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№22  作者: masaya
一章 №を獲た者
5/6

4

怒っているのか悲しんでいるのかレオンは両肩を思いきり叩きながら少し前を歩き始める。彼女は他人の感情を他人以上に感情を移入してしまいたまに言動がオカシクなってしまう。それは仕方がない事なのかもしれない。彼女もまた被害者なのだから。しかし、レオンは弱音を吐いたりはしない。一人の歌手として隊員訓練生として。【力持つ者は力無き者に弱さを見せるのではなく希望を魅せなければならない。だってそれが私の存在理由だから】彼女の口癖の一つでもある。その言葉を聞いた瞬間、殆どの人間は彼女に拍手喝采を浴びせた。その光景は未だに脳裏に焼き付いている。けれど、私にはどうしても彼女のその発言がよく分からなかった。自分の感情を殺してまで他人を喜ばせようとするなんて自己犠牲にもほどがある。自分が居てこそ行動出来る事だって沢山ある。抑圧され自分(こころ)が壊れてしまっては元も子もない。自然に下がっていた視線を上げるとレオンの華奢で弱々しい背中が映る。後ろから突いてしまえば今にも砕けてしまいそうな儚さ。

「ん?」

「え?」

「え?って。私の首に何かついてた?」

「あ、いや。ゴミが付いていたかと思ったけど気のせいだった」

そっか。なんてレオンは微笑みながら歩きだす。無意識のうちに茉耶はレオンの首筋へ手が伸びていた。もしも彼女が気がつかなかったら一体何をしようとしていた?先ほどレオンの首筋へと伸びていた左手を見つめる。まるで自分とは違う意思が働いていたかのように記憶がない。もしかしたら、もしかしたのかもしれない。自分の無意識(しょうどう)が怖くなり両頬を思いきり叩いてみる。が、一向に靄がかかったような気分が晴れることは無かった。気を紛らわせるように視線を空へと向けてみる。夕方と言う事もあってオレンジ色に染まりつつある夕空は夢のよう。空の国で暮らせることができたならどれだけ幸せなのだろう。きっと争いごともなく穏やかな日常を過ごせる気がする。少し前を歩いていたレオンも茉耶の歩幅に合わせ横に並んでくるなりクスリと笑ってくる。

「本当に茉耶って空を眺めるのが好きだよね」

「うん。だって綺麗でしょ」

茉耶の言葉に驚いたのかレオンの瞳は大きく見開いている。なにか可笑しなことでも言っただろうか?首を傾げつつ見ているとレオンは一度大きく深呼吸をし乱れた鼓動を通常に戻しているようだった。

「そ、そんなに私が言ったこと変だった?」

「ち、違うよ!なんか茉耶も人並みな事を考えるんだなって思って!」

「人並みって・・・私だって考えるっての!」

レオンの頭にチョップをお見舞いすると叩かれた場所へ手を持っていきながら笑みを浮かべ改めて空を仰ぐ。

「あははっ。ごめんごめん。でも、本当にそうだよね。こんな穏やかな夕空を見ていると世界全体で争いごとをしているようには見えないよね。ずっとこんな風に穏やかで静かな日常を送れれば良いのにね」

「そうだね。でも、そのために私たちや歌手でもあるレオンが居るんでしょ」

「そうだそうだ!・・・ちょっと、今、歌が降りて来たんだけど!」

そう言うとレオンは人差し指をそっと自分の口へと持っていく。茉耶も頷き近くにあった手すりへと背を預けそっと目を閉じ耳をすませる。と、レオンの小さな歌声が入り込んでくる。優しく穏やかな音色。草木が揺れ風が舞い遠くの方で聴こえる機械音全てがレオンの歌の伴奏となる。音なるモノを全て巻き込んでしまうレオンの美声はアクエリアス屈指と称賛されているだけあって他の通行人たちをも魅了してしまう。しばらくすると後ろで伴奏していた風でさえも彼女の歌声に聴き惚れてしまったのか耳に入ってくるのは歌声のみ。

「楓の音色を・・・あはは。ご静聴ありがとうございました」

恥ずかしそうに彼女は歌い終わるりお辞儀をした瞬間。歓声、歓声、歓声。あまりの大きな拍手喝采に茉耶も驚き後ろを向いてみると訓練生はもちろん指導官さえも歌声を聴くため足を止めていた。

「流石レオン!」「俺感動しちゃったよ」「まさかの新曲をこんな所で聴けるなんて!」「動画撮るの忘れてたよ!」「やっぱりレオンは最高の歌手だよね」「明日も私達頑張れる」

などと様々な言葉にもレオンは恥ずかしそうにほほ笑みながらも何度かお辞儀を済ませる。未だに収まらない拍手に混乱が起こるかと思った矢先、教官の一喝によりすぐさま嘘のように人は消え去り一瞬にして茉耶、レオンの周りは静まり返る。あまりにも早い観客の撤退に二人ともが苦笑いを浮かべてしまう。

「き、教官の一喝ってやっぱり迫力あって凄いね」

「みんな体に染みついてるんだろうね。教官が叱るとその場から立ち去るってさ」

「でも、怖い教官に立てつく人も居るけどね?」

茉耶の縋っている手すりに真似するように体を預け微笑んでくる。恥ずかしさを紛らわすため鼻ピンをする。

「へへっ。茉耶って恥ずかしい時にはいつもちょっとした攻撃をしてくるよねっ。それで、どうだったかな新曲?よかった?」

「凄くよかったと思うよ。いつものロック調とは違ってバラードにしたのはどうして?」

「んー。なんて言うか茉耶と歩いていた時に夕陽を見ていつもなら綺麗だな。素敵だな。って思うんだけど今日はちょっと違う様に見えて。それで無意識にバラードになっちゃったのかも」

確かに不思議だ。なんて言いながら腕を組み首を傾げ出すレオン。人の感情は移りやすいのに自分の感情になるとたまに分からなくなるところが危なっかしく、愛おしく思える。自問自答し続けているレオンの肩を叩き勢いをつけ手すりから離れる。

「よっと!新曲聴かせてもらったからお礼に今日は私がご飯を御馳走するよ」

「えっ!本当!ありがとう!」

先ほどまで険しい表情が一転、満面の笑みに変わり茉耶の腕に手を通し歩きだす。

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