スラム街での生活 2
街での生活2 多少の余裕
『現在使用できるポイント 350P』
「まあ、定番の魔物だし、異世界初心者の自分には丁度いいか。」
スマホの画面と地面のスライムを交互に見ながら、もっと効率良くこいつらを殺す方法は無いかと考える。
でも、腹が減っていていい案が浮かばない。とりあえず腹ごしらえをする事にする。
おにぎり2個と缶コーヒー1個で300ポイント。
おにぎりをムシャムシャと食べながら、銃弾の補充もしないとな、などと考える。
おにぎりを2個とも食べ終わり、缶コーヒーをぐっとあおり飲み干す。
手に持った空き缶をポイっと放り投げる。カンッカランと音がして転がっていった。
足元を見ると、スライムが蠢いている。さっきまでただ気持ち悪い奴らだったそれが、今ではお金に見えてくるのが可笑しく感じられた。
「とりあえず、あと7匹狩らないと」
木の枝を振り上げゴキを叩く。
しかし素早いのでなかなか当たらない。
何とか2匹を倒した所でスラ叩きを中断し、スマホを見る。
アプリを起動し、100ポイントで何か叩きやすい物は無いかと探してみる。
百均仕様なのか、そこには安っぽい青色の蠅叩きがあった。
物は試しと100ポイントでそれを購入。青い蠅叩きは、ポトリと足元に落ちる。
地面に落ちた蠅叩きを拾い上げ、近くにいたスライムをパチン!叩かれたスライムは、蠅叩きの網目の隙間から体液をまき散らし沈黙。まずは1匹。ヒュンッと蠅叩きを振り、スライムの体液を落とす。
軽いのと叩く面積が広いためか、スラ叩きの効率が上がる。
百発百中とまではいかないが、数が多いのもあってか3~5回に1回は当たる。
あっという間に400ポイントが貯まった。
「まずはライターだな」
薪があっても火が点けられんのではしょうがない。
「次は点火用の紙かな?点火剤でもいいのか」
百均万歳である。
「後は、歯ブラシとコップ。手ぬぐいに、う~ん。欲しい物がありすぎる。」
ポイントで購入してはスライムを叩き、次々と当面使いそうな物資を仕入れていく。
「スライムの大量虐殺じゃー」
その日は、変なテンションになりながら日が暮れるまでスラ叩きが続けられた。
車から少し離れた場所に、ポイントで購入したコンクリートブロックを3個、コの字形に置いた簡易竈でやはりポイントで購入した百均の片手鍋でお湯を沸かす。もちろん水は、川の水ではなく2?ペットボトルのおいしい水である。
お湯が沸いたらカップ麺にお湯を投入。3分待てば出来上がり。
焚き木の前でズルズルと麺を啜る。
「明日はガソリンが買えるか試さないとなー」
1L単位で買えればいいんだが、それが出来ないとしばらく車を動かせない。
ラーメンを食べ終わり、食後の缶コーヒーを飲んでいると周りから視線を感じる。
「まあ、そりゃそうか。ロクに食い物の無いスラムで、うまそうに食い物食ってたら見るよな」
燃えそうなゴミは焚き木の中へ放り込んで燃やす。空き缶は竈の横に置いておけば良いだろう。
その場から離れ車にむかうと、数人がソロソロと焚き木に近づき、何かよく分からない肉を焼き始めた。
焚き木の周りを汚せば次からは使わせない事を告げ、今日はもう寝ることにした。
[女神アクアの憂鬱]
1日前の事である。
「キィーーーーーーー!」
女神は発狂していた。
魔法が発展すれば人類の文化が発展し、この世界が豊かになる。そう思い、魔力の根源である魔素を増やしたら増やしすぎて、魔素の増幅が止まらなくなったのである。
そのために、この世界に住んでいた動物が次々と魔物化して増え続け、凶暴化して人間の生活を脅かし続けているのである。
今のままでは人間は全滅してしまう。というか、もう全滅しかけている。
何とか打開しようと、今まで数度にわたって勇者を召喚してきたが、この世界のモデルになったある国の勇者は、「アイアム・ヒーロー!」とか叫びながら、いきなりモンスターの群れに突っ込んでいき自滅した。
また、違う国から召喚された勇者は、汚職の限りを尽くし、住民に殺された。
勇者なんて呼んでも、どうせロクなことにならないし自分の手間が増えるだけ。そう考えるのも、仕方のない事だと思われる。
だというのに、創造神様はまた勇者を送りつけてきた。
「もう!魔素の増幅を抑えるだけでも大変なのに、また余計な者を送り付けてきて!!」
この女神からすれば、勇者は邪魔な物でしかないのである。
「しかもこの勇者の男、戦う力なんてないじゃないの!しかもおっさんだし、伸びしろも無いじゃない!!」
当の本人は、自分を勇者だとは思っていないし、戦うつもりも無い。
「とりあえず神託で、邪魔をするなと送っておかないと」
☆ ☆ ☆
ようこそ、破綻しかけの世界へ。
私は、この世界担当の女神アクア。
はっきり言って今は、忙しすぎて貴方に構っている暇はありません。
貴方が死ぬと私の責任になってしまいます。
なので、1つだけ貴方の持ち物に祝福を授けます。
その祝福を使い、貴方がこの世界で私の邪魔をせずに、なるべく長く生きていくことを願います。
このままその道をまっすぐ進めば、大きな街に着きますので、そこで生活することをお勧めします。
では、良き人生を。
☆ ☆ ☆
当たり障りの無い文面で、自分の邪魔をせず、ひっそりと暮らせ、と諭しておく。
彼の持っている飴に、多少の祝福を込めたため、山岳地帯の魔素が漏れ出してしまう。
「あぁぁぁーーーーーー、魔素がぁぁぁーーーーーーーー」
他の事に気を取られ、押さえていた魔素の流出が出てしまう。
彼女はまだ気づいていない。自分が神力の使い方が下手で、彼が持つただの飴に彼女の持つ全力を注ぎこんでしまったことに。そしてこの後に起こる事態の事に。
女神アクアの戦いはまだまだ続くのであった。
[とある少女の恋慕]
今日も騎士団のお手伝いをして、お昼ご飯をもらって帰るだけのはずだった。
お手伝いと言っても門や宿舎の掃除くらいしかなく、お皮ぐご飯と言っても固いパンと味の薄い塩スープだけだ。
今日は東門のお手伝いの日だった。門の手伝いは、ほとんどやる事が無く、たまに伝令として他の門へ手紙を届けたり買い出しを頼まれたりするくらいだった。
今日も午前中はやる事もなく、事務所前に置いてあるベンチに座り足をブラブラさせながら時間をつぶしていた。
ぼーっと他の子達を眺めているとカミオンさんが慌てた様子で私達を呼びに来た。
少し慌てた様子だったので伝令で走らされるのかと思ったが違った。6人とも門の外に連れ出されたの。
今まで門の外に連れ出される事なんて無かったので少し驚いたが、ただ暇をしてるよりは良いかと思い、付いて行く。
門の外には馬車の様な物が有り、きっと馬が居なくなったので門の中まで押せという事かな?と思ったんだ。
でも、カミオンさんの指示は、この荷車の中の薪を門の中まで運べというものだった。
背負子でも有れば沢山運べるけど、今はそんな物は無い。両手に持って運ぶしかない。小さな子たちは大変だろう。
この馬車みたいな物の持ち主らしい人が、私たちに持てる分だけを手渡してくれる。他の商人みたいに早く終わらせようと押し付ける様な事はしてこない。本当に持てる量だけを渡してくる。
小さい子から順番に、しかも丁寧に薪を手渡され、一番年長の私は最後だ。
それでも一人3回も運べば終わる量しかなかったけど、小さな子が持ち切れなかった分は、私が無理をしてでも持って行こうと思い薪の量を覗き込んでいると、前の子から順番に何か口の中に入れているのが見えた。
前の子たちが口の中に何かを入れるたびに、ペコリとお辞儀をしていく。前の子の様子を見ると、石のような何かを口の中に入れているようだったの。
私の順番が来て薪を受け取り口を開ける様に促され待っていると、石のような何かを放り込まれた。
口を閉じるとすぐに、甘い味が口いっぱいに広がって行ったの。
今まで味わった事が無い味だった。きっとその時私は、ものすごい顔をしていたんだと思う。
だって、ニッコリと笑ったオジサンが、ガシガシと少し乱暴に頭をなでてくれたから。そして分かったの。前の子達が、なぜ頭を下げていたかを。
数歩下がり、慌てて頭を下げる。オジサンはニコリとして手を振ってくれたの。
そのオジサンの顔が頭から離れないの。あの甘い石の様な物の味も忘れられないけど、あの人の顔が忘れられないの。
孤児院に帰って、夜寝る時もなぜかあの人の顔が出てきて寝れないの。
この孤児院を出たら、あの人の所に行きたい、そう思ってしまったの。
お読みいただきありがとうございました。