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今日もみんなにボコラレール  作者: 鈴木智一
7/10

ななはつめ★博士と助手にはボコられない

「見てください博士、あの女性は足を持って行きましたよ?」


 茂みの中、隠れている博士と助手が、目の前をうろつくゾンビらを観察している。


 女のゾンビは、弱って這いずっていた男性ゾンビの、半ばもげかけた足を掴むと、ぐいっと引っ張った。すると根元から足が外れて、女はそれをそのまま持ち帰る。どこへかはわからない。きっと、どこかに自分のねぐらがあるのだろう。

 そこへ持ち帰り、夕飯にでもするのに違いない。


「いやはや、弱ったゾンビは他のゾンビの餌になる━━これも弱肉強食か」


「皮肉なものですね。結局人間も、こうなってしまうと共食いも厭わない虫ケラみたいなものですよ」


「虫より酷いかもなぁ。見てみなさい、あちらのゾンビはわざわざ頭蓋骨を叩き割って、脳ミソを吸っていますよ」


「うわぁ、ほんとですねー。ホラー映画でも、なかなかお目にかかれませんよ」


「昔、脳ミソ料理でオエエエエーって感じの映画があったんだけど、あれ、なんて題名だったかなぁ。すごく面白い作品だったのだが、どうにもタイトルが思い出せん……」


「はぁ、ぼくは見たことないですねぇ」


「なんだったかなぁ……ああ、思い出せん」


「あっ、見てくださいよ博士! あれって確か、ボコラレールっていうやつじゃありませんか?」


 茂みの向こう、数体のゾンビと一緒になって、銀色の小さいやつが歩いている。


 まさかこんな絶海の孤島にまで出現するとは、さすがの博士と助手も想定していなかった。事実、今までこの島において、ボコラレールが現れたということはない。話すら聞いたためしがなかった。


「やっぱり、事故が起きたから、ボコラレールも来るようになっちゃったんですかねぇ」


 よくわからない理屈だが、博士はそれに頷いた。


「そうかもね。やはり実験の大失敗はやらかしてしまったもので、まさかあのような変異が起こるなどとは思えませんでしたから、どうしても予想外の事象が発生するわけでして━━」


「あっ、ゾンビたちがボコラレールに群がりましたよ……食べるのかな、食べられるのかな、アレって?」


 博士と助手の前方で、ボコラレールに興味を示したゾンビたちが我先にと群がりはじめている。

 本来はボコるためのボコラレールであるが、ゾンビたちは殴ったり蹴ったりという行動を取らない。あくまでも食するための手段として、手足をもぎ取ったり頭を破壊したりするだけだ。


 人間とは決定的に異なる姿のボコラレールに対して、しかしゾンビたちは口を開けた顔を近づけた。


「あ、普通に食べに行ってますね━━うわぁ、えっ、うそぉ、アレ、食べれるみたいですよ?」


「ほほう、実に興味深い。アレはなかなか、見た目に反して食べることが可能な生物であるのかな。体組織がどのように構成されているのか、また、ゾンビ化ウイルスが機能するものかといったところもまた、経過を見る必要があるだろうと思われる。これは研究所のトイレに置き忘れたミランダ女史のパンティを早急に回収して━━」


「あー、すご、ほんとに食べてる。けっこう美味しそうかも……ボコラレールがなにか言ってますね」


『あきゃきゃ、あきゃっ! うまいか、そんなにボコラレールがうまいかよクソうんこめらがよぉ。きゃははっ! いよぉお前ら、ずいぶんと旨そうに食べやがるじゃねえか! え? そんなドロッドロのチョコレートフォンデュみたいな顔しちゃってさ!』


「なんだろ、なんか言ってるなぁ……でも、美味しそうだなぁ。ねえ博士、博士もそう思いませんか。あれはきっと桃と歯ブラシと山芋とゴリラと回転ノコギリを足したような味がするのでしょうね」


「だろうね。しかしだね、もしそれが仮定の話でしかない場合、実際には女体の何割かが男根である可能性が浮上してくる。故にこれは改めて議論する余地があり、この場でお前を殺害することもできなくはない」


「あ、やめてください。それよりもほら、ぼくたちもボコラレールを食べに行きましょうよ。いや、ボコラレールでなくってもいい。ゾンビたちを食べてもいい。どっちでも好きなほうを食べればいいんですから。ねえ博士、それじゃあこうしましょう。ぼくはまずボコラレールを食べますから、博士はゾンビを食べてください。そうしたら、お互いどうだったか教え合えるでしょう。ねえ、いい考えだとおもいませんかぁ?」


「なるほどなるほど、そのような案があったとは知らなんだ。てっきりこのまま見物客を気取り続けるものとばかり思っていたら、なんのことはない、空腹には勝てないのだよな。さて、それではお前の意見を聞き入れて、わたしはゾンビを味わうとしよう。それにより得られた情報は蓄積されて、後の大変革・大変動へと繋がってゆくのだ。さあ行こう、我々の食事の時間を邪魔できるものは、もはやこの世に存在しないいいいいーっ!」


 茂みの中から飛び出した博士と助手━━ふたりのゾンビはボコラレールと、それに群がる他のゾンビたちめがけて走って行った。

おっ、きたきたきたきたー。

ボコラレールの中でなにかがはじけた。

お前らも、こいよ?

こいこいこいこい、こっちにこいよー?

え、まだいいって?

あっそ。

でもどーせすぐ、こっちくるんだよ?

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