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第一幕 「二丁目」

−夏が過ぎ、色とりどりの枯葉が路上を覆う夜の街角に青年は立っていた。

待ち合わせの場所は古びた映画館の前

扉は閉められ、中には新聞やチラシが散乱していた。


時刻は23時をまわり、会社帰りのサラリーマンの姿も見えなくなってきていた。

目の前を通るタンクトップ姿の男達の視線が痛いほど伝わってくる。

そう、ここは新宿二丁目。


青年は脚本家を目指していた。

だが青年には脚本家としてもっとも必要なものが欠けていた。

「人生経験」である。


脚本家とは人間を見る観察力、それを脚本に生かせる経験が必要である。

と、師匠である某映画監督が言ったのを覚えている。


そこで某映画監督は出来の悪いこの弟子に経験を積ませるため

新宿二丁目という街で働けと、そそのかしたのだ。

なんて悪い師匠だろうか。


従順な青年はそれを真に受け、さっそく二丁目に出かけた。

にぎやかな大通りから横道に入ると、街の雰囲気が一辺した。


平日の昼間、大きなビルの裏で並んでいる若い5.6人の男達。

何かを待ってるかのように腕を組んだり、前を通る男達に視線を送ったり。

青年も興味本位で男達と同じスタイルで並んでみた。


「いくらかな?5千でどう?」

しばらくすると上下青スーツの初老の男性が声をかけてきた。

「え?5千?何ですか?」

「ほら、行こうよ。早く。ね。」

青スーツが青年の優しく手をひく。

「ちょ、ちょっと、何ですか!」


青年は身の危険を感じ足早に路地に逃げ込んだ。

『美少年の館』『BOYSLOVE』『桃太郎』

見たこともない看板が目に飛び込んでくる。


何故だか異様な興奮を覚え、胸が高鳴るのが分かった。

映画『クルージング』でゲイタウンのクリストファー通りに

おとり捜査で潜入したアル・パチーノもこんな気持ちだったのだろうか。


青年はこの街で働かなくてはならないのだ。

[日給2万円 体育会系募集][時給1000〜 バーテン募集]

本当にバーテンだけか?怪しい。怪しすぎる。

だが青年は素通りするフリをしながら何度も往復し

店の番号をメモ帳に控えた。


新宿高島屋のロータリーのベンチに腰ををかけ

携帯電話を握り締めてから2時間が経過していた。

日給2万か・・・いや、そういう問題じゃない。道を踏み外してしまう。

写真撮影5万はどうだ?ダメだ。リスクがでかすぎる。

もし大物になった時にWinnyで流出したらどうする?

やっぱり自分には出来ない・・・青年は大いに悩んでいた。

そもそも新宿で一人暮らしを始めたのもあの映画監督の一言からだった。


「経験不足」


見上げた夕日に師匠のにやけ面が重なった。

所詮、お前は埼玉の芋だ。何もできやしないのさ!

「負けてたまるか!俺は脚本家になるんだ!二丁目が何だ!」

青年はこぶしを握り、携帯のボタンを押した。


−「やあ、待った?チョッパーズ代表の美籐一巳です。ヨロシク。」

暗がりから現れたのは黒い毛皮のコートに身をつつみオールバックの30代後半の男。

白のカラーコンタクトのせいかまるでドラキュラ伯爵のような面持ちだった。


「いや、いま来たところです。」

着慣れないスーツと棚の奥からひっぱりだしてきた

汚い革靴を履いた青年は緊張していた。

そう、青年はホストクラブで働く道を選んだのだ。


ホストクラブとは男性が女性を相手に

楽しい会話とお酒でもてなすところじゃないのか?

しかし、ここは新宿二丁目。

本当にただのホストクラブなど存在するのだろうか?


青年はこれから起きるドラマを知る由も無かった・・・。



第二幕「地下室」につづく        


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