きゅうはつめ★人間にボコられ、食べられる
貯金を切り崩しながら小切手探しを続けていた滑川逝男にも、ついにその時が訪れた。
地元からは遠く離れたF県でのことだ。
田畑の多い場所で、鉄塔の近くにやたらカラスの多い、カラスのたまり場みたいな場所があった。
そこでは電線などの上に四六時中カラスがいるような景色が日常で、ただでさえなにもない場所で、しかもカラスとカラスのうんこだらけで真っ白になった所には、誰も近づく人間などいるわけがなかった。
が、逝男は行ってみた。
なんとなく、なにかを感じたというのも、もしかしたらあったかもしれない。
なかったかもしれない。
とにかく逝男は、その近くまで行った。
真っ白いうんこだらけの地面の上に、カラスの仲間の死骸まで転がっていて、とにかくひどい場所だった。
一見して小切手がありそうには見えなかった。
それが一回目だ。
数週間後━━F県のあちこちを探し回っていた逝男が、再びその辺りにやってきた。
F県を探し回っていたのには理由があって、直近で最も発見報告が上がってきている県だからだ。報告が多い=小切手がたくさん隠されているとは限らないし、むしろ残数が減っている可能性もあるのだが、そこまで考えても仕方ない。とにかく人生にあとのない逝男は小切手を見つけるしかないのだから、F県にたくさん隠されていると言われれば、来るより他になかった。
しかし成果は上がらず、徒歩で駅を目指す途中だった。
今日も今日とてカラスが多い。なぜかあの場所に集まっている。
集会所なのだろうか。
一度確認しているから、なにもないことはわかりきっているのに、それでも逝男は再びカラスたちの近くまで行ってみた。
相変わらず、人が近づいても逃げない。逃げるやつもいるが、ほとんど逃げない。バカにされている気がする。いや、相手にされていないだけなのか。
どちらかはわからないが、それでも襲われないだけありがたい。
逝男がまたカラスのうんこで真っ白な地面を眺めると、そこにはまだ死骸があった。
「……ん?」
まだ、あっただと?
前回見た時から、すでに数週間が経過している。なのに前に見たカラスの死骸が、腐るでもなくほぼ同じ場所に転がったまま、虫もわいている様子がない。
いや、あれは、もしかして……。
違和感に動かされた逝男は意を決するとカラスのうんこの地面を踏みしめて、カラスの死骸があるところへと向かった。
その途中にも上からうんこが降ってきて、逝男の頭や顔にぴちゃちゃっとかかったけれど、もう気にしていられない。
確かめなくては━━その一心が、逝男の心を支えていた。
恐る恐る近づいてみると……やはりカラスの死骸に間違いはなさそうだが。
やはり、違う。
これは、作り物だ!
目の前数センチまで顔を寄せた逝男は確信する。それに、これだけ近づいても腐臭がしない。逝男はそっと、作り物のカラスの死骸を持ち上げてみた。掴んではじめてわかったことだが、表面の羽は本物に近い作りだが、その内部は完全に固かったので、肉の柔らかさは一切ない。おそらく、プラスチックかなにかだろう。見た目は精巧に作られているが、重さもなにも、すべてがただのオモチャである。
いったい、なんでこんなものが。
わからないが、なんとはなしにいろいろいじくってみると、ぽんっ、と首が外れた。それには特に驚きもしなかったが、胴体の中が空洞になっているのを発見する。そして、そこにはなにかが入っていた。
そう。それが、逝男をはじめ、世の中のバカやクズや欲の塊が血眼になって探していた、小切手だった。
しかも、額面は━━
「さ、さんおくえん…………」たらーっ、と、開いたままで閉じかたを忘れてしまった口からヨダレを垂らしながら、逝男は軽くイッた。
その後、浮かれに浮かれた滑川逝男は田んぼの畦道を気の狂ったスキップで駆け抜け、その途中で遭遇したボコラレールをスキップしながら止まることなく蹴り飛ばしまだ稲を育成中の田んぼに吹き飛ばしながら、とりあえず町場を目指した。
駅前の飲食店で、この頃はすっかり超絶美味な万能健康食材として定着したボコラレールの唐揚げ定食を注文し、その濃厚で旨味たっぷりのよくわからない食べ物に舌鼓を打ち、今や将来安泰が確約された逝男は満面の笑みでニコニコ現金払いをし、レジのお姉ちゃんに気味悪がられた。
だが、もう誰にどう思われようが、気にもならない。
心の余裕が、彼をキモい笑顔の偽聖人にさせていた。
そんな滑川逝男をはじめ━━彼に限らず世の中すべての人間がそうであったのだが。
誰もそのことを知らず。
予想すらできず。
想像することもなく。
━━しかしこの時点ですでに、人類滅亡へのカウントダウンはあと一年を切っていた。
けへ、へ
キキキ キキキ
コポ……
ポコッ…… げへっ