表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/162

第二十七話 怒り

「あぁメイガスの場所か……、あいつは今遠い所に……」


 ッ!!

 なんで二人共天井を見ながら昔を懐かしむ様な顔をするんだ?

 遠い所って……、もしかして天井(てんじょう)じゃなく天上(てんじょう)?


「まっ、まさか死んじまったって言うのか? そ、そんな……俺はメイガスに、謝らなければならないって言うのに……。クッ」


 俺は馬鹿だ。俺が逃亡生活を続けていたのは、心の何処かでメイガスにいつか復讐してやりたいと言う衝動が原動力になっていた。

 大消失によって力に目覚めてからは上から目線で『生かしておいてやる』と言う勝手な嘲笑で、更に逃亡生活を続けた。

 当時は色々と理由を付けて結局復讐なんてしなかったが、今なら分かる。

 俺はメイガスの事を本当の兄の様に慕っていたんだ。

 先輩や王子も俺の面倒を見てくれたが、やはり魔法使いだ。

 当時の俺は一介の剣士でしかなかった。

 同じ剣士でありその実力で騎士団長まで登り詰めたメイガスの事を尊敬して兄と慕うのは当然だろう。

 俺の目からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちて来る。


「お、俺はメイガスに謝罪と……そして、ありがとうを……」


「へっ、その言葉にメイガスも草葉の陰から喜んでるだろうぜ」


「うっ、うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 分かった時には遅い。後悔先に立たずと言うが、まさにその通りだ。

 俺はその場で泣いた。大声で二人の前で恥も外聞も無く泣いた。38歳にもなった大の大人がだ。

 これ程泣いたのは、あの日以来だろう。

 くそっ! くそっ! 俺は何て馬鹿なんだ!



「ふぅ、ガーランド。ショウタをいじめるのはそれ位にしたらどうかな? ふふふっ」


「うおぉぉぉ……って。へ?」


「ぷっ! ガハハハハハ。悪い悪い。こいつが勝手に勘違いして泣き出すからよ。ついな」


「え? 一体どう言う事だ?」


 俺は急に笑い出した二人に思考が付いて行かず、呆然と二人の顔を交互に見るしか出来なかった。


「安心しろ。あいつは生きてるよ。実際遠い所に居るのは事実だがな」


 …………。あぁそう……言う? ぷちっ。


「はぁぁぁぁ!? てめぇっ! 言って良い冗談と悪い冗談つぅ物が有るだろがっ!! ふっざけんなっ!」


 俺はからかわれたと言う事にやっと思考が追い付き、その怒りによって湧き上がる衝動を抑える事が出来ず、先輩に向かって怒声を上げた。

 その裏で、生きててくれて良かったと安堵する自分が居るのが分かった。

 本当に、本当に良かった……。


「だから済まないって。だがな、話の途中で勝手に勘違いして暴走したのはお前だろ? そこは昔からお前の悪い癖だぞ。それにお前の仕出かした事やその後の俺達の苦労の事を考えてみろ。それ位の悪戯する資格は俺達に有ると思うがな。それに今のでお前も本当の自分の気持ちを吐き出せたじゃねぇのか?」


「うっ。それを言われると言い返せねぇ。まぁ良い。メイガスが生きているのならな。勘違いで暴走が悪い癖か……、あぁ悪い癖だ。ん? ……ちょっと待て? 俺の勘違いと言う事は、もしかして俺の仲間達だったあいつらも実は……?」


 俺の事を非難し、俺の逃亡しそうな場所を喋ったと言う噂を聞いたが、あれももしかして嘘の情報でかく乱しようとしてくれていたとか?

 もしそうなら、俺は……。


「あぁ、あいつらか。残念だがお前の元仲間に関しては、後輩想いを自負する俺でさえ呆れ返る奴らだったぜ。自分達の関与を疑われるのを避ける為にお前の情報を喜々として提供していたからな。……奴らのその後を聞くか?」


「いや、今はいい。折角メイガスの真意を知る事が出来て気分が良いのが台無しになりそうだしな。それにそれは逆に朗報だ。あいつらまで恨んでいたのが間違いだったなんて事になったら、それこそ頭がおかしくなってたかもしれねぇわ。それよりメイガスの居場所は何処なんだ?」


 そうだ、これ以上俺の勘違いで誰かを恨んで生きて来たとかなったら、俺の今までの生きていた事が全て無駄だったと全否定される所だった。

 それこそ、自分に嫌気がさして発狂や自殺を選択しててもおかしくない。

 

「あぁ、メイガスの奴は今王国の……。いや元旧()()()()王国の王都だった街に居るぜ。お前が生きてこの街に住んでるって言うのは連絡済みだ。あいつも喜んでいたぞ。出来るなら会いに行きたいとな」


「そうか。なるほど、それは遠い所だ。アメリア王国か……今となっては懐かしいと思えるな。……ん? アメリア? アリ……、メア……、あれ?」


 ちょっと待て? 確かメアリの父親は魔術師で先輩と親友でライバル。そしてヴァレウス王子も魔術師で先輩と親友でライバル。……二人の娘の名前がアンリとメアリ。

 そして、王子と気付く前の第一印象で、メアリの父親を連想した。

 そもそも、二人の名前を聞いて嫌な響きと感じていたのは、アメリア王国の名前を連想したからだ。


「王子? 今一階に居る聖女騒動のメアリって、もしかして王子の娘さん? ははは、そんなまさかね?」


「ふふっ、そうだよ。()()()()()()()()()()()ようだね。娘からの話でピンと来た。ガーランドから今の君の力の事は知っていたからな。いやまさか私の娘を聖女とするとは。ふふふ」


 げぇーーー! そんな馬鹿な! メアリが王子の娘って事は王女様って事か?

 俺は王女様に対してなんて事をしてしまったんだ!

 しかも王子は俺が身バレを嫌がって聖女に仕立て上げた事に気付いているみたいだ!


「すみません! 王子! まさか王子の娘さんだとは思わず、先日は大変な事をしてしまいまして……」


「いや、君が自分の力の発覚を恐れていた気持ちは分かるし、あの場では民衆の恐怖を癒す為には聖女と言うのは打って付けだ。それに君の存在は補助魔法が使えなくなって落ち込んでいた娘には希望の存在だからね。ある意味、自然と運命に流されるように知り合う事が出来て良かった。娘が治癒魔法に目覚めてからずっと君に連絡を取りたいと思っていたが、君自身が過去と向き合うのを待っていたんだよ」


「え? どう言う事ですか? 希望って、もしかして俺が治癒魔法を使える事を知っていたんですか? 先輩にもそれ教えていなかったのに? あっ、もしかしてダイスが喋ったのか?」


 今まで俺が魔法を使える事を知られた相手には、どちらか片方の魔法しか使わない様にしていた。

 いや、今回は失敗したが、もしかして他にも治癒魔法と知らずに使った事が有ったのだろうか?

 他の可能性はダイスだ。

 しかしあいつは少し緩い所が有るが人の秘密をベラベラと喋る様な奴じゃないと思っていたんだが。


「そうかダイスは知っていたんだな。あいつは何も言わなかったから知らないと思っていた。違うんだ、そうじゃない。どうも魔法が使える事を知られた相手に片方しか使っていないからと安心してた様だが、俺はギルドマスターだからな。お前の力を知った奴が俺の所に相談しに来たりとか有るんだよ。特に無免許の治癒師の存在は火種になるからな」


 ガーーン! そうか、いやそうだよな。普通の魔法に関しても、ギルドへの申告違反って事だが、それはあくまでギルド内の問題だ。

 しかし治癒魔法に関しては、教会を絡んだ犯罪幇助になるんだし、ギルドマスターに相談しててもおかしくない、と言うか教会に密告されなかっただけでも良しとするしか無ぇな。

 逃亡生活で人間不信だった筈だが、この街に暮らすようになってから気が緩み過ぎてたようだ。


「じゃあ先輩はずっと知っていたのか。なんで黙ってたんだ? 全ての魔法を使う奴なんて、自分で言うのもなんだが存在自体がおかしいだろ?」


「そりゃあ、さっきヴァレウスも言っていただろう。お前が過去に向き合うのを待ってたんだよ」


「いや、それにしても……」


 過去の俺の罪の事を庇うにしても、全ての魔法を使う存在なんか破格過ぎるだろう。

 その方法を聞き出そうとしてもおかしくは無い。

 ダイスは魔法が使えないから気にしなかっただろうが、この二人は魔法使いだ。

 喉から手が出る程、その方法を知りたいんじゃないか?


「まぁ、そこに関しては話の続きを聞けば分かる。それに今日お前がわざわざ昔の名前で俺の部屋に入って来たのは、過去に向き合う決心をしたと言う事だろう?」


「そ、それはそうだが……」


「丁度良かった。聖女任命式が三日後に決まってね。娘は教会で道を示してくれた人の意思を汲んで聖女になる決心をしたが、どうしても補助魔法の事も忘れられなかった様だった。まだ自由の身である今の内に一度話を聞きたいと言う娘を連れてギルドに来た訳なんだよ。まぁあわよくば、君とまた話す事が出来ないかと言う期待も有ったがね」


「そう言う事で、あれからずっと引き篭もっていたお前を連れ戻そうと娘を使いに行かしたんだ。お前がその気持ちになってくれて、俺達にとってこれ以上無い朗報だ」


 あぁ、だから嬢ちゃんは後ろから現れたのか。そんな感じの事も言っていたしな。

 何かスムーズに話が進んでいるような気がしないでもないが、これも神の思し召しとか言うんじゃないだろうな? くそ!


「まぁ、今朝ダイスから色々聞かされてな」


「ガハハハハ。ダイスの奴、昨日昔の資料を手に持ってここに乗り込んできてな。凄い形相で『この少年はもしかして先生の事じゃないでしょうか?』と、まるで刺し違えようとしているか勢いだったぜ」


 やはり、そうだったんだな。

 ダイスの奴は俺が魔族と通じていると思い、先輩に問い質しに行ったのか。

 そして先輩の言葉によって、最終確認の為に俺の部屋に来たのか。


「そうか……。先輩疑惑を晴らそうとしてくれてありがとうな」


「いいって事よ。それに嘘は言ってねぇよ」


「しかし、王子もここに居るとは思わなかった。……あっ! そうそう王子? メアリだけど聖女は嫌だと言っていましたよ。それで聖女撤回に力を貸して欲しいと頼まれましたが良いんですか?」


「何! それは本当なのか? ふ~む? まぁ娘がそう言うなら……。私も過去を偽っている身でも有るし、目立つのは本意では無いのだが……」


 王子が驚いた顔で聞き返して来て腕を組んで悩みだした。

 この様子からすると、メアリが言っていたように俺と話している途中で思い立ったと言うのは本当の様だな。

 それに王子も身を偽っていたのか。

 あっ表向きは死んだ事なってたんだっけ? そりゃ当たり前だな。


「えぇ、これ父親に言って良いモノか悩みますが、なりたくない理由ってのが、どうやら聖女だと好きな人と結ばれないってのを知って嫌になったようですね。しかもどうやら既に好きな人が居る様でしたよ」


「なっ! なにぃっ!! それは本当か! メ、メアリに好きな人が……? 小さい頃『お父様のお嫁さんになりますの』とか言っていたのに……。ショウタ! 相手は誰か知っているのか?」


 うぉっ! こんな王子初めて見た!

 顔を真っ赤にして取り乱して怒るなんて、これが娘を持つ父親と言うものか。


「ガハハハ! メアリも年頃になったと言う事か。その点俺の娘はいまだにそんな素振りも無いがな」


「いや、先輩。メアリの好きな奴は、アンリの好きな奴と同じ様だぞ? 二人でライバルとか言っていたし」


「「なっ! なんだとっ!! 誰だそいつは!」」


 二人揃って俺に食って掛かってきた。

 怒り狂う父親パワー×2の迫力に、さすがの俺もマジビビりで後退る。


「お、落ち着いて。俺も誰かまでは知らねぇって。ただ聖女になりたくない理由を聞いたらそう言ってただけだ」


「くそ! 誰だ。その不届き物は! 後でアンリから聞き出して街から追い出してやる!」


「私もメアリに確認しなければ。魔法学校の学長の怒りを買うとは不幸な奴だ……。くくくっ」


 うわ~、どこの悪役だよ。父親マジで怖い!

 相手が誰だか知らねぇが、この二人に知られる前に助けてやらないとな。


「二人共、直接聞き出すのは止めてくれ。俺が言ったのモロバレじゃないか。秘密を喋った事がバレたら俺が二人に殺される。何とか俺が聞き出すから今は抑えてくれ」


「フ~! フ~! クソッ、仕方無い。ショウタ! すぐにでも聞き出せよ! そいつが可愛い娘に手を出す前にな!」


「尤も手を出していた後なら、容赦はしないがね」


「わ、分かったよ。聞き出してやるから。抑えて抑えて」


 これは至急に相手の事を聞き出す必要が有りそうだ。

 相手の命もだが、抑えられなくなった父親(バカ)二人が直接娘達に問い質したりなんかしたら、俺の命も危ないわ。


書き上がり次第投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ