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スラム街での生活 5

本編と幕間を交互に投稿しようかと思います。

 スラムの生活 5



 今日は日が昇る前に目が覚めた。

 空が白み始め薄明るくなってきた時間帯、何にか周りが騒がしいので起きてしまった。

 空にカラスの様な鳥が沢山鳴き声をあげながら飛んでいる。

 その方向を見ると昨日の朝、森へ向かった冒険者っぽい連中が帰ってきた姿が見えた。

 森の方から向かって来る冒険者たちは、なかなか近づいてこないし動きもおかしい。

 遠目にはよく分からないが、怪我をしてるのかカクリと倒れそうになる事がある。


 「あぁ、あれはヤバイな。」


 車のエンジンをかけ、ライトを点けて冒険者たちのもとへ向かう。

 ヘッドライトの明かりと騒音に驚いたようだったが、私が車から下りていくと安心したようにへたり込んだ。

 彼らを見ると、前衛であろう2人の男が血まみれで座り込んでいる。槍を杖代わりにしてきた奴以外は皆、武器や荷物を持ち帰る余裕すらなかったようで手ぶらだ。それに昨日は6人いたはずだが、女が1人減っていた


 「門までで良ければはこぶぞ。」


 このままでは門までたどり着けそうにないと思い、手を貸すことにする。まあ、最初から運んでやるつもりでここまできたのだが。


 「有り難い、助かる。」


 リーダーらしい男が礼を言う。冒険者ということで、もっと高圧的に命令してくるかと思ったが、そうでもないらしい。

 荷物スペースに怪我人二人を寝かせる。リーダーらしい人は助手席に座らせ、残り二人は狭くて申し訳ないが寝かせた二人の隙間に座ってもらった。


 「ちょいと狭いが、我慢してくれ。」


 「乗せてもらってる身だ、文句は言わん。」


 後ろから男の声で返事があった。

 車をUターンさせ門に向かう。


 「この先の門に頼む。あそこなら冒険者ギルドに一番近い。」


 「了解だ」


 「このパーティーのリーダのカルロだ」


 「私は商人の様な者です。」


 「この荷車を見れば商人と分かる。」


 「まだロクに商品を扱ってませんけどね。」


 話が続かない。この間が何か痛い。

 少しするとカルロが話し始める。


 「この荷車はすごいな。馬車より早いし揺れも少ない。」


 話しかけられて、なんか助かった気分になった。


 「まだ大きいのは買えないんですけどね。」


 「これより大きいのがあるのか。」


 「家くらい大きいのもありますよ。」


 「ふむ。」


 話を信じなかったのかカルロは黙り込む。

 なんとなく聞いちゃ駄目なんだろうなとおもいつつも、もう一人の女性の事を聞いてみる。


 「昨日、貴方たちが森に向かうのを見たんですが、女性がもう一人いたと思うのですが?」


 「ああ、俺たちがこうやって逃げ帰った事に繋がるんだが。」


 と言い、話を続けた。


 彼女は奴隷で、荷物持ち(ポーター)として買ったらしい。


 後ろに座ってる女性も元は奴隷で、今回のポーターの子も働きが良ければ奴隷から解放してやるという条件で働かせていたらしい。


 「ゴブリンの数が多くなってきたらしいので調査してくれ、という依頼をうけて昼くらいに森の近くまで来た時にゴブリンの群れに襲われたんだ。」


 あぁー、やっぱりかと思ったが、口には出さずにだまって続きを聞く。


 「5匹や10匹なら何とかなったんだが、倒しても倒しても次々と出てくる。そのうち後ろに回り込まれてポーターが攫われた。奴ら、女は生きたまま巣まで連れて行くんだ。」


 「で、彼女は生きて?」


 「まだ生きてはいるだろうな。今頃、生きたまま苗床にされてるだろう。」


 「・・・・・・苗床。」


 「犯されて、子供を産むだけの物にされる。死んだら餌にされる。ゴブリンてのはな、3日に2匹づつ生まれるんだぜ。」


 彼が悔しそうに呻く


 「うげぇ。殺されるよりひどいじゃないですか。」


 「あぁ。でだ、前衛の一人が後ろから跳びかかられて、もう一人もナイフで太腿を刺されて、どうにもならなくなって逃げ帰ってきた。」


 「よく生きて帰ってこれましたね。」


 「あそこまで歩くのでやっとだった。しかしあの数は異常だ。相当数の苗床が無ければ、あそこまでは増えん。」


 「そうですか。」


 何か不穏な感じがする。これは、弾薬も買い足していかないとならないかも。

 話を聞いているうちに門に着く。

 もう日が昇り明るくなっている。

 自分達が車で近づいたせいか、門番達が慌ただしく門の前に出てくる。

 最初は車を見て訝しんでいたようだが、冒険者たちの状態を見て大騒ぎになる。

 怪我人を渡してスラムに戻ろうとすると、詰め所の治癒士ではどうにもならないので、教会までこのまま乗せていってほしいと門番に頼まれ、教会まで行くことになった。


 「これが1日滞在許可証だ。なくすなよ。」


 「はい。で、教会はどっちですか?」


 「俺が案内する。真っすぐ進んでくれ。」


 門で応急処置が済んだせいか、カルロさんは幾分余裕が出来たようだった。


 カルロさんに案内され教会に向かう。

 教会では先に連絡があったのか、数人のシスターっぽい人が待っていた。

 リアハッチを開けるとシスターっぽい人たちが中を覗き込み、怪我人を担架に乗せ運んでいった。

 後ろに乗っていた大きな怪我をしてない二人は、担架に乗せられた二人についていったようだ。

 この街のシスターのスカートはやたら短く、怪我人を担架に乗せる時、後ろからガン見してしまった。

 車に乗り、帰ろうとするとカルロさんに声をかけられた。ガン見していた事がバレたのかと思いビクリと体を揺らすが違った。


 「俺はギルドに報告をしに行くんだが、一緒に行かんか?」


 「私は商人であって、冒険者ではないのですが。」


 「それなんだが、ここの商人ギルドは今、まともに機能してないんだ。代わりを冒険者ギルドが代行している状態なんだ。それに、ここで登録しておけば街への出入りが自由になる。どうだ?」


 「それなら行かせていただきます。でも、登録料なんて持ってないですよ。」


 「俺の推薦だと言えば大丈夫だろう。それに、登録料なんぞ掛からんぞ?」


 そんなこんなでギルドに行くことになり、カルロさんはまた助手席に乗り冒険者ギルドまでの道を支持してくる。

 車をギルドの前に止めギルド内に向かう。入口のドアは西部劇のようなスイングドアだった。

 なんでこういう場所って、こんなドアを付けたがるんでしょうか?

 聞いてみたら、採取した物を両手に抱えていても、入ってこれるように。だそうです。まあ、それくらい獲物を獲ってこいって事ですね。今では冒険者も減ってしまい、まともに狩が出来る人は数えるだけしかいないらしい。

 カルロさんはギルドマスターに報告しに行くと言って2階に上がっていった。

 私はカウンターに向かい、商人としての登録をしに行く。


 「すいません、登録したいのですが。」


 「冒険者登録でしょうか?」


 「いえ、商人なんですが。」


 「ご一緒に冒険者登録もいかがでしょうか?」


 何か、ハンバーガーショップの店員みたいなこと言ってくる。

 「私、戦えませんよ?」


 「これと言ってノルマもございませんし、気の向いた時に依頼をこなしていただけさえすれば構いません。ギルドとしては、この方が所属している、冒険者の方からすればこの町の住人であるのと、犯罪歴の有無を証明する物になりますので。」


 「でしたら、商業ギルドの登録だけでも良いのでは?」


 「商人の方は、街から街へと移動して商売をされますので、移動してしまうと犯罪歴をもみ消される事があるので。というのは建前で、うちの町にはこれだけの人数の冒険者がいるんだぞという見栄ですね。」


 と言って、受付嬢はニコリと笑った。


 「まぁ、特に何もしなくてもペナルティーが無いのなら登録してもいいですよ。それとつかぬ事をおたずねしたいのですが。」


 「なんでしょうか?」


 「見た感じ、男女の人口比が女性に偏っているのは何故でしょうか?」


 「どこの国や街などでも同じでしょうけれども、先の戦争や魔物の襲撃での戦闘で男性の方の数多くが死亡されたため、人口比が釣り合わなくなってしまったためです。そのために、出生率も減ってしまい、男性の方は非常に貴重になられてしまっております。」


 「あぁ、やっぱりそうなのですね。わたしは、地方から出てきたため、そういう事情には疎いものでして」


 「こちらで答えられる事でしたらいくらでも質問していただいてかまいません。あと質問が無ければギルド登録を行いたいのですがよろしいですか?」


 「はい、お願いします。」


 「では、これに名前と、この町のどの地区に住んでいるかを記入してください。文字の方は書けますか?商人さんのようなので、大丈夫でしょうか?」


 と言って、羊皮紙と羽ペンを差し出してくる。


 「一応、大丈夫だと思います」


 羽ペンなんて使ったことが無いので、相手から影になるカウンターの見えない位置でスマホを操作してボールペンを購入。


 「自分のペンがあるので。」


 と言って羽ペンを返し、今購入した日本製のボールペンを取り出し、それで記入した。

 インクを浸けずにサラサラと記入するのを見て、受付嬢が目を丸くしていた。

 ジーっとボールペンを見ている受付嬢。


 「これ、差し上げましょうか?」


 「え、よろしいのですか?こんな高価そうなな物。」


 「羊皮紙じゃない紙なんかも扱ってますがそちらも見てみますか?」


 「え、はい、お願いします。」


 「では、ちょっと取ってきますね。少し待っててください。」


 「あ、はい。今のうちにギルド登録をしておきますね。」


 登録用の用紙をギルド嬢に渡し、自分は車に戻る。そこでコピー用紙500枚入りを300ポイント、ボールペンを3本で300ポイント分を購入する。

 そして、いかにも車から取ってきましたというように装ってカウンターに戻る。


 「今回は試供品としますので、口を切ってしまいますね。」


 そう言ってコピー用紙を数枚取り出す。


 「このように上質な紙になります。」


 そう言った後に取り出した紙にクルクルと線を描いていく。

 受付嬢さんは、口お開け唖然としている。


 声をかけようとした時、後ろの階段から、ドタドタと足音が聞こえてくる。


 「荷車で来たという商人はまだおるか!?」


 という声と


 「ギルドマスターー!」


 という声が発せられたのは、ほぼ同時だった。

 





お読みいただき、有り難うございます。

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