異世界到着
異世界到着
浮遊感から車が地面に着地する感覚が伝わってくる。それと同時にこの世界の景色が目に入ってきた。
そこは大小様々な形の岩が転がる荒野のような場所だった。もしそこにサボテンなど生えていれば、西部劇の舞台かと思えるばしょだ。
そして今降り立った道は、ただ岩が無いだけの人や荷車が踏み固めただけの道だった。
「こんな場所じゃスピードも出して走れないよなぁ」
そんなことを呟いて助手席を見ると、そこにはさっき買ったコンビニ袋に入った缶コーヒーやサンドイッチそれと、黒い鉄塊・・・・・・なんじゃこれ?と手に取ってみると拳銃だった。
「オマケって、これのことか?」
日本人にはあまり馴染みのないそれは、警察でも採用されていたM36チーフスペシャルという銃だった。
「44マグナムとかデザートイーグルの方がよかったなぁ」
そんな事を呟きながら銃を手に持つと、なんとなくその銃の扱い方が頭の中に入ってくる。カチリと音をさせてシリンダーを開け中に弾が込められているのを確認、シリンダーを元にもどしポケットにしまう。
もう一度助コンビニ袋を確認すると5発の薬莢が入っていた。それも手に取り同じくポケットにしまった。
なんんとなく喉が渇いたので、買ってあったいつもの青いラベルの缶コーヒーを一口飲む。
一息ついたところで胸ポケットに入っていたスマホがメールの着信を知らせた。
異世界に来たのにメール?と思いつつも、飲みかけの缶コーヒーをドリンクホルダーに置いて、スマホの画面を開いて見る。そこには2件のメールが届いていた。
1件目を開いて見ると神様からのメールだった。
『 無事そっちに着いたようじゃの。
丸腰だと不安じゃろうから武器を送っておいた。使い方は加護のオマケの力で分かるじゃろう。
弾は自分でなんとするのじゃ。加護の力があればどうにでもなるじゃろ。
あと、言葉や文字などはお前さんの国のものをそのまま使えるから気にせんでいいぞ。
それでは、良き人生を』
さっきの話の補足みたいなもんかな?オマケってのは、拳銃じゃなく追加の加護だったらしい。まあ、拳銃もオマケかな。
このオマケ加護、アイテムの使用法が分かるといったところだろうか。まぁ取り寄せたはいいけど、使い方が分らんと宝の持ち腐れになってしまうからなぁ。
「で、2件目は誰からだ?。」
2件目のメールを開く。
『ようこそ、破綻しかけの世界へ。
私は、この世界担当の女神アクア。
はっきり言って今は忙しすぎて貴方に構っている暇はありません。
しかし貴方が死ぬと私の責任になってしまいます。
なので、1つだけ貴方の持ち物に祝福を授けます。
貴方が私の祝福を使いなるべく長く生き抜く事を願います。
多少の悪事には目を瞑ります。ですので、私の邪魔になる様な事はしない様静かに、大人しく暮らして下さい。
このままその道をまっすぐ進めば、大きな街に着きますので、そこで生活することをお勧めします。
くれぐれも魔王に挑んだり、国家を転覆させるような事はない様にお願いします。
では、良き人生を』
「何だこの女神様。せっかくこの世界に来てやったのに、なんか腹立ってきた」
地球ですらない場所にいきなり飛ばされて、心細くなったせいか独り言がふ出る。
「なんか、えらい場所に来てしまったっぽいな・・・・・・」
とりあえず、街を目指すか。
車のエンジンはかかってるので、ギアをパーキングからドライブに入れ発車する。
道が悪いので、ドリンクホルダーのコーヒーがこぼれないようにゆっくりと進む。
しばらく進むと右前方に森が見えてきた。ただその色が不気味な紫色をしている。
木の葉の色が何らかの影響で、紫色に変色しているのだろうか?
森全体が紫色という気味が悪い場所が近づくにつれ、心細さが深まっていく。
ラジオでも点けば多少は気がまぎれるのだろうけど、異世界では放送局など在りはしない。かと言ってCDなど持ってもいない。
何も出なければいいなー、など思いながら進んでいる時に限って何かが出るもので進行方向、道の端の方に緑色の何かがしゃがみ込んでいた。
そしてそれの足元には、人の物であろう足が見えている。
近づいていくとそれは、車の音で気が付いた様でこちらを向く。こちらを向いたその顔は、口のまわりを真っ赤に血で汚していた。
「人がモンスターに襲われている?あれがモンスターか?」
とっさにブレーキを踏んで車を止める。
車の音に気が付いたのか緑色のモンスターが立ち上がる。
体は小さくにんげんの子供くらいか。革製の腰蓑を着け、ガリガリに痩せている。
「これなら自分でも倒せるか?倒れている人も気になるし」
相手が小さく痩せていることから、倒せないまでも追い払う事くらいなら出来るだろうと思い、ドアを開けて車外へ出る。
倒れている人はピクリとも動かない。
念のため車のドアは開けっ放しにして、何かあればすぐ逃げられるようにしておく。
自分が車から降りたのを見てか、モンスターが棍棒を振り上げこっちに走って来た。
距離にして20mくらいか。足を引きずる様にしながらこっちに向かって来る。
怪我をしているのだろうか、速度はそれほど速くはない。
ポケットから拳銃を取り出して構える
相手は真っすぐこっちに向かってくる。
頭の中では撃ち方は分かっているが、銃を撃つなんて今までやったことがない。
相手が逃げてくれればラッキーくらいに思い距離10mくらいで撃鉄を起こして引き金を引く。
パンッ、と乾いた音を立てて銃弾は放たれるも、動いている相手に素人が撃って当たるはずも無くモンスターの後方に小さな土煙を立てるだけだった。
もう1度、撃鉄を起こして構える。緑色のそれは、醜い顔がはっきりと分かるほど目の前にせまっていた。
手を伸ばせば届きそうな距離。跳びかかろうとするそれに、銃を押し付けるように発砲する。
パンッ、という音とともに胸の中心に銃弾が吸い込まれる。
緑色のそれは、自分に向かい足の力が抜け自分にもたれかかるように倒れてくる。抱きとめるのも何か気持ちが悪いので、受け止めずに1歩下がる。
バタリとモンスターが倒れる。
また起き上がって襲い掛かられるのも嫌なので、地面に倒れたそれの頭に、もう1発銃弾を撃ち込んでおく。
パンッという音とともにモンスターピクリと動いた気がしたが、その後は動くことは無かった。
犬や猫すら殺した事無かったのに、こんな大きめの動物、しかも人のような恰好をしたやつを殺してしまったという嫌悪感が襲ってくる。
人助けのためだと自分に言い聞かせ、震える体を押し止めようとする。そこで倒れている人の事を思い出し、走って近づいていくが足が震えてうまく走れない。
うつぶせに倒れているのは男性で、まだ子供のような体格。12歳から14歳くくらいだろうか。
息はしている様に見えない。頭には固いもので殴られたような傷があり脇腹は、さっきの緑色(きっとあれがゴブリンとかいう奴だろう)に齧られたためだろうか、大量の血液とともに内臓が飛び出していた。
(こんな子供がモンスターに襲われ簡単に死んでしまう世界か)
この子を埋葬してあげたいが、スコップすら持ち合わせていないのでこのまま放置するしか出来ない。
せめて名前が分かる物でも無いかと遺体を仰向けにして調べてみるが、手に握られた小ぶりのナイフ以外お金すら持っていなかった。 仕方がないので、そのナイフで身元を特定してもらおうと思い、遺体からナイフを取り上げる。
「ちょっとこのナイフ、借りますね」
そう言い、手を合わせる。
何の変哲もないナイフ。刃渡り10センチ位だろうか。グリップを合わせても20センチあるか無いか位だろうか。そんなナイフを見ていてまた1つ思い出す。
「ゴブリンから魔石を回収しないと・・・・・・」
あれを解体しなきゃならないのかと思うと、気が滅入る。
ナイフを握りしめ、トボトボとゴブリンが倒れている自分の車の方に歩き始める。
車の近くまで来てうつ伏せに倒れているゴブリンを見て、どうしたものかと悩む。
触るのが嫌だったので足で蹴り、ゴブリンを仰向けにしてしゃがみ込む。
子供の死体を見たせいか、もう一度ゴブリンの死体を見ても何とも思わなくなっていた、 それよりも解体は嫌だなーとか思ながらナイフを握りため息をつく。
どこを切ればいいかとゴブリンを覗き込んだ時に、胸ポケットに入れておいたスマホが滑り落ちる。
ゴブリンの胸のあたりに落ちたスマホから『チャリン』と電子音が鳴る。
なんだ?と思いスマホを拾い上げ画面を見てみる。
そこには、こう表示されていた。
『500ポイント分の魔石がチャージされました
現在プール出来るポイントは200ポイントまでです
300ポイントはランクアップポイント分に割り当てられました
現在200ポイントがプールされています
100ポイントまでの商品を200ポイント分まで取り寄せる事が出来ます
また、この表示が必要無い場合は、アプリの設定画面で非表示設定を行ってください』
こんな事が書かれてあった。
「ゴブリンを解体しなくて済んだのは助かったが、なんだこれは?まるで電子マネーじゃないか」
ゴブリンの胸を開いて、内臓をかき分け魔石を取り出さなければならないと思っていたので、拍子抜けだ。
ふと視線に気づき辺りを見渡せば、上空に肉食っぽい沢山の鳥が舞っており、『お前が邪魔なんだよ』と無言で訴えていた。
「この鳥は、ゴブリンや子供の死体を狙ってるんだろうな」
このままここに居ても他の魔物がやって来て襲われそうなので、早くこの場を離れた方がいいだろうと考え、スマホの確認は後回し立ち去ることにした。
開けっ放しのドアから車に乗り込みアクセルを軽く踏み込む。
「もう少し早くここに着いていれば助けられたかもしれないのに、ごめんな」
彼の遺体の横に差し掛かった時、そんな事を口にして通り過ぎる。
車に乗った事で落ち着いたのか、喉が渇いたのを感じて、さっき残っていたコーヒーを飲みほした。
そうしてゴトゴトと悪路を進むこと2時間、やっと街の防壁が見えてきた。
お読みいただきありがとうございました。
この作品は不定期投稿となっております。
次の話まで気長にお待ちください。