汚させし遺跡、失われしもの
夢世界とは、夢の世界のことである。
ここでの夢とは寝ている間に見ている世界のことをさす。
その中にはチノ遺跡と呼ばれる建造物が存在している。
俗に言うところの図書館であるのだが、収容物は少し特殊である。そこにある本には、実際に起きた物語が記されている。それも、俺たちの世界の全ての人に対応した本がそれぞれ1冊存在している。
この本の目的は、世界のバックアップを残すためである。
これについては後程説明することになるだろう。
俺たちは、チノ遺跡前に到着した。
俺はここにくるのは2回目になる。
以前来たときと遺跡を見比べてみると、明らかに変化したところがあった。
血痕である。
それは1つ2つなんてものではない。血の水玉模様を描くように残されていた。それも、まだ新しく生々しい悪臭が漂っている。
この遺跡には2人の人物が暮らしていた。
1人は書物の管理者。もう1人はその従者。
無事だといいが……。
遺跡の入り口は安全上の観点から1つだけである。
そこから中に入り、建物内の図書館に向かった。
そこにいたる途中からずっと1つなぎの血痕が存在しているのが嫌な予感をさせる。
予感は的中していた。全身に剣が突き刺されていた女性がそこで倒れていた。
彼女の名は、ウィンダ・リフレクト。遺跡の長の従者である。
彼女は息絶えていた。
あまりに無残である。俺も、アルスもほとんど彼女の事は知らない。しかし、大事な仲間であることにはちがいない。
俺たちはあまりに大きなその事実を目の当たりにして、涙を流さざるをえない。
彼女が命懸けで守ろうとしたもの。それは、巫女様と本である。
だが、ここにはどちらも存在してはいなかった。
敵はあまりにも多すぎた。
敵は“教会の民“とよばれる集団だ。
本来ならこのような事は起きるはずはなかった。
しかし、現実として起きてしまった。
死んだ人を蘇らせるのはできない。
だが、葬送をする事だけはできる。
俺達は、ウィンダを遺跡の外に連れ出してから刺さっている剣を抜いた。
そして、埋葬して眠らせた。