にはつめ★ゲーセンでボコられる
ネットワーク対戦ゲームで連戦連敗を喫したヒメトは台パンしそうになったが、それで出禁をくらってしまうと近くに他のゲーセンがないためとても困ったことになる。
ほんとにギリギリのところで怒りの拳を寸止めしたヒメトは握り拳をプルプル震わせたまま、怒りの形相で店を出た。
すると、まるでそんなヒメトが出てくることをわかっていたかのように、駐車された車と車の間からトコトコと一体のボコラレールが姿を見せる。
こりゃいいやとヒメトはすぐさまボコラレールを捕まえると、さきほどの連敗を思いだしながら連続パンチを叩き込んだ。
「ぐべっ! ぶべっ! ごぼう!」ほどよい弾力と質感のボコラレールは、まるで本物の人間をボコっているような感覚を与えてくれる。
「あっ、ゴミ虫こらぁ! なぁに殴ってくれてんのさ、こらぁ! 人を殴っちゃダメだって誰かに教わったことはないんですかぁ、学校に行ってないんですかぁ、歯磨きちゃんとしてますかぁ」
━━うるっせぇてめこのボコラレールのくせしやがって、黙れクソが、オラッ、オラッ!
ヒメトはがんばって殴りつづけたが、そろそろ拳が痛くなってきたし、これ以上やるとゲームができなくなりそうだったので、いいところで切り上げることにした。
「じゃあな、クソボコラレール」
去り際にも一発蹴りをくらわせてから、ヒメトは帰っていった。
のっそりと立ち上がったボコラレールのところに、ヒメトと入れ替わりでやってきたマイチューバーのサトシとヤクチュウが、ボコラレールを捕まえる。
「あれっ、こいつもうボコられてんじゃん。新品どっかないの?」サトシが周りを見回すが、他にボコラレールの姿は見えない。
「いいんじゃね、こいつで。どーせ死ぬわけじゃねーし」カメラを構えたヤクチュウが言う。
「それもそーだな。じゃあとっとと動画撮って帰ろうぜ」
「あいよ。ほんじゃ『ボコラレールをボコってみた』の撮影はじめまーす」
宣言し、サトシがパンチでボコラレールをボッコボコにし、カメラマンのヤクチュウも空いている足で蹴ったり踏んだり踏みにじったりする。
「ごべえっ! ごべべえっ! なんっだよてめーらああん⁉ うわくっせぇ、マジくっせぇ顔面してるじゃないの、なにさあんたもしかしてツェツェ蝿の親戚かなにかですかぁ? 緑色のウンコにたかる銀蝿みたいな色の頭してますねぇお母さんは大便ですかー」
ベコッ、ベコッ、ベコッ━━ボコラレールの顔面が陥没したり腫れ上がったり忙しい。
━━こいつマジ超ムカつくwww!
サトシはとうとうボコラレールを掴み上げ、チャランボ体制に入る。サトシはバカなのでチャランボという名称は知らないのだが。
「げえっ! げえっ! げえええーっ! 腐肉と緑色のウンコとお前の母ちゃんを混ぜたような臭い息が近いよパパー、もうちょっと離れないといけないって幼稚園の先生も言ってなかったですかぁ、光の子らよもっと質素な服を着なさいなー、調子ぶっこいてお高いスーツなんて着てたって、どーせたいして似合わないんだからさー」
━━あははっ、なにこいつ、すげー言ってくんじゃん。こんな喋んのかよ、ボコラレール。
楽しそうにボコりつづけたサトシとヤクチュウだったが、撮影も一時間近くになろうかというところで、もうなんだかわからないボコボコのなにかになったボコラレールが空気の抜けた風船のように急速に萎んでいき、それ以上ボコることができなくなってしまった。
「あっれ、なにこいつ、いきなり萎んだラブドールみたいになった。え、これもう終わり?」
「ボコラレールの限界ってやつ? じゃ、撮影終了ってことで」
満足な撮れ高のあった二人は、嬉々として帰っていった。
なんだってんだよ、ええ? なにが楽しくてボコラレールをボコるのか、ボコラレールには理解できねっスわー。人間ってなんなの? ねえ、なんなのさ?