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若葉と大木。

 

「ふぇ・・フェルナ??」


 玉座に鎮座していた王が震えたような声をあげた。


「フェルナ様・・??」

「え・・」


 それから周りの兵士たちが口々に戸惑いの声をあげた。だって側から見ればどう見たってフェルナが女の子をいじめようと平手打ちをかましたはずだったからだ。それなのにそのわがままお嬢様はこてんと床に突っ伏したまま動こうとしない。状況を飲み込めない周りの人間たちが戸惑いの声をあげる。


 とりあえず僕はいつでも逃げ出せれるように腰を少し浮かせてみたりしたけどダメだ足首の枷のせいで走れない。もうどうすんだこれ・・・


「フェルナぁああ!!」

「「「「姫ぇぇぇぇぇ!!」」」


 駆け寄る王とその兵士たち・・あぁもうそれは世界がスローモーションに見えるというか。僕はこれからどうなるのかとフェルナ姫とムシカを見やる。ムシカはそんな時でも全く動じず傍で衰弱していく姫を眺めていた。

 これは大ごとだ、ただの一般市民が人生のうちに言葉すら交わすことはないような相手を死に追いやる。国をまとめその頂点に位置し搾取する側の人間が搾取している一粒、名前も顔も把握などしていない働き蟻に今まさに殺されそうになっているのだ。


「フェルナ?! あぁっ私の可愛い娘よ!! 一体どうしたと言うのだ?!」


 フェルナ姫は見る見るうちに衰弱していく。外傷はない、血も流れてはいない。だけど息が少しずつ小さくなっていっている。いつかのバルクックのようだ。このままでは彼女は本当に死ぬだろう。だけどどうしたものか、ついさっきまで彼女にゲロを吐きかけ死刑宣告をされたこのどこの馬の骨とも分からない僕らの話をこの人たちは聞いてくれると言うのだろうか?その幼女は呪い付きで手に触れると半日で衰弱死すると、それを治すには童貞こじらせた僕でしか治せないだなんて。そんなこと信じてくれるのだろうか。


「あぁ・・はよう!! はよう医者を!! プリースト、薬師、魔法使い!!なんでもいい!! 娘を助けろ!!」


 王はしゃがれ声で咽びながら吠える。フェルナ姫を抱きかかえて。


「一体何が・・」

「あの子供も捕まえろ!!」

「刺青もだ!!」


 兵士は王に言われるまま城中の医者たちを呼び寄せに向かう。残った兵士はムシカやプラモを取り押さえようとする。


「待って!! 待ってくれぇぇぇぇぇ!!」


 僕は叫んだ、あらん限りの声であるだけの声量で限界まで肺を膨らませ喉を開く口が裂けるんじゃないほど大きく開き僕は叫んだ。王が僕を見る。娘を抱きしめたまま顔だけをこちらに向けた。


「僕に!! 僕に娘さんを触らせてくださぁああい!!!!」

「・・・・」


 一瞬の沈黙。そして王は顔を大きく歪めた。


「死刑じゃああああああ!!!」


 言葉の選択を間違えたぁああ!!


「本当に情けないのう」


 ムシカが僕をみて半笑いを浮かべる。


「まぁまて王よ。フェルナはきっとそうじゃな、逃亡した時に何か毒でも盛られたのだろう」

「なんだと?! 毒?! あれはあいつの汚物ではないのか?!」

「違う違う、その娘は我らとあう前から顔色が悪かったのじゃ。この感じだともって後、半日じゃろうな」

「な・・何?! 半日?!」

「のう?プラモ」

「あー・・うん」


 あいつ嘘製造機だな。


「じゃあその毒が・・?! そういえば風呂に入った後もフェルナの顔色はすぐれなかったし、匂いも腐った卵ような匂いがしていた・・・」


 ごめんねぇぇ?! 腐った卵でぇぇ?!


「毒となれば薬師か?! 薬師を!!」

「まぁまてまて聞くのじゃ王よ。あの男、あそこで人間の恥を体現しているような男がおるじゃろう? あやつは魔法使いなのじゃよ」

「何ぃ?!」

「しかも回復に特化した」

「なにぃい?!」


 おいまて。恥を体現ってなんだ。


「世界でもおそらくトップクラスじゃろう。ここは娘を助けら為じゃあやつに任せてはもらえぬか?いやじゃろうが。だが娘の為じゃ」


 ムシカは王に優しく微笑んだ。

 まるで母親のような慈愛溢れる微笑みは幼女のそれではなかった。あいつは紛れもなく見た目の何十倍何百倍もの歳を重ねているんだとその微笑みが僕に教えた。ムシカにしてみれば齢50くらいの王なぞ赤子のようなものなのだ。だが、どれほど聖者のような微笑みを向けたとしても今日出会い、しかも罪人として裁かれようとしている奴の連れの言うことなど一国の王がホイホイと聞くことはなかった。


「・・そ・・そんなこと・・信じられるものか!!」


 ですよね。

 そんな会話の間にもフェルナはどんどん衰弱していく。顔色もだいぶ悪くなってきていて血の気が感じられない。集まった城中の医師、薬師、プリースト、魔法使いがフェリス姫の下に集まるがなにをやっても彼女はうんともすんとも言わなかった。


 僕らはそれを横目にムシカとプラモにも枷がされ玉座の間の隅でその光景を眺めていた。


「おいこら偽幼女、姫をあんなにしやがって!僕らはもう死刑だぞ!死んだ後はこの後のお前を幽霊になっても僕が呪ってやるからな」


 僕は恨めしそうにムシカを睨む。


「や、やめようよ・・」


 おそらく今回の件で一番の被害者であろうとばっちりのプラモはなにもしてないけど枷されて僕とムシカの仲裁に入る。もう一つ余談だがプラモは枷をされてるとき興奮していた。プラモはドMで変態らしい。


「ボレロ、お前にはわかるまいな」


 ムシカは嫌に静かに話す。僕はいつものようにデカイ態度で無茶苦茶な文句でも返してくるかと思ったが、想像していた反応とはまるで違って目を点にした。

 どこか遠くを見るような。その横顔はあの時に一度見た顔だった。『全てを見ている。触れなければ死なない。触れられないとは存外寂しいもの』そう言って遠くの景色を哀愁漂わせていたあの時の顔だ。

 まるで彼女はそこにはない自分の過去を見ているような顔をしていた。


「なにがわからないんだよ」


 僕がとりあえず言い返すとムシカは鼻でふんっと笑い僕を見ることなく言葉を返した。


「今はお前がおる」


 その言葉は会話の流れ的にはとてもちぐはぐで理解に苦しむ一言ではあったが、何故か僕は彼女の言いたいことが少しわかる気がした。


 僕を見つけられないでいた数百年、ムシカは自分の呪いで幾多の命を救えないまま眺めていたのだろうか。僕はそこまで考えて背筋が凍る気がした。


「大丈夫、死刑になぞならん。あの男は絶対に我らを頼るぞ。掛けてもいい」

「死ぬ前に頼ってくれるといいけどな・・」

「大丈夫じゃろ。前もってタイムリミットは教えておるし」


 半日。

 それがあの呪いを解く上での猶予だ。

 王が僕らを頼るまで僕らはここで待たなければならないだろう。牢屋に連れていかれずここにいるということが僕らを頼るかもしれないという心の表れだろうし、僕らは黙って玉座の間の隅で三人固まっていることにした。


 ーー

 ー



 あれから6時間程がたっただろうか?

 プラモはそのうちスースーと寝息を立て始め僕の肩にもたれかかってきた。こんな状態でもなれるなんてこいつは大物に違いない。


 今もなお姫の為に城中、いや国中の薬師やらプリーストが現れてはなにやら行なっていたがみんな口々になんで目を覚まさないんだ?なんで治らないんだ?なにが原因なんだ?と言っては肩を落としている。


 どれだけ強力な薬をもってきても大司祭を連れてきても名医を呼んでも魔法使いに強力な治癒魔法を行わせてもフェルナはピクリともしなかった。


 もう玉座の間はすごい人で溢れていた。

 一国の王の娘だ。絶対に死なせてはいけないと人が躍起になる姿を僕とムシカはただただ眺めた。


「ここになにしにきたんだっけ?」


 僕はボソッとムシカに話す


「協力者に会うんじゃろ?100年がどーとか」

「あぁ、そうそう」

「もうそれどころじゃないがな」

「いや、お前のせい」


 カカカッとムシカが笑いこてんっと僕の身体にもたれかかる。幼女にして西を統べる大魔法使い。僕の腰の位置にも満たない小柄な身体と不釣り合いなデカイ態度。


「お前は何かにつけて僕に触ろうとするな」

「カカカッバレてしまったか」


 ムシカは歩く時は肩車をねだるか僕の服の裾を掴む。座れば体をもたげる。何かにつけて僕に触れようとする。


「赤子はのう、人肌がなくては死ぬんじゃが知っておるか?」

「人肌?ミルクあげててもか?」

「そうじゃ、赤子は人肌に触れずにミルクだけ与えると死ぬそうじゃ」

「不思議だな」

「だがな、人間、大人になっても赤子でも人肌に触れぬというのは辛いことなのじゃよ」

「そうなのか」

「だから妾はお前に、素手で指先で触れたいのかもしれんな」


 ときめく台詞だが相手が幼女なだけに全くなにも思わない。どちらかというとあったかい気持ちになった。こう・・なんだろう・・ホッとするというか。

 その気持ちがなんなのかわからなかったが僕は自分が思っている以上にムシカに対して他人以上の感情を持ち合わせているのかもしれない。


「だからって惚れるでないぞ」


 ムシカが無表情で僕にそんなことを言うから僕はお返しに鼻で笑ってやった。


「お前との恋物語なんて大木と芽を出した若葉くらい年の差すぎてもはや人外物だよ」

「・・貴様、やっぱり死刑じゃな」





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