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神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~  作者: やすピこ
第二章 開幕

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第三十二話 神の作りし物語

「何事ですか! 会うなりいきなり皆して俺を二階まで引っ張ってくるなんて」


 『やっと見付けた!!』と言う怒りの感情と『やっと見付けた~』と言う喜びの感情が複雑に入り混じった、魂の絶叫を上げた俺達三人はダイスを無理矢理引き摺って二階の先輩の部屋まで連行した。

 途中引き摺るのが面倒になったので俺がお姫様抱っこする形で階段を駆け上がったら、それを見た女性陣から歓喜の声が上がったのは何故だろう?

 一部男性陣からも上がったのは少し背筋が寒くなったので聞かなかった事にした。


 あまりの騒動だった為、気になった奴らが聞き耳を立てないように部屋には防音の魔法を掛けてある。

 部屋が部屋なだけに鍵穴から覗かれないように、貫通型じゃないのでそこも安心だ。


「ダイス君。君には魔族に乗っ取られたと言う容疑が掛かっているのだよ」


 探り合いが面倒臭いので単刀直入に聞いてみた。

 口調はまぁアレだ。推理物とかで容疑者を追い詰める探偵みたいなイメージ。


「な、何言ってるんですか! 俺が魔族に乗っ取られたなんて、有る訳無いじゃないですか!」


 必死に容疑を否認するダイス。その必死さが疑わしい。


「乗っ取られた奴は大抵そう言う」


「そんなぁ~。違いますって~」


 ふふふっ、そんな困った顔の演技など、俺達の魔法にかかれば嘘だって事が一目瞭然だぜ!


「やかましい! 行くぞ皆!」


「「おう!」」


「「「アナライズ(鑑定)!!」」」


 俺達三人は一斉に鑑定の魔法をダイスに掛けた。

 この世界の魔法にも『鑑定』の魔法はある。

 ただ情報が目に見える訳じゃなく、頭に浮かんでくると言うか、脳内に自動音声でその結果が語られると言う感じだ。

 俺の今日の音声は可愛い感じの若い女の子の声だった。


 うん今回は『大吉』だな。


 何を言っているのかと言うと、鑑定時に流れる音声には何故か老若男女様々な声がランダムで流れてくる。

 その為、魔術師の間では占いとして流行っており、毎朝起きたらまず鑑定、と言う奴も居る。

 中には一度聞いた声に惚れてしまい、またその声に巡り合う為に延々と鑑定を唱え続けている者や、その声の持ち主を探す為に冒険に旅立った者が居るなんて言う笑い話も有る位だ。


 その声ついては諸説有るが、俺としては一度聞いた事の有る声を元に生成されているんじゃないかと思っている。

 何故かと言うと、記憶の中に有る俺が育った村の人達の声や、ムカつく事にあの神の声まで有りやがった。


 勿論自動音声なのでこちらからの罵倒の声には全く応答が無かったけどな。


「う~む。俺のは熟女っぽい妖艶な声だったな。俺的には大吉だが、まぁ一般的には中吉と言う所か」

「俺は可愛い声した女の子だったぜ。大吉だな」

「ぐっ。私はジジイの声だった……。凶とは……。この勝負、ソォータの勝ちか」


 俺達は鑑定時に流れて来た音声の結果を言い合った。

 今回は俺が一番運が良かったようだな。

 

「ちょっ! なに呑気に占いしてるんですか! 俺の鑑定結果はどうなったんです?」


 無理矢理連れて来た癖に、勝手に別の事で盛り上がっていた俺達にダイスが文句を言って来た。


「す、すまん。つい。ほら俺って力を内緒にしてたから、一度魔術師あるあるの鑑定結果合戦をしてみたかったんだよ」


 酒場で魔術師達が盛り上がってるのを見て、いつかやってみたいと思ってたんだ。

 ある意味夢が叶ったぜ。


「う~ん。俺の鑑定結果だが、怪しい所は見当たらないな。お前達はどうだ?」


 先輩が首を傾げて俺達に聞いて来た。


「ふむ、魔族に洗脳されている奴に掛けた事は有るが、その際『隷属深度』と言うレベルで表されていた。しかし、魔族に対しては掛けた事が無いから分からないと言うのが正直な所だな。私の鑑定結果も怪しい所は見付からなかった。神の使徒たるソォータはどうだ? お前ならもっと深く分かるんじゃないのか?」


「え? 神の使徒? 先生が?」


 ダイスが王子の言った『神の使徒』と言う言葉に反応して、何か納得する様な顔でうんうんと頷いている。

 その動作の意味は分からないが、王子もいい加減『神の使徒』と呼ぶのはやめて欲しい。

 確かに王家の伝説で語られている『神の使徒』は紛れも無く俺の事を指しているんで、仕方無ぇなと思ってはいたが、そんな事が有ったとは知らずにメアリを怒鳴ってしまった手前、凄い罪悪感が湧いて来るんだよ。

 そもそも、本当は『使徒』じゃなくて『玩具』だしな。


「ヴァレンさん、それ止めてくれねぇか? 話の流れで黙ってたけど、その呼ばれ方は好きじゃない」


「す、すまん。つい伝説が本当だった事が嬉しくてな」


 まぁ気持ちは分からなくもないけどな。

 なんせ自分の代で王国を滅ぼしてしまったんだ。

 女媧に対しての恨みは計り知れないし、そこへ伝説通りの者が現れて、女媧は見事討ち滅ぼされた。

 そりゃ浮かれても仕方無いな。


「伝説……?」


 ん? ダイスがまた王子の言葉に反応したな。

 何だってんだ? やはり女媧に乗っ取られているからか?

 早く正体を暴かねばな。


「取りあえず俺の鑑定結果は、呪いは……無いな。状態以上も……掛かっていないし。変な称号も付いていない。おかしいな……?」


 名前の後ろに『魔族!』とか付くと思ってたのに。

 魔族化がそこまで巧妙だとは……。


「ほら! 言ったじゃないですか! 疑惑は晴れましたか?」


 むむむ? クソッ魔族め! 『お前達にバレる訳無いだろ~』みたいなどや顔しやがって!

 しかし、まだ俺には秘策が有る!


「いや、まだだ! お前の名前を言ってみろ」


 こいつの名前を言える奴はそうは居ない。

 知っていても俺は言えないな。


「え? ダ、ダイス……」


「違う! 本名だ!」


「えっ! えぇ! そ、それは!」


 ダイスは本名を聞かれ慌てて王子の方を見た。

 いや、この慌て方は怪しい訳じゃない。

 こいつなら乗っ取られていなくとも、こう言う行動をするだろうな。


「ダイス。ヴァレンはお前と()()だから、安心しろ」


 先輩が苦笑しながらダイスにそう説明した。


「ほう、ダイスくんも()()なのか。あぁ、私の場合は『()()()()()』の、だがね」


「えぇ! それってもしかして、ギルドマスターが言っていた先輩の故郷の行方不明だったと言う第一……? ヴァレンさんがそうだったなんて……。分かりました。俺の本名はディオン・イヴォン=ヴァリエール・ステファーヌ・ド・アーレンクールです」


「相変わらず長い名前だな。それを舌噛まずに言えるのは大したものだ」


 そう、こいつの本名は長くて言い難い。

 俺は最初聞いた時、思いっ切り舌を噛んで悶絶したわ。

 まぁ、この名前が示す通り、こいつも身分を偽って冒険者をしている。

 ダイスと言う名前も長ったらしい本名の頭文字から取ったと言っていたな。

 俺がこいつの頼み事を聞いたりしているのも身分を偽っている者としてのシンパシーを感じての事だ。

 まぁ俺の場合は、こいつと真逆で悪名を隠す為なんだが。


「先生! 人の名前に酷い言い草ですね! でもこれで信じて貰えましたか?」


「ほう、その名前は……、確か西の国の?」


「えぇ、と言っても継承権なんて下から数えた方が早かったりしますけどね。小さい頃から城を抜け出してばかりいた問題児だったし、ある意味国から勘当されてしまったんで、今ここに居るんですよ」


 そうそう、懐かしい。

 初めて俺の前に現れたのは、まだこいつが十五か十六の時だったか?

 育ちの良さはさすがだったが、人生を斜に構えた生意気なガキだったっけ。

 あまりにも乱暴者だった所為で、国から武者修行の旅に出ろとか言う名目で追い出されたとか言ってたっけか。

 まぁ、そんな乱暴なガキだったこいつも、俺が教導役になって最初の生徒だったもんだから、加減が分からず結構無茶な鍛え方した所為で、すっかり性格が矯正されて、今じゃその紳士振りは冒険者たる者、かく有りきと言われる程だ。

 まぁその事について俺のお陰と言えるな。うん。


 ん? しかし、名前を言えたのもそうだが、魔族に乗っ取られた奴はここまで過去の事をサラサラと喋れるものなのか?

 王国に現れたと言う女占い師の場合はどうだったんだろうか?


「ちょっと、二人共。 女占い師の時って、元の女の意識はどうだったんだ?」


「それに関しては俺が詳しいな。なにせその女の村にまで調査に行ったんだからよ」


「あっそうか。王子の依頼で調査してたんだったな。どうだった?」


「あぁ、森から帰って来た時は人が変わった様になって、親が名前を呼んでも反応もせず、自分の事を『ジョカ』と名乗って村から去って行ったそうだ」


 『ジョカ』か、やっぱりあのプレートに書かれていたのはあの魔族の名前で良いんだな。

 しかし、行動がダイスとかなり違うな。


「と言う事は、今のダイスの行動は……どう言う事なんだ?」


 俺達はダイスを見詰める。

 まさか本当に乗っ取られていないのか?


「いや、安心出来ない。仕方無いな、さすがの魔族でもこれは堪えられないだろう! フフフフッ」


 そう、俺には最終兵器がまだある。

 さすがの魔族と言えども尻尾は現す筈だ。


「え? 何するつもりですか? なんか嫌な予感するんですけど?」


 女媧め! 焦っているな。

 逃しはしないぜ!


「安心しろ! お前が魔族じゃなかったら痛くも痒くも無ぇ筈だ。行くぜ! ブレス(祝福)! ピュリフィケ―ション(浄化)! ホーリーレイ(聖なる光)! 止めにゴッドグレイス(神の恩寵)!」


 魔族に効きそうな魔法を片っ端から唱えてみた。

 普通の人間なら元気になる事は有れど苦しむ事は無いだろう。

 最後の魔法は治癒魔法の最終奥義みたいなものだし、神の敵たる魔族ならそれだけで致命傷を負ってもおかしくない筈だ。

 どうだ? 苦しんだか? ……あれ?


「何か、身体に力が溢れて来ましたよ~」


 あれれ? 全く効いていない? いや、ある意味効きまくっている。

 これだけの魔法を掛けられた人物なら、それこそ魔族にも勝てるんじゃないか?


「おっかしいなぁ~。どうも本当に乗っ取られていないのか?」


 俺たち三人は腕を組みながら自分達の推理が外れた事が納得出来ず首を傾げた。


「だから最初から言ってるじゃないですか! それよりなんで俺を疑うんですか?」


「いや、お前魔族から出て来た光る玉を拾ったろ? ヴァレンさん……、いや、王子の国には、アレに触ると次の魔族になると言う伝説が有るんだとよ」


「あぁ、それでですか~」


 ダイスはやっと俺達の行動に納得したと言う顔で、手をポンッと打った。

 『それ』ってなんだ? あれが何か知っていたと言うのか?


「おいおい、どう言う事なんだ? 何を納得してるんだよ」


「いや~、ギルドマスターが知っているとは思わなかったんで、触ったら危険と思って内緒にしていたんですよ」


「「「なに!」」」


「知っていたのかお前! アレが何なのか?」


「いや、アレに関しては知りません。ただ、先輩があいつを魔族だと言ったんで、もしやと思ったんですよ」


 訳が分からねぇな?

 俺と先輩はハテナを頭に浮かべたままダイスの顔を見詰める。

 しかし、王子は何か思い付いたような顔をしていた。


「もしや、ダイスくんの王家にも魔族に付いて伝説が有ったりするのか……?」


「そうなんですよ。王家に伝わる秘密の伝承です。今じゃ誰も信じていませんでしたけどね。どうせ王家の権威の為にでっち上げられた建国物語だと思っていました。勿論『神の使徒』の記述も有りますよ。うちの場合は『勇者』ですけどね。いや~薄々と感じていましたけどやっぱり先生がそうだったんですね~」


「も、もしかして、それで誰にも言わず俺の所に持って来たのか?」


 俺の言葉に嬉しそうに頷くダイス。

 おいおい、王家に伝わる秘密だからと、ギルドマスターにも言わず俺の所まで持って来たって事なのか?

 しかし、何故五日間も持っておきながら魔族に乗っ取られなかったんだ?


「そうなんですよ~。本当はすぐにでも行きたかったんですが、先生が俺に全てを任せて帰っちゃったじゃないですか~。その後始末に時間が掛かったんですよ」


 あっ、そうか。そう言えば忙しくて毎日引っ張り凧だったと言う噂を聞いていたな。

 単純に時間が取れなかったって事か。


「しかし、ならなんで無事だったんだよ。触ったとか言っていなかったか?」


「えぇ触りましたよ。でも祝福の魔法を受けていましたからね。瘴気を弾いた時と同じパキンと言う音がしたんで、これは俺の国の伝承に有る魔族の角と同種の物かと思って袋に包んで持って帰ったんです。魔族の角も触った者は、その角が生えて来て魔族になると有りました。だから仲間の治癒師に、毎日袋に祝福を掛けて貰ってたんです」


「ななななな!!」


「最近現れた『勇者』は、うちの伝承に登場する『勇者』と違うな~と思っていたんですよね。いや~、やはり先生だったんだ」


「そ、それで光る玉はどうしたんだ? 今どこに有る! 早く破壊しなければ!」


 王子が慌ててダイスに問い詰める。

 あっ、言ってなかったわ。


「あぁ、それなら先生が触ったからどっかに飛んで行っちゃいましたよ。先生言って無かったんですか?」


「「なっ!なにぃぃぃぃ!! なんでそれを早く言わないんだ!!」」


「ごっ、ごめんなさいぃぃ!!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ふぅ、あれから二時間、先輩と王子にこってりと説教されている。


 勿論正座でな。


 既に足が痺れて感覚も無く、死にそうになっている。

 神め! なんで正座なんかこの世界に持ち込んでるんだよ。

 説教の最中、玉から放たれた光は北に飛んで行った件と、プレートに書かれている『1st』に関して意味の説明をした。

 あぁ、神やこの世界の事は話していないけどな。

 そんな事喋ったらこの世界の住人は発狂するんじゃねぇかな。

 こればっかりは誰にも喋れねぇ。


 しかし、俺は説教されながら一つの仮説を立てた。

 王子の国に伝わっていた魔族の伝説は、ダイスの王国にも伝承として伝わっていた。

 内容から別の魔族に付いての様だが、概ね建国に関する内容だ。

 そしてそれには俺が登場する。

 と言う事はだ、もしかしてこの世界の王国全てに同じ様な魔族に付いての話が有るんじゃねぇか?

 要するに少なくとも王国の数だけ魔族が居る。

 そしてそいつらを全部倒さないとエンディングを迎える事が出来ない。

 それ以上居るかもしれないと言う可能性は考えない事にするぜ。


 ハァ……一体この世界。どれだけの国が有りやがるんだ?

 それに中にはアメリア王国の様に既に滅んだ国もあるかもしれん。

 頭が痛いぜ……。


 俺は、ようやくおぼろげながら、微かに見えて来た神の作りし物語の終わりの遠さに、それと同じくらい気が遠くなるのを感じた。

 しかし、今はその事よりも……。


「そろそろ許してくれよ! 足が痺れて死にそうだ~!」



二章の最終話です。


もし面白いと思って頂けましたら、ブクマと評価、感想をして頂けると励みになります。


三章も頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

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