追いかけていただけだ。
「ああ。うん・・・リズの宿屋でな、私が死にかけて、お前が泣いてるのを見たらな・・・なんというか、離れたくない、というか・・・その、置いて行かれたくない、と。そう思ってしまってな・・・」
サージャは次第に顔を赤くして、仕舞には俯いてしまった。
ギルスの右手に力がこもる。
サージャははっとして、顔を上げた。
「サージャ様。もしかして。サージャ様を頂戴しても、よろしいのでしょうか」
目が。ギルスの目が。爛々と輝いていた。
サージャの顔は、真っ赤に染まる。
口がパクパクと開閉するが、言葉にならない。
ギルスの左手が、サージャの頬に触れる。
「大丈夫です、サージャ様。誠心誠意、このギルスがエスコートさせて頂きます」
キラリ。と歯が輝く笑みを向け、右手が背に回される。
徐々に近づくギルスの顔。
サージャはギュッと目を瞑り―――。
右手を拳で突き出した。
「ぐはっ!」
拳は鳩尾に埋まり、ギルスの体は二つに折れた。
彼女の拳は暗殺の拳。見事に急所に突き刺さった。
ギルスは起き上がれない。
「だから!それをしたらいけないから!話を先にするんじゃないか!!」
サージャは、顔を真っ赤にして仁王立ち。ギルスに指を突き付けて、涙目でプルプルしていた。
「そう、でした・・・」
ぱったりとギルスの手が落ちて、サージャははっとする。
「わああ!すまん!ギルス!」
わたわたと近づいて、ギルスを仰向けに転がすと、急いで回復薬(小)を飲ませた。
怖気づくサージャと、殴られるギルス。
いつもの事だった。
※ ※ ※
時間はさほど経っていない。
ギルスが復活したのを見て、サージャは警戒するように距離を取った。
向かい合って座る。
「その、すみませんでした」
ギルスは土下座だ。
「いい。私も悪かった。顔を上げろ」
まだ若干赤い顔で、サージャはふいっと横を向く。
ちょっと拗ねているようだ。
「では、改めて。今度こそ最後まで聞きます」
顔を上げて、サージャににじり寄ると、サージャは手のひらをギルスに向けて、ギルスの動きを止めた。
「その前に、もう一度確認させてくれ。これは王家の重大な秘密だ。お前、それでも訊くか?」
「仮に聞かなかったらどうなるんです?」
「私は、これを抱えて、素知らぬ顔でお前の横に居る事は出来ない。私の心がお前に向いてしまった以上、それは出来ない。ここから、別行動だ」
言ってサージャは深呼吸する。
「これは、母と、ディア姉、カーリアス兄上、そして私に関する重大な秘密だ。知ればお前は、私から離れられなくなる。それでもいいか?」
挑むような眼、ひざ上で組んだ両手は震え、隠そうと体が力む。
震えるな、と思えば思うほど、震えは収まらない。
怖い。ギルスからの返事が怖い。
隠して、今まで通りにすればいい、そう思わないわけではない。
出来るならそうしたい気持ちもある。
しかし、こちらの気持ちに気づいたギルスが、今まで通りにしてくれるとは思わない。
寄り添い、共に歩きたい。
サージャだってそう思っている。
だからこそ、自分の根幹に関わる問題を、隠すことはできない。
大きく息を吸って、長く吐き出す。
思い切って、最初の一言を言った。
「私は、産まれてはいけない子供だったそうだ」
沈黙が、横たわる。
「それは、どういう・・・」
意味なのかと、聞きたいのだろう。
でもこの先は、決意を聞いてからでなければ言えない。
「ギルス、聞くか?」
握り合わせている手を、ギルスのそれが包む。
顔を上げれば、困ったように笑うギルス。
「今更だ、と言ったでしょう?俺は離れませんよ」
ふわり、と優しく抱きしめられた。
「・・・うん」
サージャは泣きそうな声で、返事をした。
シリアスパートを分断しようと思ったら、ギャグパートになってしまった。。。
おのれギルス。。。
おかげですっごい短いじゃないか。。。
お読みいただき、ありがとうございます。
評価いただけますと、大変うれしく思います。
頑張って次も書きます!