聖典の復元
俺達3人はとある場所に向かっていた。
元の世界では地下都市等と呼ばれている場所だ。
ここには、俺達の知っている人物が住んでいた。
一人の名は、フロル・リーフ。彼女は家系的に言えばウィンダの従姉妹のような人だ。職業は考古学者をしている。
もう一人の名はバイブルと言う。彼はその地で聖職者をやっていたらしい。正直に言うと、一度もそれらしい光景をみたことがない為、真実かどうかはさだかではない。
こんな世界でも、ここに彼女らが居るのかは正直に言ってわからない。
しかし、もし元の記憶を持っていたらきっと力になってくれるだろう。
地下都市は深い森の中にある。入り口はなかなか見つけることは難しい。なぜなら切り株の形をしているからだ。
その為、知る人でなければ偶然存在を知るような事はまずない場所であった。
だが、そんな事はなかった。
向かった所、地上に町があったのだ。
これも改変の影響だろうか。
薄暗く埃っぽい地下都市とは環境は大きく異なり、派手さこそは無くとも少なくても元のハテノ村を越える発展した場所になっていた。
人々には活気が溢れ誰しもが幸せそうに過ごしている。
そんな中、ある男が町の中央の噴水広場にて人を集めて何かをしていた。
「我らに大いなる聖霊の加護のあらんことを」
彼は自分の手のひらからパラパラと粉を撒くと、水の色が薄緑色に染まった
バイブルである。
以前とは顔つきがまるで違う。死んだ魚のような目をした呑んだくれが凛々しく、人を導いていた。
「アルス様、ハック様、これをご覧下さい」
ウィンダは腰に身に付けている翡翠のオーブを俺たちに見えるように向けた。
それをレンズのようにバイブルを見ると黒いもやがまとわりついていた。
「これは彼に付与されている聖霊の力を可視化したものになります。この色は邪霊使い"ケムリ"の黒煙ノ術 認識改変のものでしょう。
この世界の全ての人にかけられており、前の世界の記憶を全てブロックしてあたかも生まれて今までこの世界で暮らしていたという錯覚をさせているようです」
「それって、術さえ解けば記憶が戻るということでいいよな?」
「はい、そうです。アルス様、彼で復元の能力を試してはいかがでしょうか」
世界を復元する事のできるのは俺ではなく、アルスである。旅の目的は世界の復元だが、まだその能力を見たことがない。
アルスはバイブルの方へと歩いていった。
「これはこれは、聖霊様ではありませんか。お初にお目にかかります。司祭のバイブルと申します」
「俺は確かに聖霊の力を宿している。なぜわかった」
「私ほどの者になれば気配を感じ取れるようになるのです」
「フロルは何処にいる?」
「フロル? 聞いたことのない名前ですね。お知り合いですか?」
「やはり覚えていないか。それじゃあ、一発食らってもらおうバイブルさん」
アルスは手のひらを空に向けた。
「出でよ! 管理者の鍵」
アルスの手にはいつの間にか鍵が握られていた。
その鍵をバイブルの方に向けると空中に鍵穴が出現した。
そこに鍵を差して回した。
バイブルの体の周囲にみたことがない文字が浮かび上がる。
「偽りの記憶、穢れた魂を今、汝の有るべき姿へと復元する。
管理者の名の下に」
唱えると、宙の文字が書き替えられていった。
これがアルスの新たな力の復元なのか。
受けた当人の外見が変化したとかそう言うことは全くないが、これで元に戻ったのだろうか。
「もう一度聞く。フロルは何処にいる?」
訪ねられたバイブルは頭に?を浮かべながら周りを見渡す。
少し考え込んだ後に、近くに集まっていた村人にこう言った。
「今日はここまでにしよう。皆の衆仕事に戻りたまえ」
まるで指導者の如く発言に何事も言わず村人は噴水広場からさって行った。
「成功したのか?」
「はい、アルス様。完全に復元されています」
「この嬢ちゃんは誰だ?」
「気安く話しかけるな下衆が……。誰の許可を得て話しかけた?」
「随分と口の悪い嬢ちゃんだなおい。しかし、まあ何処と無くフロルに似ている」
「それは、同じ"ガラパゴスの種"から生まれたからだ」
ガラパゴスの種とは、古の聖霊使いの"ガーデ・ハードクレイ"とその聖霊獣である"ナチュル・ハードクレイ"が産み出した己が力を種子にしたものだ。
方法はよく知らないが、種に何かをすると"ガーデ"の姿を彷彿させる人が誕生するらしい。
厳密に言えば人の誕生の理から逸脱しているので人によく似た別の生き物であるだろう。
「嬢ちゃんの名は何て言うんだい?」
「ウィンダ・リフレクト」
「名は体を表す。言葉の通りに捉えると、反射が嬢ちゃんの本質なのか。嫌がらせとか敵意を向けているわけではなく、本能レベルの話でそういう性質を持っているのか。
随分とめんどくさい業をせおっているんだな」
「話しが長いぞ小わっぱ。フロルはどこにいる?」
「わからん」