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城攻め

 その琥珀はまるで時が止まったかのように彼女らを封じ込めている。

 その姿は不謹慎だが高価な美術品のように、人の心を奪う程に美しかった。


「アルス様、彼女は生きています。ですが、こうなっている以上は目覚めさせる訳にはいきません」


「どうしてだ?」


「一度契約した聖霊使いは決して歳を取りません。それは自身を概念として不変の存在にしているからです。今回の世界改変は同じく聖霊使いが起こしたものの為、不変の存在といえど侵食の影響を受けてしまいます。

 十数年も聖霊使いをしている存在であれば何事もなく自身を保てるのですが、彼女の場合は経験が数日程度しかなく、自身を琥珀の防壁で守ることが精一杯できる抵抗のようです」


「もし、無理やり外に出したらどうなる?」


「彼女は無事ですが、聖霊獣を制御する事ができず、暴走してしまうでしょう。

 聖霊ではなく、邪霊として」


「だが、このまま放置するわけにはいかない。どこか安全な場所に連れていきたいのだが」


「それでしたら、チノ遺跡が適切だと推測されます」


「しかし、チノ遺跡は教会の民の侵入を許してしまった防衛力のない、ただのがらくたでしかないはず」


「心配はいりません 。巫女様がいない今チノ遺跡の主はその息子であるアルス様になっています。

 遺跡に侵入できるのは主が認めたものだけですので事実上の鉄壁の要塞となっております」


「では、連れていこう。ウィンダ、ハック手伝ってくれるか?」


 俺とウィンダは周囲に癒着した琥珀部分をナイフを使い削りとり、彼女達を運び出せるようにして、アルスの転移の能力を使いチノ遺跡に運んだ。


*


 彼女達を運び出した後、俺たちは本来の目的であるこの大陸の支配者である"エキセル・バラード"の元へと向かう事にした。

 彼のいる場所は大陸の中央部に存在するセンターパークの4区画の内の1つ"ハンター育成地区"の城の中にいる。

 居場所だけはわかっているのだが、世界が改変された結果、城の構造が変化していて侵入は容易ではない。俺の知る部分が全てが全くの別物となってしまっている。

 だから、正面から突破するしか現状できる方法はない。

 そして今城門前付近にいる。


「それでアルス。どうやって中に入る? 見ての通り、城門前には兵士が2人いる。中には少なく見積もって30人程いるだろう。

 突破する事自体は俺達の力量で可能だが、決して殺してはいけない。以前の法では正々堂々対決して勝てば一切の妨害をされることなく入る事ができた。

 今の法については何も知らないが、以前とは恐らく違うものになっているだろう」


「確かハックはこの城の主なんだよな?」


「正確には元主でこの世界では数週間前に辞任したことになっているらしい」


「ならば、正面から入れるのではないのか?」


「アルス様、ハック様これをご覧下さい」


 ウィンダが手に持っているオーブから城を覗くと、人の形をした黒いもやが場内を歩いているのが見えた。何処かで見覚えのあるような。


「これは邪霊人に違いありません。

 邪霊人というのは、聖霊と融合した聖霊人と同等の邪霊と融合した人の事を言います」


「聖霊も邪霊も不滅の存在。それでいて、触れるだけで邪霊と化してしまう。俺とウィンダは聖霊由来の生での誕生をしているから影響を受けないが、ハックはいくら肉体的に強固であっても影響を受けてしまうのでは無いのか?」


 俺はこいつらとは違いただの人間でしかない。

 特殊な力を持っているわけではない。唯一こいつらの力に匹敵するほどの力を持つ"統括者のかるま"と呼ばれる装置の所在がわからない今、俺は最も脆弱で戦力にすらならないか弱き人間でしかない。


「いえ、ハック様には、私達には持ち合わせていない力があります」


「なん……だと……」


 思わず絶句してしまった。俺はこいつらみたいに魔法が使える訳でも、超能力を使えたりしたことはない。


「教えれくれ、俺にはどのような力がある?」


「いえ、力を持っていることは保証しますが、どのような力を持っているかは解りません。この世界の全ての人のバックアップがあった改変前のチノ遺跡ですらハック様のことを記した本が今生にも過去生にも見つかりませんでした」


 俺は赤子の頃にバルトと呼ばれる婆さんに拾われて孤児院で幼少期を過ごした。

 俺は物心がついた頃にはすでに孤児院にいた。

 捨て子であるために自分の出生の事は何も知らないし、知ることも不可能である。


「俺は自分の力を把握出来ていない以上、それを戦略に組み込むことはできない。せめて"統括者の業"のありかさえわかれば戦力になれるのだが……」


 "統括の業"とは数日前に俺が手に入れた"念導エンジン"と呼ばれる装置が組み込まれた装置の名称である。

 念導エンジンは聖霊や邪霊を扱い力を行使する"聖霊システム"の元になったいわばプロトタイプと呼ばれる存在である。

 それゆえに互いに同じ力を行使できる。

 耐性のない人であっても侵食されることを防ぐ事ができる。

  

「ハック様、"統括者のペン"はお持ちでしょうか?」


 "統括者のペン"は"統括者の業"に指示を出す為の専用のペンである。見た目は純金の万年筆の形をしていて、実際に筆記用具としても使える。

 

「それなら、ズボンに差してある。だが、今は所詮ただのペンでしかない」


「いえ、そのペンを持っている事自体が本来あり得ないことなのです。そのペンを持つということはこの地域の支配者であることの象徴的物品に違いありません。

 しかし、その品は世界に一つしかないものであり、改変前であろうと改変後であろうと存在できるものが一つしかありません。

 それらの事から推測すると、ハック様はおそらく特殊能力を受けない系統の体質なのでしょう」


 俺はこいつらとは違い、特殊な力は持っていない事が唯一のコンプレックスであった。だが、それが解決した今、不謹慎かも知れないが無くしたジグソーパズルの最後の1ピースが見つかったかのような心が満たされるような感覚に落ちた。


「つまりは俺はお前達のように特殊な能力を使うことができないが、それには対抗できるんだな。

 実は俺にも心当たりがある。生まれてから今まで一度しか怪我をした事がない」


 この時の俺は俺らしくはなかった。完全にイキリがはいっている。

 そんな俺にアルスはこういった。 


「その一度とは?」


 イキリ行為はコミュニティ間での孤立を招くということは有名な事である。俺が唯一いても息苦しいくないこいつらの前でそのような行為をしてしまった。その瞬間にやっちまったと思ったのだが、以外にもアルスの食い付きが良かった。

 単純に情報共有をしたいという意図もあったのだろうが、まるで物心がついた頃のこどものようなキラキラとした目をしていた。

 お前何歳だよといってやろうと思ったが実際何歳なんだ? アルスの幼なじみのクリスタよりは幾つか年が下なのは知っているが、流石にアルスの従妹のテクノよりかは上だろう。

 結局誰の年齢も知らないがな。


「それは後で教える。とっとと城に入るぞ」


*


「お前達何者だ!!」


 城門に近づくとやはり門番に呼び止められた。


「気安く声をかけるな下郎」


 いきなりウィンダがケンカを売った。 


「なんたる口のききかただ無礼者。成敗してくれる」


 門番は腰に着けたサーベルをウィンダに突きつけた。

 何で我慢できないのだろうか彼女は、と呆れながら俺は門番をなだめようとした。

 だが、その前に彼女は小声でぼそぼそと早口でなにかを呟いた。  

 

 「ウィンドスリープ」


 門番2人は眠りについた。


 「この術は敵対意識を持っている相手のみに特殊なハーブを吸引させて睡眠状態にする術になります。主に平和的暴徒鎮圧の為に設計された術ですので、誰も傷つけることはありません。こ安心を」


「それは素晴らしい術だ。だが、門番が倒れた事が城に見つかったようで誰かが門まで近づいた音が聞こえたぞ」


 ギギギ……と門が開かれた。そこには男がいた。


「これはこれは随分と変わったお客様がいたしたものですね。

 お初にお目にかかりますわたくしは城主のエキセル・バラードと申します。

 おやおや、そこいらっしゃるのは旧城主のハック殿ではありませんか。

 何か城に忘れ物でもなさいましたのでしょうか?」


「忘れ物とかは特にないが、結界の解除さえしてくれれば直ぐにでも立ち去ろう」


「それは出来ない相談ですねぇ。私は立場上この大陸の治安を維持しなくいけないのですよ」


「では力ずくにでも結界を開けさせもらうぞ」


 ハックはズボンのポケットに手を入れながら鋭い眼光をエキセルに向けた。


「これは怖い、怖い。ですが残念ですねぇ。例え私を殺害できたとしても結界を解除することはできませんよ。なぜならハック殿ペンを持っていないからねぇ」


 エキセルは小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら一切動じることなく言い返した。


「ほう、ペンならあるさ。ここにな」


 ハックはポケットから統括者のペンを取り出して見せつけた。


「これはなにかね。随分と良くできた模造品イミテーションを用意したものですねぇ。

 ですが模造品を持っていても所詮はただのペン。

 統括者の権限を得ることはできませんよ。

 可哀想に」


「ならば試してみるか? 統括者を統括者たらしめている物はペンではなく、統括者のカルマだということは周知だろう」


「これはなかなか面白い事を申されますねぇ。いいでしょう。統括者の名の元に命ずる。ハック・イノセントに砲撃せよ」


 大地を割りながら巨大な装置が地上に現れた。

 あれが統括者のかるまである。通常時R35mで高さ15mの円柱に半球をのせた形状をしている。

 そんな装置の上部が開き、巨大な砲身が姿を見せる。

 あんな物を食らったら二人はともかく、俺はひとたまりもないだろう。

 だが、問題はない。うまくいくはずだ。

 懐から手記を取り出して統括者のペンで書き込んだ。

「ペンは剣よりも強し、統括者の名の下に"統括者の業"の運用方法を改変する。

 ただいまをもって、"統括者の業"を凍結状態とする」                 


「滑稽ですね。精神がいかれてしまったのですかな?

 ハック殿、生き恥を晒すぐらいなら私が介抱して挙げましょう。放て」


 エキセルは俺に統括者のペンの先を向けた。

 本来なら砲が放たれるのだろう。

 しかしなにも起こらない。


「何故でしょう? 何故この私の命令を受け付けないのでしょう」


「それは、簡単な話だ。お前は統括者では無いからだ」


「ペンを私が持っている以上、私が統括者である事にかわりなはず。それは、不変のこの世界のことわりによって定められている。

 もしや、この世界の者ではない?

 いやはや、そのような存在が実在したとは思うてはいなかったよ。

 仕方がない。兵士達よ、実力行使を許可する」


 エキセルは合図を送った後、兵士が一斉に襲いかかってきた。              

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