琥珀の中
「記憶が戻ったのに分からないのか?」
「確かに記憶は戻った。しかし、記憶があってもそもそも知らないことは知らん」
バイブルさんは言い切った。
アルスいわく、バイブルは少なくとも2〜3日前まで一緒に居たはずなのだが、居場所はわからないようだ。
改変の影響は大きく分けて3つある。
記憶の捏造。世界環境の捏造、人の居場所の再配列。
これらの影響から例え記憶が戻ったとしても居場所はわからない。
もし、彼女の居場所が変わっていないのなら神殿にいるらしい。
「俺はこの場所に残るつもりだ。例え偽りの世界であっても俺はここの人の生活の一部だ。町の人全てを復元したところで、世界は依然偽りだらけだ。そんな中を生きていくのは容易ではないだろう」
「まさか、苦しんでいるのか?」
「意外にも思えるかも知れないが、居心地はさほど悪くなかった。お前らが世界を修正し終わるまでの間を堪能させてもらうぞ」
バイブルとの再開は殆ど無駄足であった。
しかし、記憶を復元するということはメリットだけではない。デメリットとして今の世界の現実離れした様を受け入れる事は生半可な覚悟が無くてはならい。それを知れただけでも収穫はあったのだろう。
*
世界の地形が変わった弊害から神殿にたどり着く事は事実上できない。だが、アルスが知らぬ間に入手していたD^2デバイスを使う事で容易に移動することができた。
神殿そのものの姿形は一切変化は無かった。
俺達が探す彼女らはそこにいた。
いたのだが、はたしてそれを彼女らと言えるのだろうか?
そこには、とても大きな琥珀が存在していた。
その中に彼女と聖霊獣が生死不明の状態で埋め込まれていた。