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ストックが無くなりました。
1日1話になりそうです…
「まあっ!まあっ!さーちゃんじゃない!」
巨木の空間転移を抜けた先は、北の神殿内に直接繋がっている。
あまり大きな部屋では無いが、王宮で言う所の控えの間、位の大きさの部屋である。
控えの間とは、二人がけのソファが向かい合わせで一つずつ。その中央にローテーブルが備え付けてあり、ソファの周りには、人が二人すれ違える幅の空間がある。壁の一箇所にクローゼットと鏡台が備え付けてあるので、王に接見するまでの間に身だしなみを整え、待つ場所だ。
ここ、北の神殿のこの場所には何も無い。
椅子も机も、クローゼットもベッドも無い。
あるのは部屋の角の通路だけだ。
通り抜けてきたはずの暗い道の出口は、どこにも無かった。
そして、唯一ある通路から、見た目サージャとあまり変わらない年代の、ふんわりとした雰囲気の女性が、歓声を上げながら走って来た。
紫の輝きの銀の髪、紫の輝きの銀の瞳。
背丈はサージャの顎位。
髪はふんわりと波打ち、背の半ばまで伸びている。横の髪の一部を編み込み、ハーフアップにしているのだが、小柄なせいか、垂れ目のせいか、全体的に幼く見えた。
服装もふんわりとした簡易的なドレス姿で、印象全部が柔らかい。
そんな女性が、サージャの首に飛び付いた。
「さーちゃん!さーちゃん!嬉しいわ〜!来てくれたの〜!」
「ふ、フィー姉様。お元気で、何よりです・・・」
ぎゅうぎゅうと抱きつかれて、やや引き気味にサージャが返す。
「相変わらずサージャ様がお好きですね、フィージア様は」
サージャの後ろからギルスが声をかける。
すると、ぐりんと首だけ回して、フィージアと呼ばれた女性はギルスを見た。
途端に、にぱぁっと笑う。
「あら、ギルちゃんも居たの?お久しぶり!」
「はい。二週間ぶりです。フィージア様」
右手を胸に当てて腰を折り曲げ、礼をするギルス。
フィージア・アルカード。38歳。
彼女は先々代女王の妹の子供で、サージャからすれば、従姉妹である。
見た目はほとんど変わらないが、年齢は13も離れている。
精霊の力を強く宿す容姿で、風の巫女として、北の神殿を治めている存在だ。
フィージアは、サージャの首にぶら下がったまま、ギルスに笑い返した。
「ギルちゃんは相変わらず、さーちゃんにベッタリなのね!」
「そりゃ、護衛騎士ですから」
「ふうん。私の護衛騎士はそんなにベッタリしてくれないケドなぁ?」
不満げに唇を尖らすフィージア。
「フィージア様は、あまり動かれないからじゃないですか?」
「そーなんだけどさぁ。なんかギルちゃんは、関係なく四六時中さーちゃんにベッタリ〜、だと思うけどぉ?」
「離れたく無いのは事実ですねぇ。目を離すと何をするか分からなくて」
「あはっ!それわかるぅ!」
「そんな事、分かり合わないで頂けますか・・・」
はぁ、とサージャは溜息を吐いて、フィージアを引っ剥がす。
「フィー姉様、ご報告が」
両脇に手を入れて持ち上げたまま、サージャはフィージアに言う。
足がぷらーんと中に浮いていた。
「・・・さーちゃん。これはあんまりだと思うわ・・・」
「サージャ様・・・」
「あ。し、失礼」
二人から突っ込まれて、サージャは急いでフィージアを降ろす。
「・・・気が早ってしまって」
「ホント、おっちょこちょいよねぇ。さーちゃんて」
「たがら目が離せないんですよ」
二人から生暖かい視線を貰って、サージャは縮こまる。
「それで、報告って?もしかして、さーちゃんとギルちゃん、何か進展あったのかしらん?」
顎に人差し指を当てて、首を傾げるフィージア。
対して、ニコニコ笑顔のギルスと、固まるサージャ。
「あら?あらら?まあまあ、本当に?」
両手で口元を覆って、目を見開くフィージア。
追求を口にしようとして、第三者に遮られた。
「フィージア様。お茶の用意が整ってございます」
入り口に、執事服の白髪の紳士が立っている。
「クロード殿」
ギルスは真っ先に一礼した。
「ふむ、サージャ様と、ギルス殿か・・・ではやはり」
「はい。王宮が落ちました」
サージャが言った途端、空気が、凍りついた。
フィージアは、胸の前でギュッと手を握り合わせる。
「・・・詳しい話を聞きましょう。クロード、案内を」
硬い表情で、フィージアはクロードを振り返った。
「はい。皆様、こちらです」
クロードは一礼して、皆を促すと先頭を歩き出した。
※ ※ ※
転移室を出て、執務室を通過すると、間続きになった応接室がある。
そこに軽食と、湯気を立てた茶が、既に人数分用意してあった。
クロードが用意したのだろうが、彼が転移してきた者を確認したのは、用意した後だ。
見るまでも無く、人数を確認したのだろう。気配で。
「流石はクロード殿」
「まだ衰えてはおりませんよ」
感嘆の声を漏らすギルスに、クロードは口の端を上げた。
クロード・モアレス。推定48歳。
彼は執事服を着てはいるが、フィージアの護衛騎士だ。
ギルスの大先輩で、ギルスを鍛え上げた内の一人。
ギルスにとっては頭の上がらない存在である。
着席したのは、フィージアとサージャ。
クロードはフィージアの後ろに、ギルスはサージャの後ろに、それぞれ控えて立った。
「クロード、座りなさい」
「ギルス、座れ」
フィージアはクロードに、サージャはギルスに、それぞれ命令する。
「は。しかし・・・」
「我々は周囲の警戒がございますので」
ギルスの言葉にクロードが続ければ、フィージアは溜息を吐く。
「クロード。貴方が座らなければギルスは座れないわ。私達は今、皆で話し合って、これからの事を、頭を捻って考えなければならないの。警戒なら精霊がしてるわ。とにかく座りなさい」
「ギルス、お前、私だけで説明が足りると思ってるのか?座れ。座らんと困る」
ちゃんと理由を説明するフィージアと、感情で話すサージャ。
言っている事は同じだ。
曰く、座れ、と。
ギルスとクロードは、目を合わせて苦笑する。
「「では、失礼します」」
それぞれの隣に腰を下ろした。
そしてこのやり取りすら、クロードの考えていた通りだったのだろうとギルスは思う。
何故なら。
「茶器、四つありますもんね・・・」
しれっとお茶に口をつけるクロードを見やると、クロードはニヤリと笑った。
※ ※ ※
サージャとギルスは、昨晩の出来事を詳細に話した。
「・・・そう。メイちゃんとガルちゃんが・・・」
「カーライルは私の手で討ち取ることができましたが、結果としては敗北です」
淡々と、サージャは説明する。
「さーちゃん・・・」
サージャの横に移動して、その手を握る。
いたわりの眼差しで、サージャを窺っていた。
「・・・いえ。大丈夫です、フィー姉様。今は嘆いている時ではありません」
やんわりと、手を押し返す。
「・・・そうね」
フィージアは、その手を引いて向かいに座り直した。
やるせない表情をして。
「それで、手勢が三十人程生き残りました。皆、ここを目指して敗走しております。正規のルートで来ている筈ですので、到着は早く見積もって三日、遅ければ七日程度です。受け入れをお願いします」
サージャは頭を下げた。ギルスも習って頭を下げる。
「わかりました。準備は出来ていた筈よね、クロード」
「はっ。人数が想定よりかなり少ないので、今準備してある分で十分対応可能ですな」
「本来なら、城は明け渡したとしても女王とガルド騎士長はお見えになる筈だったのですが、想定外で申し訳ない」
サージャはまだ頭を上げない。
「何を言ってるの。さーちゃんが生き残ってくれただけで、本当に、良かったんですからね」
涙ぐみながら、サージャの頭を撫でる。
「本当に、良く生きててくれたわ・・・辛い役目だったわね。ありがとう」
フィージアは、サージャの心境を思うと、居た堪れない気持ちになった。
姉と義兄の死を見て、実兄を殺す。彼女の心はどんなに荒んだだろう。それを見せてない事が、フィージアには不安で堪らなかった。
サージャは涙を堪えていた。
優しい掌が、乾いた心に染み入るようだ。
だが、まだ伝えなければいけない事がある。
「疲れたでしょう?部屋を用意させるから、休みなさいな」
頭を撫でていた手が引かれる。
サージャは顔を上げて、その手をわしっと掴んだ。
「お待ち下さい。まだ報告がございます」
射抜く様な鋭い目で見てしまった。
フィージアはビクッと硬直してしまった。
「サージャ様!」
慌ててギルスがサージャの腕を掴む。
はっとして、サージャは周りを見回し、今度は慌てて頭を下げた。
「っ、失礼しました!」
「・・・ん、大丈夫。大丈夫よさーちゃん」
フィージアは深呼吸してサージャに向き直る。
「・・・それで、残りの報告とは?」
クロードはお茶を一口、啜って聞いた。
余裕がある。
「はい」
サージャは顔を上げ、姿勢を正した。
息を吸って、
「フィー姉様の、北の巫女としてのお力を、お借りしたい」
すこし大きな声で、ハッキリと告げた。
「あたしの?」
「はい」
落ち着いて、焼き菓子に手を掛けていたフィージアの手が、止まった。
クロードの髪はしらがでは無く、白い色の髪です。
ウサギ。
目は黒。




