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終わりから始まる恋物語~最強女子の王女様は恋心を隠している~  作者: 梅干 茶子
第一章 終わりと旅立ち
2/18

1

※2話同時投稿です。このまえにプロローグがあります※


サージャは綺麗。ギルスはカッコイイ。これが基本です。


※10/17 改稿



 燃えていた。


 なにもかも。


 燃えないはずの石の壁も、玉座の椅子も、そこまで続く真っ赤な絨毯も。


 折り重なるように血だまりに倒れる男女も。


 独りで倒れ伏す男も。


 唯一燃えてないのは、柱の一つに背中を預けて座っている女だけだった。


 緑の輝きを宿す黒髪に、紫の瞳。

 二重の閉じかけた大きな瞳とすらりとした鼻筋。薄い唇からは浅い呼吸音。

 口からは血を流し、顔も青白いが、それでも美しい女。


 サージャ・ノエ・イルカーシュ


 現王の妹にして、この国屈指の暗殺者。

 それがこの女だった。


 決して、無事ではなかった。

 両腕は、力が入らない。左の腕はズタズタに切り裂かれて、右の腕はまだ見た目無事だが、肩の関節が外れていて動かすことが出来ない。

 両足も動かない。


 最後に腹に食らった一撃が、鎧を砕き、柱まで自分を吹き飛ばした。

 外傷は浅いが内臓に深刻なダメージと、肋骨を何本か。あとは恐らく、腰当たりの骨を折っている。下半身を動かすことが出来なかった。

 肋骨が痛むせいで、呼吸はどうしても浅くなった。

 口の中は血の味しかしない。


 もってあと数十分。そんな命だった。


 目は、まだ見えた。

 サージャは視線を少しだけ動かして、燃え盛る炎越しに、重なるように倒れる男女を見た。


 青い髪の男の上に、金の輝きを宿す銀の髪の女が覆いかぶさっている。

 二人の背中には、大きな穴が空いていた。


 二人共に、腹から穴を空けられた。

 女を庇った男の腹に、まず穴が空き、次いで女の腹に空いた。

 男が崩れ落ち、女は男を庇うように、覆うように、その上に崩れ落ちた。


 部屋に飛び込んだ時、最初に見た光景だった。


 間に合わなかった。

 その絶望は、ゆっくりと、女の意識の中に再生される。


 男は、ガルド・イシ・イルカーシュ。現女王の夫。

 女は、メイディア・ガイ・イルカーシュ。女王本人である。


 サージャの目から、一筋、涙がこぼれた。乾いた唇が少しだけ開く。


 「ご、めん・・・ガル、義兄(にい)・・・ディア、姉ぇ・・・」


 生きているものは誰もいない空間で、女の声は不思議なほど響いた。


 「でも、あい、つらは、逃が、した、よ・・・」


 脳裏には、今年十六になる甥と、十一になる姪の姿がよぎる。

 カイル・ロイ・イルカーシュ。

 ライラ・ロロ・イルカーシュ。

 最後に見たとき、カイルはいい目をしていた。

 まっすぐ前を見て、覚悟を決めた目だった。

 ライラは、泣き叫んで、執事に抱えられていた。が、彼女はまだ幼い。

 彼らは『これから』の存在だ。


 彼らは今、海の上。西方の島国、クルド王国に向かって航行中のはずだ。

 カイルの傍らにはクルドの姫君がいる。彼らの安全はクルドが保証してくれている。

 彼らの護衛には、女王国随一の剣士サイファと、執事のゼルファの双子がいる。

 二人共、西の港までカイル達を送る際に共に旅をし、その強さを確認した。

 なにより彼らはカイルの絶対的な味方だった。


 目を閉じて思い出す。

 彼らは大丈夫。

 安心感が、胸の内にあった。


 再び目を開き、フラフラと視線を動かし、正面で止める。

 一人倒れ伏す、赤い輝きを宿す銀の髪の男。

 うつ伏せだ。表情は見えない。

 正面が見られればその首が掻っ切られているのが分かっただろう。


 カーリアス・ノエ・イルカーシュ。

 今回の反乱の張本人で、実の兄。


 彼は自分の血溜まりに倒れ、事切れていた。


 「・・・カー兄・・・終わり、だ・・・」


 フッと微笑んだ。また、涙が溢れた。


 嬉しくなんか無かった。

 姉たちを殺した兄を、自分が殺った。

 ただそれだけだ。


 最後に暴発した魔法兵器の一撃を喰らった。

 避けられなかった。


 炎はその兄を中心に渦巻いている。

 彼の身体を焼き、地をなめ、柱をなめ、壁をなめ、全ての物を焼き尽くそうとしていた。


 彼の手を離れた小さな杖が一本、サージャの傍らに落ちている。


 杖の先端に緑の石が嵌められ、その石を中心に、サージャを炎から守る風の壁が生じていた。

 だが、徐々にその壁も狭まってきている。放り出された足先を、チリチリと焼かれる感覚がある。

 また、風自体も弱まってきていた。

 少しづつだが、周囲の空気に煙が混じり始めている。


 もうすぐ自分も死ぬ。この戦いに勝者は居ないのだ。


 虚しい・・・そう、思った。


 直後、軽くむせて、少しだけ血を吐いた。

 口元を拭う力はない。


 なんとなく、顔を上げた。ほんの僅かに。


 「・・・」


 そこに何かある訳ではない。


 まだ燃えてない、白い天井が見えるだけだ。


 直後、真上の天井が崩壊した。


 落ちてくる石の塊を見つめ、死にきれない自分に慈悲が下りたのだ、と思った。


 「・・・ギ、ル、ス・・・」


 ささやくような声で、呼んだ名前。

 脳裏に、金髪碧眼の青年剣士の笑顔が浮かんだ。

 はて、なんで私はこの名を呼んだのか?

 自分でもよくわからなかった。

 ちょっと笑った。


 「サージャ様!」


 焦った男の声が聞こえたと思った。


 瞬間、落ちてきた天井が爆砕。

 横から飛び込んで来た男が、手に持った剣で一撃の下に天井の破片を吹き飛ばした。


 「―――」


 視点の合わない目で、ぼうっと男を見る。

 ギルスだ。本物だ。


 「あ」


 夢では無いだろうか?

 半信半疑で見つめてしまった。

 目の前に、たった今思った相手がいたのだから。

 ギルスは無言でサージャの傍らに走り寄り、脇に置いてある杖も拾って、サージャを抱き上げ、天井に空いた穴へ跳躍。


 「あっ・・・」


 と言う間だった。


 おおよそ人間業とは思えない高さを飛び、屋外へ。崩壊する建物の屋根を駆け抜ける。


 振動が酷く、苦しさから口を開く事もできなかった。

 でも、抱えられた腕が、支えられている掌が、やけに冷たく感じられた。

 少しだけ、震えているような気がした。


 屋根から屋根へ飛び移り、何とか被害のない草地に着地。

 周囲に追手が無いことを確認すると、今度は草地を抜けて塀を飛び越え、住宅街の中を走りだした。


 衝撃が少なくなって、やっとサージャは声を出した。


「ぎ・・・」


 今更、喉が焼けて、ろくに声が出せないことを知った。

 さっきまでの独り言は、喋れているように思えただけだったのかもしれない。


 「ぎる、す・・・置、いて・・・」


 行け


 言外にそう告げると、サージャを抱き上げている手が、ギュッと強く握り締められた。


 「俺が、必ず迎えに行くと、そう言っただろ!置いて行く訳ないでしょうが!」


 もう絶対に離さないと、全身で叫ばれているようだった。


 「・・・」


 サージャは、苦笑した。


 ギルス・グラーニ。

 サージャ付きの護衛騎士。

 サージャを愛していると言って憚らない大馬鹿野郎。

 サージャが王族である限り、決して答えられないのを知っているのに。


 震えはきっと、サージャを失う恐怖からなのだろう。


 そうだったらいいなと、思ってしまった。


 ギルスは、息を吐いて、激情を抑えた。


 「もう少し、我慢しててください」


 先程までの激しい口調ではなく、抑えた声。

 微かに女は頷き、頭を男の胸に預けて目を閉じた。


 抱き締める腕の強さはそのままに、後は無言で、夜の静かな町を疾走した。



設定を少し。


王家の名前の真ん中の部分

ガイ  女王

イシ  王

ノエ  女王の兄弟姉妹

ロイ  女王の子(男子)

ロロ  女王の子(女子・時期女王)


女王が、退位すると兄弟姉妹諸共「ノル」になる。

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