赤髪の魔女の呪いと童貞魔法使い
僕はテントの中にいた。どうやら気を失って運ばれたようだ。
「うーん」
「お、気がついたか童貞よ!」
「童貞童貞言わないでくれるかな??!!」
僕は自分のテントの寝ぐらに居た。その横にチョンと赤毛の幼女が座っている。
「で。さっきのは何なんだ?」
「ふむ。妾も申し訳なかった。何の説明もなしにいきなり童貞に詰め寄るなど、淑女としての行いではなかった。すまんな」
「え、いや・・・うん・・」
淑女・・・なのか?まぁでもただの幼女でもなさそうだ。
「まずは、ちゃんと自己紹介じゃな。妾はムシカと申す」
「いや、知ってるけど・・」
「まぁ待て、妾は赤き魔法使いと呼ばれる西の魔女である」
西の魔女?確か、聞いたことがある。このゴットアイランドを中心として東西南北に分けた時、その方角で一番の魔法の使い手を総称してのその方角の魔女って呼ぶとか・・・。
「まっさかー」
「無礼者め!! 妾を愚弄するか!童貞であるお前が!!」
「ヒィっ!」
「そして話を続ける」
「はい・・」
何でもこのムシカと言う幼女は本当に西全体で一番の魔法の使い手であって、大昔にダンジョンに誘われ、ほんの出来心で向かったらしい。最初は順調に進んでいたらしいが途中で神に出会ったらしい。だがムシカは神とは知らずに構わず攻撃したらしい。すると神は虫の居所が悪く大層怒ったそうな。そしてムシカに呪いを与えたらしい。『それはわしに手を出した罰じゃ、それを治したくば死に物狂いで100階層に来い』そう言われたそうな。
「いや。ムシカが悪くね?」
「うるさーい!! あんな薄暗いところに神がおるなんて思わんじゃろ!!」
うーん。本当かなぁ。
「で、どんな呪い?」
「それはこの体と手じゃ」
「ふむふむ」
何でも自分の本来の姿と力は一日5分しか使えないらしい。さらに手がもっと厄介で素手で触れたものを弱らせていくらしい。
「それって・・」
「そうじゃ。昨日のバルクックじゃ。昼間、湖で入浴中にお前の大声であやつが飛び出してきてな、触れてしまったんじゃ」
あーなるほど。
「でも何であの時、本来の姿に戻ってたんだ?」
「入浴中くらい自分の豊満なボディを愛でたいものじゃ」
いや、全然わからんが・・・。
「そういえば、僕、あのバルクック治せたよな?」
「そう!そこが肝心なのじゃ! 魔法使いの世界でまことしやかに囁かれていたことがあっての、童貞をこじらせた男はどんな呪いや魔法も効かぬと言う話じゃ。妾は探しておったのよ、その拗れた男を!!」
いや、拗れたって辛いんだけど・・・
「でも、童貞なんて世界に僕だけじゃないだろう?」
「そう、大事なのは拗れていることと其奴の力じゃ!」
「力・・・?」
「先ほど勝手ではあったがお主の刻印、調べさせてもらったぞ」
何だって?? 刻印とは神が世界に作ったダンジョンとともにもたらされた恩恵の一つだった。体のどこかに自分の力を刻んでいく言わば自分の力を明確に記した自分説明書のようなものだ。僕の刻印は太ももの裏にある。
「見たのか・・・?ケダモノ・・」
「お前の汚らわしい太ももなどこれっぽっちも興味惹かれぬわ」
くそぅ!! 童貞のメンタル舐めんなよ!ガラスのハートなんだからなっ!!
「妾の呪いを解くのは妾と同等、もしくはそれ以上の力を持つ拗れた童貞だけじゃ」
「ふむ。つまり僕はムシカと同じかあるいは強いってことか」
「そうなるの」
「そっか!わかったありがとう!じゃ、僕もう寝ていいかな?」
「なぜじゃー!!! 妾は頼んでおるのじゃ!妾とともにダンジョンに向かいこの呪いを解いてくれ!!」
「やだよーめんどくさい」
本当にめんどくさい。もうダンジョンになんて更々いく気ない。
「頼むー、妾がなん百年、拗れた童貞を捜し続けたと思っておるのじゃー」
僕の腕にしがみついてわんわん泣く幼女に僕は大きくため息をついた。
「別に僕じゃなくていいだろう?今ダンジョンに潜っている最前線の冒険者たちと組めばいいじゃないか」
「妾は5分しか力が使えぬのだぞ?入れてもらえるわけないだろう?!」
んまーそうなるわな。あんなところに5分しか使えない幼女連れて行ってもお荷物なだけだよな。
「しかも、もし間違って手に触れてしまえば弱って半日もせずに死ぬのだぞ??」
いや、お荷物じゃなくて爆弾だよな。僕も連れて行きたくない。
「だったら尚更嫌だ」
「頼むのじゃー。もう童貞を捜したくないのじゃー」
いや、本音漏れてますけど・・
「じゃぁ、報酬は?」
「報酬?」
「そうだよ。これは依頼だろ?僕に頼みたいならそれなりの報酬をくれよ」
ま。それに見合うものなんてないだろうけど。僕は金には興味ないし。
「では、お主にこの身体をやろう」
「は・・・?」
「お主の童貞をわしがもらってやると言っている」
・・・・。
何だってぇぇぇえええええ????!!!
「ま、まじか?」
「まじじゃ」
いや、待て。流石に幼女に相手にしてもらうっていうのは・・・
「妾の依頼が終われば、妾は本来のバインに戻るぞ」
「ま、まじか・・・」
いや、でもまてよ。こいつ何百年捜してたとか大昔と言ってたよな・・・本来はめちゃんこおばあちゃんじゃないのか?
「妾は西の魔女じゃ、人間の何百倍も長いあいだ生きその美貌は最後まで続く。だから妾は西の魔女なのじゃ」
「何で僕の心読んでんだぁぁぁあああああ??!!」
くそう・・・なんて魅力的なお誘いなんだ・・・あんな美女とやれるんなら・・僕はやりたい!!
「少し・・・考えさせてくれ・・」
「ふぅむ。仕方があるまい。いい返事待っておるぞ」
そう言い残すと赤毛の幼女はテントを後にした。僕は本当にこのまま生涯、童貞なのだろうか・・・。もしかしたらこの誘いを蹴って何日かしたらあっさり童貞卒業できるんじゃないだろうか・・?はぁ。何なんだ全く。僕は気だるい体をむくりと起き上がらせ自分のテントを出た。
「あ、ボレロ大丈夫?」
そこにいたのは踊り子の看板娘ルーラだった。まだ踊り子の衣装にも着替えていなくてそのラフな格好もまた可愛い。
「大丈夫、まだショーは始まってないんだね」
空はかんかん照りでショーの準備をしていた団員たちを見るところ、ショーは大体昼下がりに行うから、どうやら僕は昨日の夜から昼前まで寝ていたらしい。
「えぇ。もう少ししたらショーが始まるから起こそうと思っていたの」
「そうだったんだ。気絶してたから時間がわからなかったけどそんなに経ってなかったんだ」
「そうね。ムシカちゃん、昨日の夜中からずっとあなたのこと見てたのよ?」
そうなんだ。あいつも少しは優しいところあるのかな・・いや、魔獣のバルクックを心配してた時点で優しいのか。僕はそんなことを考えながらショーの準備に加わる。僕らはいつも訪れた町の外れで一番大きくひらけた場所に移動式の大きなテントを張ったりもしくは野外でショーをする。今日訪れた街の外れはかなり大きな土地があって本格的なショーができた。テントを張るのに半日、早朝から初めて昼下がりごろにはショーを行う大体一週間から長くて半月ほどそこに滞在する。テントはもうだいぶ出来上がっていて他の団員たちに罵声を浴びせられる。僕は覚悟していたがしょんぼりと肩を落とした、罰として食事当番を一ヶ月命じられたがそんなことでいいならと僕は素直に従った。
僕はここが好きだ。正直離れたくはない。やっぱりムシカの依頼は断ろう・・。そう思っていた矢先ムシカを見つけた、ショーの手伝いもせずに少し離れたところでチョンと地面に座り込みどこか遠くを見ている。僕はため息をつきながら彼女の元に近づいた。
「のぅ」
バレたか・・。
「何だよ」
「誰にも触れれぬというのは、存外悲しいものよのう」
・・・・。そうか。こいつはそういう悲しみを背負っているんだな。何百年も・・もっとかな?
「手袋があれば触れれるだろう?」
「ちょっとならな」
「長い間はダメなのか?」
「うむ」
それは辛いな。
「僕以外には誰にも出会えなかったのか?」
「あぁ。ワシと同等のやつはおらんかった」
「そうか。」
うーむ。幼女の姿で哀愁漂わせるとはこいつもなかなかやるな・・・。
僕はムシカの隣に座って同じように遠くを見た。
「何見てんだ?」
「すべて」
「景色?」
「そうじゃな」
「見てて楽しいか?」
「見ているだけなら死ぬことはない」
そこで団員が僕等を呼ぶ
「おーい客が集まってきたぞー!ショー始めるからこっちこーい!」
ネガティヴだな。全く・・・。僕はムシカの手を握る。
「こい!ショーが始まる。お前も見るんだよ!」
「なっ!」
「この呪い僕には効かないんだろ?さっさとこい!そのしんみりしたジメジメ顔を元気な笑顔にしてやるからよ!」
ショーは楽しいぞ。人を笑顔にするんだ、僕はこの仕事が好きだ。でもまぁ、こんな悲しそうな顔をしてる幼女の魔女だすけっていうのもいいかもしれないな。僕はそう思いながら『マーカス劇団』のテントを潜る。
「いいぜ、ペッチャンコ!その依頼この童貞が請け負った!」
「ほ、本当か?!」
「あぁ!だから今日はサーカスを楽しめ!」
「お主はいい奴じゃ!!」
「あ、でも出発はまだ先な」
喜びに満ちた赤毛の幼女はみるみるうちに顔を曇らせる
「意気地が無いの!だからお主は童貞なのじゃ!!!」
「うるさぁぁああああい!!!」