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ルーラはぺったんこ。

 

 



 

 ムシカはあの日から僕を虫けらを見るようにな冷たい目で見るようになった。僕が働いている『マーカス劇団』のサーカスは今日も満員御礼だ。僕は『玉乗りのボレロ』として今日も誠意一杯玉に乗る。ピエロのメイクをしてバカっぽいヒラヒラの衣装を着る。そしてテントの中央のステージで華やかに道化を演じる。客席はステージを囲むように劇場型になっていて階段のようにステージから遠くなれば遠くなるほど位置が高くなっていた。今日も僕らは老若男女の喝采を受け無事一幕を終えた。


「で、もう依頼を快諾されてから一ヶ月が経ったように見受けるが?」

「あ。もう一ヶ月か」


 一ヶ月、僕が食事当番を命じられた期限だ。


「これでもう僕が、ここにいる意味もなくなったか・・」


 僕はステージ裏の楽屋で顔のメイクを落としながら器用大きな球に乗り続けていた。


「ボレロ、団長が呼んでるよ?」


 そう僕を呼びにきたのは魔獣使い(テイマー)のプラモだ。褐色の肌に身体中の刺青刈り上げた髪がよく似合う青年だった。刺青は身体中にできた魔獣の傷を隠すためだと昔聞いたことがある。


「ほーい」


 僕は素直に返事をしてムシカの頭をぽんぽんと叩くと団長の元に向かった。


「団長、どうしましたー?」

「ボレロ、もうそろそろだな」

「はい、すみません無理言って」

「いや、いいんだ。こうなることはわかっていたしね」

「やっぱり団長、ムシカのこと知ってたんですね」


 団長は恰幅のいい男だった。サスペンダーとシャツがはち切れそうな大きなお腹に黒いスボンを履いていかにもサーカスの司会進行役がしそうな格好をしている。黒いジャケットと黒いハットは脱いでいたが口元にあるちょび髭が左右に伸び毛先が半円を描いている。頭は綺麗に撫で付けていて太っているが清潔な男だった。


「あぁ、団員は家族だ。ムシカのことはもちろんお前さんのこともちゃんと知ってるさ」


 マーカス団長は不思議な男だった。なんでも知っていたしなんでもお見通しみたいな男だった。

 僕がまだ無職だった頃酒場で酔いつぶれる日々にふらりと僕の前に現れ、そんなはどうしようもない僕を救い出してくれたのもマーカス団長だ。


「ムシカがきた日になぜか僕だけに最初に合わせたのもこれを見込んで?」

「もーちろんだとも」


 なかなかに食えないやつだが、僕はそんなマーカス団長が好きだった。


「ボレロ、もうすぐ『100年祭』だ。すまんが頼む」

「・・・そう言うことか」


 僕は何だか腑に落ちた顔で苦笑した。


「団長!オーマンがきました!!」


 僕らが話していると、踊り子のルーラが血相を変えてやってきた。

 オーマンはこの街の役人だった。今滞在してる街はクラリネというゴットオブザランドでも大きい方の街だった。大きい街は大きくなればなるほど役人も目ざとくなる。僕らのサーカス団に税の徴収を行うことが奴らの狙いだったが、その中でも特にオーマンは一癖も二癖もあるような男だった。

 団長は苦笑いをしてルーラの肩をたたくとオーマンの元に出向いた。僕も向かう。どうやら公演の終わったサーカステントのステージにいるらしい。


「やぁやぁオーマン様。今日はどんなご用件で?」

「くどいなマーカス。税の徴収だ。クラリネの土地で営業してるんだ、金を取らんとな」

「先刻もそう言われ一ヶ月分もう支払いましたが?」

「税の徴収が増えたのだ」


 僕は嫌そうにオーマンを見る。ほんと嫌な男だ。何かにつけて金金と嫌らしいにも程が有る。オーマンは役所の制服をだらしなく着てタバコをくわえていた。髭も剃っておらず髪だけは横に撫で付けていた。中肉中背で顎が少しばかり出ていた。二人ほど兵士を連れているがその兵士も何だかだらしなくて兵士っぽくない。


「で、今回の税金はなんの税でしょうか?」

「今回はサーカス税だ」


 絶対そんなのない・・・。流石にばかな僕でもそれくらいはわかる。こいつやりおったな。ちなみにルーカス団長も負けてない。税はちゃんと役所まで出向き正式な手続きを行い支払っている。オーマンには一銭も払ったりしない。オーマンなんかに支払えばきっと役所に渡さず勝手に使われるだろうし。


「そんなの聞いたことがないな。わかりました、これから役所に出向き話を聞いてきましょう」

「いや。その必要はない。俺が受け取ろう、そんな手間をかけさせるのは可哀想だ」


 いや、こいつやりおったな。


「それはなりませんな。書類を通して払うというのが当たり前ですし」

「うるさいなぁごちゃごちゃ言わずに支払えよ!!」


 おいおいおい。


「なんだったらその女でもいいぜ?」

「はい?」

「その、踊り子だよ。俺はずっと気に入ってたんだ」

「それはなりませんな」


 いやいやいや、なんで借金もしてないのにこんなに取り立てられてるんだ?すごいなおい。


「おいーあいつら呼んでこい」


 オーマンは二人の兵士に何か言っている。兵士は気だるそうにどこかにいってしまった。


「マーカスさんよ。俺は役人だあんまり反抗しないでいただきたいねぇ」

「はっはっはっ、ぜーんぜん反抗していませぇーん」


 あ、ルーカス団長がふざけ始めた。これは相手を馬鹿にするときにマーカス団長がよくやるやつだ。


「なんじゃ?うるさいのぅ」


 ムシカが楽屋からひょっこりと顔をだす


「うお!なんだその子可愛い!!」


 いや、オーマン、お前ヤッベェな。


「おーい旦那呼んだかー?」


 すると、兵士たちが戻ってきたようだ。その後ろからずらずらと冒険者のゴロツキみたいな奴らがやってきた。ガタイの良い男たちが酒を片手に集まってくる。なにこの展開・・・


「こいつが税金を払わないんだ、お前ら遊んでやれよ」


 おい”ぃ”ぃ”い”い”?!なんで俺ら集団フルボッコされそうになってんのォォォオオオ!!?


「やめなさいよー。オーマン様ー」


 ルーカスさーん!! もっと本気で向き合ってぇえ!! もっとちゃんと話し合ってぇぇ?!


「ウヒョ!可愛い子いんじゃん!」

「俺はあの赤い髪の女の子がいいなぁ」


 おい”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”い”!!!? ルーラは怒り心頭って顔だ。ムシカはあくびしている。


「なんだなんだ?団長どうしましたー?」

「どうしましたー?」


 ナイフ投げの双子ルーとポポがやってきた。よかった。男手が欲しいところだった。


「私はあなたには一銭も払いませんよ。オーマン様」


 ルーカス団長が喧嘩をうる。アーァ。喧嘩だなこりゃ。


「俺、プラモ呼んでくるわ」

「呼んでくるわ」


 おい”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”い”!? 他の団員は確か綱渡りのジョンと空中ブランコのサニーとコロンだけど彼奴らヒョロガリとオカマ兄弟だし、呼んでも仕方なくないか?!


「おい、払いなよお金。それか女」


 オーマンが僕だけだとわかるとヘラヘラと笑いながら煽ってくる。


「女もお金もダメでぇーす!」


 ルーカス団長がヘラヘラ返す。おっさーん!! 全部僕に丸投げするつもりですかぁあ?!

 十数人ほどいるガタイの良い男たちはみんな同じ刺青を入れてる。みんな同じ仲間とかかな?もう犯罪者にしか見えないけど。


「んじゃ、見せしめにまずはそこのにいちゃんで遊んでやろうか?」


 やっぱみんな俺んとこくるやないかぁーい!!


「良いですよ、ボレロくん本気出しちゃってください」


 いや、やめてぇええ煽らなしでぇえ!! 僕もう久しく剣も握ってないんですけどぉぉぉおおおおお!! 何ならここ数年以上玉にしか乗ってないんですけどぉぉぉ!!!


「こいつが俺らどうにかできるようには見えんが、どれ」


 僕が目を白黒させていると僕の二倍はある一番偉そうでデカイ丸刈りの男が僕に近づいてきた。


「え」


 ボコんっ鈍い音とともに僕は顔のよこっぱしらぶん殴られた。


「ギャン」

「なんでぇい、ただのピエロじゃないか」


 いったぁぁ?!それから何度も胸ぐらを掴まれては殴られ続ける。


「ぐっ・・・ぶっ!・・」

「アレェーー?!」


 ルーカス団長が僕がボロ雑巾みたいに振り回されているのを見て目を丸くしている。

 何度も降りそそぐ大きな拳を顔面に浴びせられ意識が霞み出していく。


「ボレロっ!ルーカス団長!止めてあげてください!」

「なんじゃ彼奴、滅茶苦茶にされとるぞ?」


 僕は霞みゆく意識の中で思う。あのー助けてもらっても良いですか?

 僕は丸刈りのおっさんにボロンちょにされぺチョンと飛ばされる。


「ボレロ?! ボレロ?!」


 僕を抱き抱えてくれるルーラに幸せを感じたが痛みで意識がぼーっとする。


「ルーカス。彼奴はあんなやつなのか?」

「いやーそんなわけないんだけどな・・・あ、そうだ」


 ルーカス団長が小物入れに駆け出しおもちゃの短剣を取り出す。そしてぐったりと倒れた僕の手にそのおもちゃの短剣を握らせた。そして僕は意識を手放した。



ーーーーー

ーーーー

ーー



「よぉぉお!!!!!」


 ルーラに抱きかかえられたボレロは人が変わったように起き上がった。


「なんだ?」


 ボレロをボロ雑巾のようにした丸刈りの男がさっきまで意識朦朧としていたボレロの変貌ぶりに眉をひそめた。


「よぉ!よぉ!よぉぉお!!! 俺様の相手は誰だぁあ?! あ”あ”ん?!」

「なんだありゃ?」


 ボレロは血走った目とボコボコのなった顔から流れる血をそのままにして笑っている。


「ほぉ。彼奴も呪いを受けておるのか?」

「さぁ。でも確か彼の元職業は剣士だったから、もしかして剣もたせたらとは思ったんだけど・・」

「ボ・・ボレロ・・?」


 オーマンはボコボコになってもまだ立ち上がりおもちゃの短剣を握りしめたボレロに大笑いした。


「ぶははははっ!! 惨めだな!!」

「・・・なんかわからんがさっさと潰れちまいな!!」


 丸刈りの男がボレロに突進してくるが、ボレロはなんてことなさそうにその場に突っ立っている。そして手に持ったおもちゃの短剣を器用に回すとその短剣の柄で丸刈りの男の顔のよこっぱしらを思いっきりぶん殴った。

 ボォコっ!!と鈍い音とともに丸刈りの男がぶっ飛んでいく。


「ガァっ!!」

「ぶははははっ!!! よっわ!!」


 猟奇的に笑うボレロにオーマンとゴロツキ供が大きく口を開ける。


「な、何が起こったんだ?!」


 オーマンは開いた口が閉まらないようだ。ゴロツキたちがお互いの顔を見合わせている。ぶっ飛ばされた男の元に数人のゴロツキたちが駆けつける。


「団長?! 団長?! 大丈夫かよ?!」

「イッテぇええっ?!」


 団長と呼ばれた丸刈りの男が殴られた方の顔を両手で押さえている。そこは大きく肉が腫れ上がって片目が肉で潰れていた。


「うわぁ!こりゃヤベェ!」


 そんなゴロツキを押しのけまだ笑い続けてるボレロに丸刈りが吠える


「お前?! 誰だ?!」

「ハァ?! 今から死んじまう奴に教える名前なんかないっつーの」

「ヒィ?!」


 その言葉は冗談ではないようだ。ボレロは丸刈りの男に向き直りケタケタと笑い出した


「やっベーな彼奴」

「うん、どっちが悪者かわかんなくなってきたよ」


 ルーラはボレロの異様な姿にドン引きしていたがとにかく止めないと丸刈りが殺されると思い、後ろからボレロに抱きつく。


「やめてボレロ!」

「あ”ぁ?!」


 しかし、ボレロは丸刈りの元に向かうのをやめない。


「仕方ないのう・・」


 ムシカは指をパチンと鳴らすとむくむくと本来の姿に戻った。そしてボレロの前にスタスタと歩き目の前に立つ。ボレロにしがみついていたルーラも目の前に立っている見たことない女に目を丸くした。


「おい童貞、目を覚ませ」


 そしてボレロは目の前で揺れに揺れるムシカの豊満な胸に目を落とす。


「お、お・・お・・おっぱぁああああぁぁぁぁぁあああ?!」


 ボレロは例の如く鼻血をぶちまけぶっ倒れたのだった。


「なんなんじゃこいつ。」

「ボレロ・・・」


 ボレロは腫れた顔で鼻血を流しながらルーナの膝の上で安らかに眠っていた。


「はてはて、オーマン様もうよろしいですか?まだ何かあると思うされますなら、もう一度あの子を起こしても構いませんが・・・」


 ルーカス団長はハッタリをかました。ボレロが起きる可能性などなさそうだったが、あの狂気的な男を見て少しは身の危険を感じただろう。ルーカスはこのまま帰るようにと促した。オーマンは色々突っ込みたかったが、全部飲み込んでゴロツキどもと兵士を連れてその場を去っていった。

 残されたルーカスはご飯にしようとサーカス裏のテントに戻っていき、ムシカも後に続く。


「ボレロ?起きてボレロ」

「うーん」


 ボレロはボコボコの顔で目を開く


「ルーラ?!」


 覗き込むルーラにぎょっとしてボレロが起き出す。


「ひ、膝枕・・?!」

「ボレロ!後でポーションあげるからその傷治して!」

「は、はい?!」


 訳も分からずルーラに怒られるボレロはただただボコボコの顔で頷くしかなかった。


「ご飯行くわよ!」

「は・・はいっ!」


 ルーラは不機嫌そうに金髪の髪を揺らしながらテントの向かった。


「え、なんで起こってるの?ルーラ・・」

「別に!・・どうせ私はぺったんこよ!!」


 言われた意味も分からずボレロはただただその場に座り込んでいた。










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