プロローグ
プロローグ
雷雨の音が鳴り響く薄暗い城の中...
大きな広間の階段の上にある玉座らしき椅子に座る者が一人、階段の下に男女の二人組がいた。
その場には不穏な空気が漂っていたーー。
その空気を一閃しようと、二人組のうちの男の方が声を上げた。
「ヴァルダム!!俺がお前を倒し、世界の平和を守る!!そして、人々が幸せに暮らせる世界を作るんだ!!」
その声は大きく、そして鋭くその場に響いた。
階段の上の者ーーーヴァルダムは一度ため息をしてから、軽く鼻で笑いながら言った。
「(またか...。まぁいいが。)なるほど、貴様らが私を倒すというのか。おもしろい、やってみるがいい。」
「マレイ、無茶はしないでね...。私も頑張るから...!!」
二人組の女の方が震えながらそう言った。
「メリシア、君のことは俺が絶対守る...!!だから、恐れずに俺についてきーーー」
男ーーーマレイが振り向きながらそう言いかけた時、一瞬閃光が走り、とてつもない轟音が響き渡った。
振り向いたマレイが目にしたものは、黒く焦げ、既に灰と化そうとしている女ーーーメリシアの姿だった。
マレイは何が起こったのかわからなかった。
ほんの数秒前まで会話していた仲間が、自分が振り向いたその刹那に無残な姿になっていたのだ。
マレイは慌ててヴァルダムの方へ視線を戻した。
ヴァルダムは、人差し指を軽く伸ばしているだけだった。
しかし、それだけでマレイは何が起こったかを理解した。
それと同時に心の中に芽生えたもの...それは、怒り、憎しみ、そして、恐怖だった。
マレイはメリシアを殺された怒りで今すぐにでもヴァルダムを倒しに行きたかった。
しかし、身体はそれを拒絶する。
そう、マレイは理解したくなかったことを理解してしまったのだ。
マレイとヴァルダムの間にある、圧倒的な力の差を。
マレイはその場で立ち尽くすしかなかった。
「どうした?こないのか?そんなことでは私を倒すことなどできんぞ?」
ヴァルダムは言った。
マレイは意識を取り戻し、今どうするべきかを考えた。
だがパニックになっている頭では考える力が鈍る。
マレイはとっさに後ろにある自分がこの部屋に入ってきた扉に向かって走り出した。
(む、無理だ...!!あんなやつに勝てるわけがない!!メリシア、ごめん...!!!)
マレイは駆ける。
「はぁ、結局それか...。この広間まで来れるくらいだからと毎回期待しているのに戦ってみればいつもそれだ。世界を救うとか偉そうなことを言ったり私を倒して元の世界に戻るとかわけのわからないことを言ったり、私が何をしたっていうんだ。私の首に何かが懸かってたりするのか?そんなわけあるはずないだろ何もしてないし...」
ヴァルダムはブツブツと言葉を漏らしながら軽く手を振った。
その瞬間マレイは視界が眩み、その場に倒れ込んだ。
マレイは一瞬何が起きたがわからなかったが、しばらくすると理解できてきた。
右脚の膝から下が切り落とされていた。
壮絶な痛みに絶叫するマレイ。
それと共にヴァルダムは立ち上がり、階段を降り始める。
「そもそもこの城は私のだし、不法侵入してきてるのはそっちじゃん。そのうえ殺すとか言って攻撃してくる。殺人未遂かよ。そんなことされたら私のやってることだって正当防衛になるでしょ...」
未だにブツブツ言っているヴァルダムがマレイの元へと向かう。
マレイは涙と鼻水を垂らしながら必死の形相で逃げようとするが、移動すらままならない。
ヴァルダムがマレイの元へたどり着き尋ねた。
「言い残すことは?」
「た、助けてください!!何でもします!!
そ、そうだ、あなたの奴隷になります!!きっと、いえ、必ず役に立ちます!!なので、命だけはっ!!」
マレイにはもう死なないために手段を選ぶ暇すらなかった。
「そうか、そこまで言うなら少しばかり慈悲をくれてやろう。」
そう言うとヴァルダムはマレイに向かって手を伸ばした。
「あ、ありがとうございます...!!」
マレイがそう言って手を伸ばそうとした時、ヴァルダムの手から魔法が放たれた。
その魔法はマレイの体の中心を貫いた。
「ぐはっ...!!な、なんで...、どうして...!?」
「これが私の慈悲だ。あの女の元へ逝け。」
その会話を最期にマレイは意識を失っていった。
そして残されたヴァルダムは玉座へ戻り、再び誰かがこの地に訪れるのを待つのであった...。