街へ到着
街へ到着
こっちの世界に着いてから4時間弱、やっと街に着いた。
着いたとはいっても、まだ外壁の外ではあるが。
門に近づくにつれ、ちらほらと人の姿が見える、何故か女の人が多い気がする。
身に着けている衣服はどれも貫頭衣というのだろうか、粗末な布の真ん中に穴を開け、そこから頭を出し胴の所で縄で縛っているだけの簡素な服を着ているだけ。しかも皆、薄汚れていてガリガリにやせ細っている。
虚ろな目でボーっと空を眺めていたり、道の端の方に座りこんでいたり、生気がない。
ふと、女神様からのメールの一文が頭の中を過る。
『ようこそ、破綻しかけの世界へ。』
やっぱ、とんでもない所に来てしまった。物乞いとか近づいてきたらやだなーとか考えながら、門の方へと進む。
門の前には槍を構え鎧を着た兵士だか衛士だかが6人ほど待ち構えていた。
「と、止まれ!」
兵士に声をかけられる。この兵士たちは、こちらをというかこの車を見て混乱してるようだ。
「すいません、街に入りたいのですが」
「人が乗っているだと?!何だこれは??」
「自動車ですが。それで街に入りたいのですが?」
「ば、馬車か?いや、馬がいないな。荷車か。」
「自分で走る荷車みたいなもんですかね?」
「荷車であれば、入場税が金貨1枚だ。物納でもいいぞ。」
「むしろ食糧なんかの物納の方が有り難いがな。」
「見ての通り、荷物は私の私物だけでして、商品になるような物は何も積んでおりません。この場合でも税金はかかるのでしょうか?」
お金を持ってない時点でもっとこう、無理やり追い返されるか不審者として拘束されると思ったが、門番の対応はそれほど酷くないようだ。
「税は、荷車1台につき金貨1枚と決まっており変える事はできん。」
「参ったなぁ。この辺に入場税がかからない町や村はないですかね?」
違う兵士が割り込み、話を引き継ぐ。
「この近くの町や村はみんな、魔物にやられて全滅しちまったからなぁ。この近くに住みたいってなら、あまりお勧めはできないが、この外壁の周りにスラム街が出来てる。治安は良くないし汚い。それでも良ければ行ってみるといい。」
「はい、ありがとうございます。」
「今この街は人口が減って困っている。まともそうな商人が増えるのは有難い事なんだ。なるべく早く壁の中に入れるようにな。」
「あっ、そうだ。」
「どうした?」
「ここに来る途中、道で少年が死んでいるのをみかけたのですが。」
「あー良くあることだ。気にするな。」
「で、このナイフを持っていたので、遺族がいれば返してあげたいのですが。」
門番にナイフを見せる。
「そいつはお前が持っておけ。どうせ身元の特定なんぞ出来ん。街の外での死人の持ち物、落とし物などは拾った人間の物になる。
お前が拾ったならお前の物だ。」
「はぁ、そうですか。」
「まあ、気にすんな。この辺じゃよくあることだ。」
「はい。」
「後、何か用事は無いか?スラムに行くなら向こうだ。」
と、右の方向を指さす。
「ありがとうございます。」
礼を言うと「おう」と言って門番の兵士は、車から離れていった。
手を振り、車を右折させ道ではない荒れ地へと入っていく。
車を買う時、やっぱ四駆にしておけばよかったなぁ。など考えながら大きな石や窪地などを避けながら進んでいく。しばらく進むと布張りのテントや今にも崩れそうなバラックが見えてきた。
車の中はエアコンが利いていて涼しかったが、窓を開けっぱなしで走ってきたので生ぬるい空気が車内に入ってきて少し暑い。
車で移動しながら辺りを観察すると、やはり女性が多い、多少男性もいるが老人だったり片腕が無かったりと、まともに生活が出来なそうな人たちばかりだ。
規則正しく建物やテントが建っているわけではないので、右へ左へとハンドルを切りながら進んでいく。
駐車出来るスペースは無いかと、その辺の人に声をかけるが返事は返ってこない。
奥まで進むと、川に沿って走っている道に出た。川は森の方から流れており、街に向かって流れている。道は、街のさっきとは別の門から森の方へ向かっているようだった。
道造の少し開けた場所をやっと見つけ、そこに停車エンジンを切る。
「今日はここで寝泊まりするか。」
一息つくと腹が減ってる事に気が付いて朝に買ったサンドイッチを食べる。サンドイッチを頬張りながら今後の事を考える。
「うーん、ずーっと車中泊ってわけにもいかないよなー。食料も必要だし。」
ずっと一人暮らしだったせいか、考えてる事が声に出てしまう。
なんとなくスマホを取り出し画面を見る。
また、なんとなく『万物召喚(地球世界)』のアプリを開いてみる。
そこには
『現在使用出来るポイント 200ポイント
購入出来る商品のポイント上限 100ポイント
お買い得品
おススメ品
食品・飲料品
商品を種類別に表示
ランクアップ用プールポイント 300ポイント』
などと書かれていた。
「どっかの通販サイトみたいじゃないか」
自分でも、たまに利用する通販サイトに似た画面がそこにあった。
とりあえず、『お買い得品』を押してみる。
『現在のポイントで購入できる品はありません』
「・・・・・・。」
おススメ品を無言で押す。
『M36用38スペシャル弾 100ポイント』
「ちゃんと弾薬も購入できるのか。」
(当り前じゃ)という神様の声が聞こえた気がした。
「やっぱ今は、食い物だよな。」
そう言って、『食品・飲料品』を押す。
『食材 肉類
魚介類
野菜
調味料
缶詰
弁当・加工食品
パン類
冷凍食品
麺類
穀物類
スイーツ
スナック菓子
飲料
お酒類
その他 』
その中の『弁当・加工食品』を押す
値段別になっているのか、安い順に並んでいる。買えない値段の物は暗転しており、押しても買えないようになっていた。
『鮭おにぎり』を選択、数量を1個にして決済ボタンを押す。
『ポイントを100消費します。これでよろしいですか?』の表示に対して『YES』ボタンを押すと、ポトリと膝の上におにぎりが落ちてきた。
同じような操作をして、ペットボトルのお茶も購入する。購入と同時に、どこかで聞いたことがあるようなレベルアップ音が鳴り、スマホの画面にスキルレベルが上がった事が表示される。
体感としては、スキルをもらった時同様何も感じないのだが、あの神様がやる事なのでそうなのだろうなーなどと考えながらスマホの表示内容を確認する。
『レベルアップ
ランク1 Lv1→Lv2
100Pから200Pまでの商品を購入可能になりました
プール可能ポイントが200Pから400Pになりました』
「こんなに早くレベルって上がるのか?」
まあ、買える物も増えるし、プール出来る料金も増えるからいいか。と思いながらスマホの画面を落とす。
残りのサンドイッチをすべて食べ、おにぎりとお茶は助手席に放置して、明日の予定を考える。
ぶっちゃけ、何をやっていいか分からん。
「森から木材を拾ってきてバラックでも建てるか。」
火を起こすにも木は必要だし、魔石を手に入れるにしても、森の近くに行った方が魔物も出やすいだろうし。そこで拳銃(M36)の銃弾を補充してなかった事に気が付く。
ポケットからM36と未使用の薬莢を取り出す。
そしてM36のシリンダーを開いてすべての薬莢を取り出す。
使用済みの薬莢を選別し、未使用の薬莢を装填してシリンダーを戻す。
顔を上げて外を見ると、森の方から数人の男女がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
皆、剣や槍、弓矢などを携えており背中にはちまみれの背嚢のような物を背負っている。
冒険者という奴だろうか?一応、M36を握りしめ絡まれた時のために備える。
その一団が車の横を通り過ぎる時、一番後ろを歩いていた弓を携えた女がチラリとこちらを見たが、自分の顔を見て興味を失ったのか、そのまま通り過ぎていった。
それ以降は何事もなく過ぎ、日が暮れて明かりも無いので寝ることにした。
1日目 終わり