6・不穏な影
むかし、むかし。
あるところに、それは美しいお姫様が住んでいました。
お姫様は大陸一大きな国の姫君で、隣の大陸の王子と婚約をしていました。
小さい頃から王子と仲良く遊んでいました。
親が決めた婚約だけど、姫自身が王子の事を好きになっていました。
それは王子も同じく、姫に惹かれていたのです。
10年が経過し、翌年には二人の結婚式です。
姫の15歳の誕生日。
宴会場でも祝い最中、形相で護衛兵が入ってきました。
◇◇◇
なんだ……今の夢は……
そんな事より、俺達今、砂利道を2日かけて歩いた先にあった、集落で下宿している。
下宿といっても、宿がなかったので馬小屋だ。
高貴なる血族でもあるアズはさぞかし、文句を垂れ流すかと思いきや、「ふーん、別にいいんじゃない」などと言い気にしてないようだ。
それでだ。
ここからが肝心!
アズは今寝ていて、無防備!
これは襲うしかあるまい、てか誘ってんだろ。
ドレスから見える、肉付の良い太もも。おぉ、しゃぶりつきたいぜ。
ゆっくり近づこうと思ったが、我慢できず飛び込む。
バシンっと何やら見えない何かに弾かれてしまった。
目を凝らし、観察すると、アズを透明なオーラが覆っていた。
これは魔法かなにかか?
そう言えば、俺は魔法使えないんだっけ?
裸の王様だし、でも服は着れた。
しかも、アズの手作りのお墨付き。
「べ、別にあんたの恰好がかわいそうだからとかそんなんじゃないんだからね」何て言っていたがツンデレにしか見えなかった。
今の時刻がわからないが、馬小屋を出る。
アズを起さないように、ゆっくり扉を閉めた。
集落って言っても、家は五軒、全て木の家。
住んでいる住人は年寄りばかりで、薄汚れたボロイ服を着ていた。
王から逃れた人間の生き残りみたいだ。
他の人は知らないって言っていたしな。でも、そのわりに、俺とアズの事を見て驚きもしなかったのが疑問だ。普通、旅人がこの世界に存在するわけないんだ。しかもアズの恰好はドレスだし、髪は白銀だし目は真紅。
俺はタキシードのような恰好だ。
どこから、素材を集めたのか知らないが、異世界的何かで完成したんだろう。
集落は、木で作った柵で囲まれている。これもおかしい。この柵じゃゾンビの攻撃で簡単に破られるだろう。
怪しいが、アズは大丈夫と言っていた。
アズはまだ敵の可能性もある。俺を騙して罠にハメる気かもしれない。
でもな、俺は疑わないよ。
美少女を疑うなんて……男として、それだけは死んでもしない。
まぁ、今の所何にもないし、また寝るか。
馬小屋に戻ろうとした時、一件の家に明かりが灯る。
んっ? こんな時間に?
外は真っ暗だから、正確な時間はわからないが、俺の体感的には深夜3時頃。
工場では15分休憩の開始時だったからな。
感覚でわかる。たぶんそのくらいだろう。
やはりおかしい。こんな時間にジジババが起きるか?
異世界だから知らないけど、年寄りは5時頃だろ。
偏見かも知れないけども、怪しいは怪しいから家に近づく。
窓際まで近づき聞き耳をたてる。
「でもよかったね、丁度餌が入ってきて」
「ああ、しかも一つは上物じゃ」
「早く喰らいつくたい」
「まぁ待たんか、明日には手に入る」
「そうね、明日には」
この家から5、6人の声がする。
餌……奴等、明日。
俺達の事を言っているのか……でも、この段階で疑うのもな。
もう少し聞いてみるか。
「楽しみだ」
「早くムチムチの太ももにかぶりつきてぇ」
「ずるいぞ、じゃあ、俺は胸を貰う」
「ワシは尻じゃな」
「ちょっと待て!! 尻は俺のもんだ!!」
「……」
「お前は、なぜ起きている!?」
しまった!?
尻と聞いて思わず叫んでしまった。
しかし、こいつらやっぱり俺達を狙っているのか!
許さねぇ。
右手の鍵爪を出し、戦闘態勢をとる。
奴等は、民家から出てきてゾンビと同じ鋭い爪を見せた。
「なるほどな、お前らはゾンビか」
「明日殺すつもりだったが、しょうがない、行くぞ!!」
ゾンビの長的な奴の声で、ゾンビが迫ってきた。
クソっ、どうする。
鍵爪だけでやれるか? アズは寝ていて宛てにはできない。
やるしかない。
大きく振りかぶり、ゾンビが爪で襲い掛かってきた。
ぎりぎりの所でかわし、足をかけて転ばせた。
次は二人同時にくる。同時に爪を構えた時、片方の胸倉を掴み、鎌で攻撃を防ぐと同時にもう片方の攻撃を、このゾンビを身代わりにして防いだ。
これで、一人は始末に成功。
こかしたゾンビは起き上がる。
残りは五人。
どうする。さっきみたいに、転ばせたり身代わりはもう使えない。一回使ったから警戒される。
ゾンビは囲むように、じりじりと詰め寄ってくる。
クソっ……ここまでなのか?
俺は……死ぬのか?
例え死んでもやり直せるかも知れないが、また炎の場所から……それよりも……アズに作ってもらった鍵爪、タキシード。次は作ってくれないかも知れない。
そんなの……絶対に嫌だ。
女の子からのプレゼントなんて初めてだし、ましてや手作りだぞ!!
俺は絶対に生きる!!!
「うおおおおおおおおおおお!!」
鍵爪を構えゾンビに突っ込む!!
ゾンビも襲ってくる。
衝突まで、数メートルの時。
何かが飛んできてゾンビの首が高々と宙に舞った。
その、何かは馬小屋の屋上に飛んで行き、赤いドレスの美少女の肩に止まる。
なんだよ……お前かっこよすぎるよ。俺が女だったら絶対惚れてるよ。
てか、主人公みたいな登場の仕方だなおい!
でも……助かった、ホントに助かった。
「アズっ!?」
俺が名前を呼ぶとアズは腕を組み、そっぽを向いた。
「べ、別にあんたが心配だから助けたわけじゃないんだらかね、そう、新技を試したかっただけなんだから!!」
「わかっているよ、それでもな、ありがとう」
「バカ!! お礼ならこの子に言いなさいよね」
アズは肩に乗っている何かを指さした。
凝視すると、大きく、真っ白なコウモリだとわかる。
「ああ、その子もありがとう、名前はなんだ」
「フィーよ」
「フィーか……いい名前だな、ありがとう」
アズ……最初は殺されたり、セクハラをして、何回も殺されたりしたけど……やっぱり、お前仲間だよ!