2-3 常識的に考えて問題大有りだ
「女子高校生」
二〇代に突入すると、突然その単語がイイ響きに聞こえるから不思議だ。
好き好きと言ってくる花に真剣に告白されたところで、以前は気にしたことなんかほとんどなかった。
何せ相手は中学生だった。四捨五入したら十歳だ。「可愛い近所の子」以上の感情を持てるはずがない。
だから、いつか花も現実に気付いて離れていくだろうと思っていた。
けれどその前に、花が高校受験、俺が就職活動という状態になり、顔を合わせるきっかけという物が全くなかった時期があった。
たった一年。
就職して社会人として生活をはじめて数ヶ月、ようやくそれが日常になって余裕が出てきた頃、久しぶりに花に会った。
一年という時間は、少女が大人へと一歩踏み出すには十分な時間であったらしい。「こども」という感じが一気に薄れ、女性らしさを感じる印象へと変貌していた。姿形という意味では、ほとんど差はない。少しばかりこぎれいになっただろうか、というぐらいだ。けれど印象はずいぶんと違っていた。
なぜか動揺して、その時は少し言葉を交わしただけですぐに別れた。
別れた後も、しばらく動揺はおさまらなかった。
花の変化に俺の気持ちは追いつくことが出来ずにいた。
元々可愛らしい少女だったが、とてもきれいになっていた。体格もそんなに変わっていないのに、肉付きとでも言うのだろうか。女性らしい曲線を描いているように感じるのは、俺の目がおかしくなったのか。
俺は、もしかして花をそういう目で見てしまっているから、そんな風に感じるんじゃないか。
たった一年できれいな変貌を遂げた花に、今まで感じたことのない感情を覚えて、俺はぞっとした。
相手は花だ。数ヶ月前まで中学生だった子供だ。
そう思おうとするのに、数日後また花と顔を合わせて、やはり前と同じ感覚を味わった。
『透君!』
と、俺を見ただけで嬉しそうな笑みを浮かべ、一途に駆け寄ってくるのだ。可愛くないはずがない。今までだって可愛かった。変わらないじゃないか、そう思うのに、それだけじゃない感情がこみ上げる。鼓動が早くなっている。可愛い、嬉しそうに染まったその頬に触れたい。この子が自分を好きだと全身で訴えてくることが嬉しい。この子は自分の物だと感覚が訴えてくる。
花が可愛くて、でも花と話している間に、どうしようもない危機感が募ってくる。
ダメだろ、これ。……ダメだろ、これ。
花と一緒にいるのは楽しかった。けれど、何とも言えない恐怖にせき立てられるように、早々に話を切り上げて彼女と別れた。
別れてから、その恐怖が何だったのか分かる。自覚のない理性が俺を押しとどめていたのだろう。俺は成人をした社会人だ。花は……十代半ばの高校生になったばかりの少女。
俺が花の気持ちに応えればどうなる?
その想像は興奮と共に、どうしようもない現実を突きつけてくる。
ロリコンとかいう問題ではない。俺が花に手を出せば、完全に犯罪だ。
そもそも、あんな子供、好きなわけないだろ。ちょっと可愛くなっていたから、久しぶりに会ったから動揺しただけだ。
俺と花が付き合うとか、あり得ないだろ。
常識的に考えて問題大有りだ。
少し俺の知っている花と変わっていたから、ほんの少し、緊張してしまっただけだ。