問いますわ、旦那様。
初めて書きます。楽しめれば幸いです。
「これは政略結婚だ。わかっていると思うが、私はお前を今後愛することはないだろう。わきまえるんだな。」
この言葉が愚かで可愛い旦那様と結婚した夜に言われた言葉。
「どういう意味か、問いましょうか、旦那様。」
「そのままの意味だ!」
「まぁ。旦那様。ご自分の立場を理解なさっていないの?もっとも、理解してないからこその言葉なんでしょうけども。
そうね。これは、政略結婚だわ。どう見ても。私は商人の娘ですもの。
ねぇ、旦那様の素晴らしい家柄に見合った素晴らしい女性を迎えられないのはどうして?
それは旦那様の無能で無知な頭が、作り出した借金のせいよ。その借金を肩代わりした私の家はあなたにとっては救世主なんではないの?商家の家なんぞに助けられたことが腹ただしくて、常識として、プライドとしても、許せないから、さっきの言葉なのかしら。旦那様にはまだプライドというものが残ってらしたのね。そんなもの豚にでも食べさせておしまいなさい。」
「なっ…」
まぁ、唖然としてらっしゃるわ。間抜けね。
「愛することがない?……旦那様はもしかしてご自分の容姿が優れているから誰にでも愛されてしまう、とでも思っていらっしゃるの?あなたの小さな世界ではそうだったかもしれないけれど、ご生憎様。私の好みでは一切ありませんの。
わきまえろ?……それは旦那様の愛を受け取れないあまり、私が嫉妬に狂うとでも思ってらっしゃったの?旦那様の周りの女性はそうだったのかもしれないわね。どうしてそんな女性ばかり周りにいらっしゃったのかしら?他の女性を知らないあまり、視野が狭くなり偏見が生まれた理由は、旦那様の魅力が乏しいからではないかしら?」
「ぐだぐだと口答えをっ…!」
「まぁまぁまぁ!口答え?口答えですって?うふふっ。もしかして旦那様、あんなことを言われて、口答えをせず、ただ涙ぐんでいるような女性をお好みだったんですの?無理な相談ですわね。旦那様、今一度言いますけれどご自分の状況をお分かりになっていないの?この家は借金を返したばかりのお金のない、余裕のない家なんですのよ。女性が口答えをせず、男性の後ろに控えているのは、男性が家を守ってくれるから。生活できるための、お金のいうものをしっかりと運んできてくれるからですわ。
…この家にはそれがありません。旦那様は借金のせいで、信頼を失い、収入までもほとんどない状態。
あるのは家と、私たち2人だけがあなたの資産。
この状態では、私が家事、育児だけでなく、お金も運ばねばならない。そんな状態で、どうして口答えせずに入られますか!あなたは自分の義務までも人に押し付けようとしているというのに!」
「……。」
「ふーっ……。では、さっきの言葉の意味を今一度、問いましょう、旦那様。」
***
「あの日から旦那様はおかわりになったのでしたね。」
「やめてくれ…あれは本当に今思えば、自分を殺してしまいたいくらいなんだから…。
あの時はあれだけの状態だったと言うのに、まだ自分の立場が理解できていない、愚か者だったんだ。
まだ誰かがなんとかしてくれるはず、助けれくれるはずだって。あの言葉で君から離縁を言われても仕方がないくらい、立場も地位も弱かった。それが理解できていなかったんだ。あるのはただプライドが傷つけられたと言う怒り、君の方が立場が上だと言う、女性蔑視的な怒りだけだったんだ。……本当に愚かだった…。」
「旦那様が理解して、自分というものを根底から叩き潰して、変わったからこその今ですわ。だからあの時あんな事があったわね…と笑って言えるのです。
変わることは単純ではない。培われた性格は、価値観は、習慣は、そう簡単には変わりません。でも旦那様はお変わりになった。信頼を取り戻すために行動でお示しになった、どんな人にも教えを請い、頭を下げた。
……そんな旦那様を、わたくしは、本当に、本当に尊敬しています。」
「ありがとう…君がいてくれたからこそだよ。」
「でも…本当はあの時、悲しかったんですの。わたくしは、あなたが好きでしたから。実際、私が貶めた魅力のかけた女性たちとなんら変わらなかったんですのよ。あなたの優れた容姿に惹かれて、なんとしても自分のものに……結婚したかったんですの。…視野が狭いのはお互い様。」
「たしかに、初めはそうだったかもしれないけれど、君は私の現状を知っても見捨てなかった。尽くしてくれた。私に寄り添い、どんな時も隣に立ってくれた。
…こんなに素晴らしい女性は私は他には知らない。
だから、今度はいつでも、君の力になりたい。君が頼る一番の男は私がいいんだ。」
「旦那様…。」
「私は君を愛しているよ。」
「私も……愛しています。」
ありがとうございました。