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第三十一話 捜索

「ダイス殿なら、先程お帰りになりましたよ」


 厳つい顔の門番にダイスがまだ屋敷に居るか尋ねた所、一足遅く既にダイスは屋敷を去った後だった。


「なぁ、何処行ったか知らねぇか?」


 くそっ! 一足遅かったか。

 なんとしてもダイスを早く見付け出して魔族に乗っ取られたか調べないとな。


「それより、あなたは誰ですか? 何処の馬の骨か分からない者に他人の情報を教えられる訳無いでしょう」


「グッ……」


 くそ、こいつ厳つい顔をしてる癖に丁寧に正論を言って来やがる。

 普通こんな厳つい顔の奴なら『誰だぁお前は~? どっか行きやがれ。このドブネズミめ!』とか言うんじゃないのか?

 さすがは領主の屋敷の門番と言うことか。

 しかしそれが逆になんかムカつく。

 

「すまないが一刻を争うのでね。俺の顔に免じて教えてくれねぇか?」


「ハァ……ハァ、わ、私からもお願いする……。ハァ……ハァ」


 俺と門番とのやり取りに業を煮やした先輩と王子が間に入って来た。

 王子は相変わらず息が上がったままだな。


「ん? あっ! あなたは冒険者ギルドのマスターではないですか! それにヴァレン学長まで! そのご様子だとかなりお急ぎのようですね。分かりました。お二人の頼みと言うなら仕方有りません」


 クッ! これが人望と言う奴か……。いや肩書きのみによるものと思いたい。

 この門番、さっきとコロッと態度を変えて顔に笑顔まで浮かべてやがる。


「ダイス殿がお帰りの際に挨拶しました所、この後商店街の代表に会いに行かれると言われておりました。さすが街を救った英雄。忙しい事です」


 英雄……か。

 俺が面倒事を全てダイスに任せたとは言え、ちょっと羨ましいと思ってしまった。

 教会によって授与される勇者や聖女と違い、英雄は貢献度によって国から与えられるその国の中だけの称号だ。

 とは言え、敵国でもない限りどの国でも尊敬される人物である事は変わりない。

 要するに英雄は、訳の分からない理由で勝手に決められるのではない、純粋に人々から称賛される者がそう呼ばれると言う事だ。

 元より冒険者として様々な活躍をしているダイスの事、まぁ他にも理由は有るが、今回の活躍で英雄授与は確定だろう。

 皆もそれが分かっているから、授与前だがダイスの事を英雄と呼んではばからない。

 昔は俺も英雄に憧れたよな。

 止まっていた心が動き始めた所為か、ふと昔のその憧れが浮かんできた。


「おい! ソォータ! 何をしている! 早く行くぞ!」


 少しボーッとした俺に商店街に向けて走り出そうとしていた先輩が声を掛けてくる。


「あっ、すまん。すぐ行く。そうだ! 門番さん。領主は一緒に出掛けたのか?」


「いえ、今日は屋敷に居られますが、それが何か?」


 門番の言葉に俺は安心した。

 これなら大丈夫だな。

 そう思い、俺は少し先行きで振り返ってる二人の元まで駆け寄った。


「すまんすまん。確認したい事が有ったんだ。それより、すぐにそこの路地裏を曲がってくれ」


「どうした? 近道でも有るのか?」


「ちょっとな」


 俺の言う通り、俺達は少し離れた路地裏を曲がり、俺だけそこで立ち止まり周りを見渡し人目が無い事を確認する。


「おい! 何立ち止まってるんだ!」


「ちょっと静かにしてくれ。人に見られたくない」


 俺は大声出した先輩に向けて人差し指を口にあて静かにするように注意した。

 その態度で何か有ると気付いたのか、二人は黙って立ち止まった。


「もし、既にダイスが魔族に乗っ取られていたとして、それによって領主を下僕にしたとしたらやばいだろ。このまま放って置けないぜ?」


「それはそうだが、今から領主に会って確認する時間は無いぞ。それよりまずダイスを確保する事が大事だ」


「いや、会う必要は無い。今回の件、報告に上がっていないか? 魔物化する前の状態なら洗脳されてても浄化で元に戻るってな。赤目になっていなければ間に合うはずだ」


「あっ! なるほど。その事については報告書に上がっていた。その事をあの頃に分かっていれば……」


 おや? ダイスが魔族に乗っ取られていたら、この情報は言っていない可能性が有ったが報告済みか。

 ギリギリ乗っ取られる前だったって事か? そいつはラッキーだ。


「ガーランドよ。その事はもう過ぎた事だよ。それよりこれからは二度とそのような悲劇を起こさない様にする事が大事なのだ。……で、ショウタ。どうするのだ? 今から領主に会い行かずにどうやって浄化を?」


「簡単な事だ。ここから屋敷全体を浄化する」


「「なっ!! 屋敷全体だと!!」」


 俺の言葉に二人は大声を上げて驚いた。


「ちょっ! だから声が大きいって。こちとらその姿を見られたくないんだしよ」


「す、すまん。しかし、ここから屋敷全体など、それこそ大規模な魔法陣の作成と儀式が必要になるんじゃないのか? それ程の時間はさすがに無いぞ」


「いや、必要無い。戦闘中ならいざ知らず、魔法だけに集中出来る今なら魔力をブッ込めばそこら辺は無視出来る。すまんが周りの警戒を頼む」


 俺はそう言って地面に両手を当て、浄化の魔法の範囲を屋敷の中心を起点として屋敷全体に広がる様に構築する為、意識を集中し魔力を高める。

 

「無視出来るって簡単に言うが、お前……。よし、私が周囲に不可視の魔法を掛けてやろう。……コンシール(不可視)!」


 そう言って王子は俺の周りに範囲外の者から見えなくさせる魔法を唱えてくれた。

 これで余程の事が無いと気付かれないだろ。

 しかし、さすが王子。無駄の一切無いとても綺麗な魔法生成だ。

 これに関しては、魔力に頼って無理矢理押し切る俺じゃ出来ない芸当だな。


「王子! 助かった! ……それに、よしっ! 魔法も完成した。じゃあ! 行くぜ! ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!」


 屋敷の中心に設定している発動点に凝縮させていた魔力が、呪文の発動と共に解放され屋敷全体を覆い尽くす。

 屋敷は俺の魔法によって隅々まで浄化されていっている。

 発動点を中心とした球状広がる為、地下に居ても逃れる事は出来ない。

 これで取りあえずは一安心だろう。

 幾ら魔族でもいきなり魔物化最終段階にはしないだろうからな。

 しかし、魔法の発動を見ていた二人は首を傾げていた。 

 それは仕方無いな。


「おい、ショウタ。 今何らかの魔法が発動したのは分かったのだが、屋敷に変わった様子は無いぞ? 浄化の魔法なら光ったりするだろ?」


「う~む。屋敷全体から浄化の際の聖なる波動は感じたが……。どう言う事だ?」


 いや、魔法発動を感じたのだけでもすごいよ。

 しかも、王子は浄化時に放出される浄化の波動まで感知したのか。

 メアリもそうだったが、さすが親子だな。

 俺もまだまだだ。


「そりゃ、いきなり領主の屋敷がピカーッって光ったら大騒ぎになるでしょうが。隠蔽の魔法に乗せて発動させたんですよ。しかし、それが分かるなんてさすが、先輩と王子だ」


 俺の言葉に二人はあんぐりと口を開けていた。


「それは嫌味か! 隠蔽の魔法ってそんな使い方する魔法じゃねぇぞ! この非常識め!」


「う~む、実際に見ると驚愕の一言だな。なるほど、これが伝説に有る神の使徒の力か」


「嫌味とかじゃ無ぇって……、あっ! 今なんか手応えが……」


「どうしたっ! やっぱり魔族の下僕にされていたのか?」


「い、いや。なんか数体の霊を浄化したわ。悪霊っぽかったが魔族とは関係無ぇな」


 感触では古い霊っぽかったんで、今回の件とは関係無さそうだ。

 所謂地縛霊って奴だろうな。


「あっ、あぁ……。恐らくそれは領主の屋敷に伝わる有名な怪談の奴だな……。他は手応えみたいなのは無いのか?」


 有名な怪談の霊か……。心霊スポット一つ潰しちゃったよ。

 しかし、他には抵抗された様子も無いし、瘴気も感じない。

 少なくとも魔族による影響は無さそうだ


「あぁ、魔物化された訳じゃ無さそうだ。とは言え、安心出来ねぇ。先を急ごう」


「あぁ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あぁダイス殿なら、先程商店街の裏路地に有る武器屋に向かわれましたよ」


「「「なに~」」」


 商店街の代表の事務所に付いてダイスの所在を確認すると、一足遅れで既に移動した後だった。


「くそ~入れ違いか! 仕方無い」


 隠れて『 ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!』


「さぁ! 次に行くぞ!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あぁ、ダイスさんなら俺が仕上げた武器を嬉しそうに受け取って帰って行ったぜ。確か『草原に吹き荒ぶ風』亭に食事に行くと言ってたかな? 知ってるだろ? ほら街の中央に有る」


「「「なに~」」」


 隠れて『ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!!』

    ・

    ・

    ・

    ・

「「「なに~」」」


 隠れて『ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!!』

    ・

    ・

    ・

「「「なに~」」」


 隠れて『ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!!』

    ・

    ・

「「「またか」」」


 隠れて『ワイド()エリア()ピュリ()フィケ()ーション(浄化)!!』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ハァハァ……、ダメだ見つからねぇ」


 あれから何軒もダイスの捜索を行う為に、向かったとされる場所を周ったが何故か何処もかしこも移動した後だった。

 それも先程の店で途切れてしまった。

 空は既に茜色に染まり、遠くからカラス……みたいな鳥の鳴き声が聞こえて来る。

 まぁ、所謂夕暮れって奴だ。

 しかし、あいつ街移動し過ぎだろう。

 それとも俺達から逃げてやがるのか?

 ただ、幸いな事に今のところ全ての場所で魔物化や洗脳の影響は見られなかった。

 全てが無駄足。俺の今日一日の成果は街の心霊スポットを潰し回った事ぐらいだ。


「ハァハァ……し、仕方無い、一度ギルドに戻って対策を練ろう。ハァハァ……メ、メアリも心配だしな……」


 王子……。それ疲れたからメアリに会いたいだけだろ?

 ただこのままじゃ埒が明かないのは確かだ。

 他の奴の手を借りて探すのも良いかもしれない。


「そうだな。ギルドマスター権限でダイスの奴を街の外に出れないように手配しよう」


 先輩の言葉に俺と王子は大人しく頷きギルドに向かって歩き出した。

 今日は疲れた……。

 走り回ったのもそうだが、全ての場所で魔力を馬鹿みたいに使う広範囲浄化を行ったので、さすがの俺も魔力の使いすぎでへとへとだ。

 取りあえずギルドの酒場で飯を食べよう。


 カラン、カラン……。


 三人共、重い足を引き摺りながら、なんとかギルドの前にやって来た俺達は、ギルドの扉を開けて中に入る。

 肉体的疲労は俺の魔法で回復させてはいるが、精神的疲れまでは如何ともしがたく、こればっかりは魔法ではどうしようもない。


「ただいま~。マスター何か腹の足しになるものなんか作ってくれ……」

「俺も頼むわ」

「私もお願いする」


 俺達は取りあえず先程からぐぅぐぅとなる腹を黙らせるべく、酒場のマスターに料理を注文し、空いている席に着いた。

 

「お父様! それに小父様達まで……。とてもお疲れのご様子ですの。大丈夫ですの? 回復の魔法を掛け……、あっ不要ですか?」


 俺達の様子を見てメアリが心配そうに声を掛けて来た。

 不要と言うのは俺が居るからって事だろう。

 実際回復の魔法は掛けてるから体力自身は全快だ。

 しかし、メアリの気持ちはありがたく頂いておこう。


「いや、掛けてくれお願いだ。お前が掛けてくれたら絶対癒される」


「では、失礼して」


 同じ回復魔法、いや俺の方が効果は上だが、メアリの魔法は何か精神疲労まで回復して来た気がする。

 本当に優しい子だわ。

 魔法オタクな所に目を瞑れば、マジで聖女だよな。


「ギルドマスターがギルドほっぽって遊び回るなんて、ソォータさんの悪い癖がうつったんじゃないの?」


 嬢ちゃんは安定して俺をディスってくるな。

 今は反論する気も起らねぇや。

 あ~けど、ダイスを見付けたら知らせるよう言っとくか。


「あ~、嬢ちゃん。もしダイスを見付けたら俺達に教えてくれねぇか?」


「え? ダイスさん? ダイスさんならそこに……」


「「「え?」」」


「俺がどうかしましたか? おや? 先生。えらくお疲れのようですね~。それにギルドマスターにヴァレンさんも。一体どうしたんですか?」


「「「いっ! 居たぁぁぁぁぁ!!」」」


 俺達三人の魂の叫び声はギルド中に響き渡った。


書き上がり次第投稿します。

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