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第二幕 「地下室」

埼玉の片田舎で青春時代を過ごした青年は悶々とした日々を過ごしていた。

潰れかけのスーパーでのアルバイト。あぶく銭を賭けて友人と徹夜で麻雀。

何の出会いも刺激もない。あるのはむせかえる栗の花の臭い。

毎日が同じ繰り返しだった。


だが、気まぐれで入った映画学校でのある映画監督との出会いで俺の人生は変わった。

俺は脚本家を目指す。

この腐りきった日本映画界を変えてやる。

親に頭を下げて学費を出してもらい、さあ輝く未来へ出発だ!

順風満帆の明るい人生が待っているはずだ!


甘かった。

ゴジラとドラえもんの映画しかみていない青年が生き残れる世界ではない。

悔しいが監督の言う通りだ。

すべてにおいて経験が足りない。これが現実だ。

経験を積まなくては・・・。


母さん、いま息子は二丁目を歩いています。


−「まだ源氏名無かったよね?考えてきた?」

「いえ、源氏名って何でしょうか?」

「さすがに本名で働くわけにはいかないでしょ〜夜の世界で。

 じゃあ、俺が付けてあげるよ。う〜ん、何がいいかなあ。」


このドラキュラと薄暗い路地へ入るたびにドキっとする。

この男もあっち系なのだろうか、もしかしてこの街では俺だけノーマルなのだろうか。

すれ違う男達の視線が痛い。しかし胸は高鳴る。


「銀二、葵銀二ってのはどう?黄門様の葵の紋所に君がっちりしてるから

 銀二なんて男らしくていいじゃない?」

「はは、黄門様ですか、黄門・・・ハハハ。」


母さん、今日から息子は銀二になりました。


二丁目のメインストリートへ出た。

歌舞伎町とはまた違った淡いネオンの灯りが行き交う男達を照らしていた。


「君、あっち系?いや、それならそれでいいんだけどさ。」

「いや、僕はノーマルですよ!」

「偏見とかは無い?」

「無い・・・です。」


無いと言ったら嘘かもしれない。

ただこの街で働くためには慣れておかないといけないだろう。

しかし男達が路上で熱く抱き合い、ディープなキスをしている

この異様な光景に埼玉から来た青年銀二は溶け込めるのだろうか。

いやいや、溶け込んではいけない。

ギリギリの境界線を渡っていかなければならないのだ。

一歩間違えたら・・・考えただけでも恐ろしい。

この胸の高鳴りはそういう意味ではないはずだ!


「さあ、着いたよ。ようこそチョッパーズへ!」


着いたのは使い古された雑居ビルの入り口

一階に店は無い。どういうことだ?

すると、ドラキュラは軽快に地下階段へと降りて行った。

地下室!・・・一度入ったら逃げれぬ地下室!

映画『完全なる飼育』では誘拐されてきた女性が

飼育されていたが、ここでは男が飼育されるのか!?

そして最後はこのドラキュラ好みの男にされて・・・


地下室の奥から一昔前に流行ったユーロビートが聞こえてくる

そのビートに合わせて胸の高鳴りも最高潮だ!


さあ、どうする銀二。

引き返すなら今しかない。


お前はその程度の男さ、一歩踏み出す勇気も無い。

さっさと荷物まとめて埼玉へ帰って芋でも掘ってな。


どこからともなく師匠の声が。


やってやる。

芋でもカマでも掘るのゴメンだ!

俺は映画界を変える男なんだ。

たぶん。


うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


勢い良く階段を駆け下り

青年銀二は白く冷たい扉を開けた。        



第三幕「金髪」に続く


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