表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
№22  作者: masaya
一章 №を獲た者
6/6

5

穏やかに流れる。穏やかな川の流れのように過ぎて行く時間だと思っていた。が、現実はそんな都合よく動いてはくれない。二人の前にはどっしりと腕を構え不敵な笑みを浮かべる女性が一人立ち塞がっていた。レオンは目の前に立ちふさがる女性に友好的な表情をつくり手を振っている。が、茉耶はそうじゃあない。分かりやすく露骨なため息を彼女目がけて吐き捨てる。レオンは苦笑いを作りながら二人の仲を取り持つようにまあまあ、なんて言葉を向ける。茉耶の露骨なため息にも臆することなく颯爽と二人の目の前まで歩いてくる。凛とした雰囲気は優等生。そんな言葉が一番お似合いだろう。腰まで伸びた髪を靡かせ緩みきった雰囲気を一掃するように片足で地面を蹴りカツッと音を奏でる。相変わらず面倒くさい彼女に茉耶の周りに漂う雰囲気は黒く禍々しいものになっていく。流石にこのまま睨めっこを続けるわけにもいかないとレオンが機転を働かせ両手を叩きつつ、

「ヴァッシュ・・・ご、ごきげんよう」

「あら、レオンさん。ごきげんよう。先ほど歌を聴かせて頂いたけれどとても美しく可憐でしたわよ」

「あ、ありがとう」

口調こそレオンに向いているが視線は最初からずっと茉耶へと向けられていた。それは茉耶も重々承知しているが気が付いていないフリをする。視線を合わせてしまえば面倒くさい事になる事は分かりきっている。生涯のライバル。茉耶の気持ちを無視したまでの宣言。その自分勝手さがうんざりしているため不本意であるが冷たい態度を取らざるを得ない。自分はそこまで誰かのライバルになれるほど才能もなければ切磋琢磨しお互いを高めあう気力もない。ライバルと言うものはお互いにプラスをもたらせる関係であるべきだ。そう言う風に思っている茉耶にとってヴァッシュ・ロキ・ファスナーはただの鬱陶しい人。そのぐらいにしか思えない。しかし、茉耶の冷めた感情とは裏腹にヴァッシュの感情は相変わらずめらめらと燃えている。本当に体全体を炎で纏っているかのように。茉耶の自分に対する反応が悪かった事が気になったのか大きく髪をかきあげつつ咳払いをし両手を腰に当てると、

「茉耶もごきげんよう。き、今日は機嫌が悪いのかしら?」

「ヴァッシュは相変わらず凛としてますな。私はいたって通常運転でございますよ」

苦手なだけであって嫌いでは無いためなるべく言葉に棘が立たないよう片手をぶらぶらと左右に揺らしながら返答する。と、ヴァッシュの曇り始めていた表情は晴れ渡り満面の笑みを浮かべる。そう、彼女は悪い子では無い。ただ、とてもメンドクサイ女の子なのだ。諦めたようにため息を漏らすとレオンは片手で口元を押さえ笑い声を押し殺す。

「・・・それで?ヴァッシュは何か用事があったんじゃあないの?」

助け舟なのか茉耶に対してのからかいなのかレオンは苦笑いから頬笑みに変わった表情でヴァッシュへと言葉を投げかける。ヴァッシュも笑顔になったのは良いけれどその後、どう話しかけていいのか分からず困っている様子だったためレオンの言葉により満面の笑みを浮かべつつ口を開こうとしたが、ハッと自分の作っている表情に気が付いたのか一度、咳払いをし凛とした表情を作ると、

「ご、ごほん。私も丁度、帰宅しようとしていた時にレオンさんの歌声が聴こえてきたので聴いていたのですわ。そうしたら丁度、米通茉耶がいたからレオンに感想ついでに少し話しがしたくて・・・その」

最初の威勢はどうした?そう聞きたくなるほど後半になると声がもごもごと小さくなっていく。レオン曰くヴァッシュはライバルと言っているが単純に茉耶と仲良くなりたいだけでは?そう言ってきた事を思いだす。が、茉耶はヴァッシュの反応を見ているとそうは思えなかった。ただ、難癖付けてくる迷惑な女の子。そのぐらいにしか思えない。もじもじしているヴァッシュに何か声をかけてあげなよ。そんな風にレオンが体で肩辺りを押してくる。ゆらゆらと揺らされながら仕方なく一度大きく息を吐きヴァッシュへと視線を向ける。視線が合った途端に顔が赤面していくのが分かる。色白なため他の人よりも余計に顔が真っ赤になっていくのが分かり茹でタコのようになる姿はもはや曲芸と言っても良いかもしれない。

「えっと・・・じゃあ、とりあえず一緒に帰りますか?」

何故か敬語になってしまうが茉耶の言葉にヴァッシュは相変わらず顔は真っ赤であるが先ほどの恥ずかしそうな表情とは一転、晴れやかで眩しいものへ変わる。きっと人間に感情表現(しっぽ)のようなものがあれば最高速度でご機嫌に動いているだろう。素直にそのままついて来ればいいのだけれどそこは何かプライドがあるのか分からないが、ヴァッシュは咳払いをすると人差し指を茉耶へと指してくる。と、

「そ、そこまでライバルでもある貴方が言うなら仕方ないですわね!しょうがないからお茶ぐらいなら付き合ってあげますわ。早速、私が通っているお店に行きましょうか」

そう言うと率先して歩き始める。その後ろ姿を眺めつつ、メンドクサイ。そんな感情が込められたため息を吐いてしまう。すると隣に居たレオンはどこか微笑ましいものでも見ているかのように優しく笑っていた。笑い事じゃあないって。ちょっとした抗議を込め軽く肩で体当たりをする。レオンは少しばかり体勢を崩しつつ

「あはっ。やっぱりヴァッシュって可愛い」

「めんどくさいよ」

「何をしているのかしら?置いて行きますわよ」

「あ、はーい。ほらっ!茉耶も不貞腐れてないで行くよっ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ