スラム街での生活 1
スラム街での生活1
朝、日の光を浴びて目を覚ます。
スマホの時計を見ると、朝7時くらい。
辺りを見渡すが特に変わった事はない。
車を降りて大きく伸びをする。ついでに車を一周してタイヤやボディーの傷などをチェックする。
夜中にいたずらされてないかの確認だが、これといって傷や凹みもない。
車内に戻り、昨日購入しておいたおにぎりとお茶で朝食にする。
おにぎりのラッピングを剥き海苔を巻いて頬張る。次にペットボトルのキャップを開け一口飲む。
そんな事を数回繰り返すとおにぎりは無くなりお茶も半分ほどになっていた。
「食べたりないな」
昨日からロクな物を食べていないので、おにぎり1つではたりない。
「さっさと魔物を倒して、魔石を手に入れんとなぁ」
そう言って車のエンジンをかけ、森へと向かう。
道は川沿いに森へと向かっている。そこそこの道幅があり、大きな街道であったことがうかがえる。
川を左手に見ながら森へ向かい、運転をしながら冒険者でも居ないかと探してみるが、人が居る気配はない。
魔物の姿も見当たらない。
「あの、ゴブリンっぽいのが1匹出てきてくれれば、今日の飯代になるんだけどなー」
右へ左へと大きな大きな石をよけながら森へと進む。
途中、こっちの世界に来る前にコンビニで買った飴玉を思い出し、包みを開け口に放り込む。
結局、魔物はなどは出る事も無く森の手前に到着した。そこで一旦車を止め、辺りを見渡した。
このまま道沿いに森の中に入るのは、なんとなく嫌な感じがしたのでやめ、道を外れ川とは反対の方向に進んでみることにする。
大きな岩や石ころが多いので、ぶつけない様に気を付けながら倒木がありそうな場所を探しながら進んでいく。
木の間から倒木が見えたので停車し、車を降りてスライドドアを開け後部座席を畳んでリアハッチも開け木材を積む準備をする。
念のため、M36を構え倒木の方へと進んでいく。やはり斧や鋸もない状態では、材木になりそうな大きな木は運べそうにない。薪になりそうな枝を拾うくらいになりそうだ。
なるべく大きめの枝を探し車へ運んでいく。それを数回繰り返し最後の枝を積み込もうとしたところで森の奥からガサリと音がした。
持っていた木の枝を足元に落とし、リアハッチを素早く閉めてM36をを構える。
いつでも逃げ出せるように、運転席のドアは開けっ放しだ。
音のした方に銃口を向け魔物が出てくるのに備える。
1匹のゴブリンが顔を出す。その後ろにもう1匹。
銃の狙いを定め、引き金に指をかけ撃とうとした時に、違う場所からガサリとまた音がした。
銃口はそのままゴブリンに向けたまま目線だけを音のした方へ向ける。そこには別のゴブリンがいた。
周りを確認すると、他にもかなりの数のゴブリンがいるようだ。
「これは駄目だ。」
さすがにこの数は無理だと思い後ろに下がる。
「いくらゴブリン出てこいって言ったからって、この数は無理があるだう。」
そのまま開いてるドアから運転席に乗り込み、エンジンを掛けアクセルを踏み込む。
相手が逃走したところで、それまでは警戒していたゴブリンたちが棍棒を振り上げ向かってくる。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!」
地面がデコボコなうえ、大小の岩々が転がっているためあまりスピードを出せない。
それでも時速2~30kmはでているだろうに、追いついて来る黒い個体もいる。
バックミラーで何度も後ろを確認しながら悪路を走る。黒い個体の足が速くなかなか引き離せない。
それでも15分も走れば体力の限界なのか黒い個体はどんどん脱落していき、追いかけてくる奴はいなくなった。後ろを確認し、追いかけてきている奴がいないのを確認し、はぁっと溜息をつく。
逃げている最中は酷い揺れだったため今は速度を落としゆっくり走っている。燃料も半分を切り心もとない。
「逃げきれたのはいいけど、街に帰れるだろうか?」
とりあえず森を背にして走っていけば昨日、転移した道にたどり着くのでは?と考え燃料を節約しながら進んでいく。
「腹減ったー。」
そうボヤいてもポイントが無いので食べ物は手に入らない。
食べ物?そういえば、まだ飴玉があったと思い、助手席に手を伸ばす。
飴の袋から1つ取り出し、小分け袋を破り口に放り込む。
腹が減っているので、ガリボリと噛み砕きながらの見込み、もう1つ手に取り口に放り込む。
そうこうしてるうちに昨日の道にたどり着く。
その道を街が在るでであろう方向に進む。
昨日、少年が倒れていた場所より街に近い場所に出たためか、その姿は確認できなかった。
そして道に出てから2時間ほどで、街の門の所にたどり着く事が出来た。
昨日の門番であろう兵が手を振っている。
窓を開け、門番に近づくと「今日はどうした?」と声をかけられる。
「薪を拾いに森に行ったらゴブリンに追い回されました。」
愛想笑いをしながら答えると、まじめな顔で返してきた。
「よく無事だったな。それで奴らの数はどれくらいだった?」
「かなりの数が居たようだった。10匹までは数えたが、それ以上は分かりません。」
「うーん。」
門番は顎に手を当て考える様にうなずく。
「かなり足の速い奴つもいて、そいつにしばらく追い回されましたよ。」
「しばらくは、森の近くは気をつけんといかんな。冒険者に討伐依頼を出さんとならんかもしれん。場合によっては、騎士隊での討伐になるかもしれんな。」
「なんか、私が森に行ったばかりに、大事になってすいません。」
「いや、お前のせいじゃない。逆に貴重な情報を感謝する。
そういや、薪は集められたのか?」
「ええ、後ろに積んでるだけだけですけどね。」
「おっ、結構あるな。これ、売る気は無いか?」
「こんな物、売れるのですか?」
「魔物が大量発生してるせいで、こんなのでも貴重なんだよ。」
今度は自分が考え込む。
「うーん、魔石と交換って出来ますか?」
「うーん、今は魔石が流通してないからなぁ。」
「そうですか、自分も使いますので半分ほどでしたらお譲できますよ。」
「そいつは有難い。今、人を連れてくるから待っててくれ。」
そう言って走って行ってしまった。
私もエンジンを切り、車を降りてリアハッチを開けて彼が戻ってくるのを待つ。
しばし待つと彼が、背の小さな女の子ばかりを連れて戻ってきた。
「こいつらに運ばせる。売ってくれる分だけ降ろしてくれ」
「あー、はいはい」
6人ほどの少女が私の前に並び薪を受け取っていく。
私が訝し気な顔で見ていると
「こいつら、孤児院のガキ共なんだ。こうやって兵舎や詰め所で雑用をする代わりに飯を食わせてやってる。」
「なるほどねぇ、どこも大変なんですね。」
と、適当に相槌をうっけおく。
さすがに8~10歳位の少女じゃ持てる量も限られるので、あと2回くらいは運ばなければならないだろう。
少女たちが薪を置きに行ってる間に運転席に戻り、飴玉を人数分持ってくる。
2回目も彼女たちは不平を言うこともなく運び、3度目に薪を手渡してやる時に飴玉を口に帆織り込んでやる。そうすると、目が大きく見開かれ嬉しそうに頭をペコリと下げていく。
「噛まずに口の中で転がすように舐めるんだぞ」
頭を縦に2~3度振ってニコニコしながら薪運びを再開する少女たち。
2人目、3人目と同じように飴玉を口にいれてやると、やはり最初は目を大きく見開いて、次に嬉しそうに頭をさげてくる。
最後の子が一番年上らしく見た目10歳くらい。飴玉を口に入れると、驚いたその姿がかわいくてなんとなく頭をなでてしまった。
その少女は一歩下がり、荷物を持ったままお辞儀をして去っていった。
「その子が気に入ったかい?なんなら連れてってもいいぞ。」
門番の男がニヤニヤしながら言ってくる。まったく、何て事を言うんだか、このおっさんは。
「生活するのに余裕が出来たら考えます。その時はお願いします」
「一人でも減れば孤児院でも食費がその分助かるんだがなぁ。まぁ、気が向いたら声をかけな。口を利いてやる」
「はい、その時はおねがいします」
実際あんな少女でも、話し相手にでもなれば一人でいるよりは良いかなと、思っていたりしていた。
「お、そうだった。薪代だが銀貨2枚でいいか?これ以上だと兵舎の予算がな。」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言って頭を下げてから車に乗り込む。
門番の彼は、「また何かあったらよろしく頼む」 そう言って手を振って見送ってくれた。
こちらも手を振り、門から離れる。
昨日の場所が開いてればいいなー。などと考えながら入り組んだスラム街を抜けていく。
昨日、駐車していたスペースが空いていたので、そこに止める。
この世界のお金は手に入れたが、結局魔石を手に入れることはできなかった。
この世界のお金の価値がどのくらいなのかもわからないし、使う場所も知らない。 食料を売ってそうな場所が分からないのである。
車を降りてリアハッチを開け、そこに腰掛ける。
スマホを起動し、増えているはずも無いポイントを恨めしそうに眺めながらつぶやく。
「・・・・・・腹減った。」
いくら見てもポイントは0(ゼロ)。
「はぁ。」とため息をついた時、足元に青い透明な物体が横切った。
「うわっ!」
思わず足を上げてのけ反る。
大きさは5~6cmくらいだろうか。テラテラと光を反射するその物体は、半透明で体?の中心にうっすらと小さな核の様な物が見える。
ブヨブヨとした体は、動くたびに形を変え気持ち悪い。背筋がゾクゾクする感じがする。
昨日は車の中にいたので気が付かなかったのだろう。それが、石の影やら何かの残骸の影からワラワラと出てくる。
追い払おうと薪にするための枝で地面をバシバシ叩く。
ビチャリと音をたててつぶれる。数匹叩き潰したが数が減った気がしない。
これがスライムとか言う奴だろうか?思っていたのよりかなり小さく感じる。スライムと言うと、某ゲームに出てくる猫位の大きさで饅頭にアホ毛が生えたような形のを想像していたが、今、目の前にいるのは、祭りの出店でよく売っていた小さなポリバケツに入れられたスライムの玩具の様な物が高速で移動する物体である。
岩の上にいた1匹を狙い、木の枝を振り下ろす。ガキッと変な音がしたので見てみると、つぶれたスライムの中に紫色の宝石のような物が見えた。
まさかと思い、スマホを近づけてみると、チャリンと電子音が鳴り画面には『50ポイントチャージされましたと表示されていた。
そこで今まで潰したスライムにスマホを近づけると、チャリンチャリンと電子音が続けて鳴り、『50ポイントチャージされました』の下に『現在使用できるポイント 350P』と書かれていた
お読みいただきありがとうございました。