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1-5 分からず屋のあなたに一世一代の大勝負を


「ねえ。透君はどうしても私のこと、恋愛対象として見えない?」

 受験勉強も、本格化してきた夏休み真っ最中。お盆休みで昼間から家にいる透君をつかまえた。

 私は透君ちのおばさんと仲が良い。というか、とてもかわいがってもらっている。会う度に声をかけて、透君、透君って言ってるんだから、私の気持ちもバレバレだ。いつもにこにこと私の相手をしてくれているんだけど、たぶんアレは半分おもしろがっているんじゃないかと思う。そんなところは透君と似てる。そして透君の話をいっぱいしてくれるから楽しい。

 ということで、昼過ぎに図書館へ行く道すがらおばさんと会ったとき、透君が一人で家にいることを知った。

 その時には、私の覚悟は決まっていた。

 次に会えたとき、気持ちをちゃんと伝えるって。今までのように軽く言ってごまかしたりなんてせずに。

 透君にちゃんと向き合って欲しい。妹なんて言わないで、ちゃんと私を見て欲しい。あこがれなんて切り捨てないで。


 家を訪ねると、ラフな格好の透君が出てきた。

 ハーフパンツにTシャツなんて言う、いつもと違うラフな格好だ。それでもかっこいいなんて、ずるい。

「珍しいな、家にまで来るなんて」

 驚いた様子で、私を見下ろす。

「入っていい?」

 睨むような目になるのも、声が低く固くなるのも、自分ではどうしようもない。それぐらい緊張していた。

「いいけど。なんだよ、改まって」

 らしくないなと、頭をがしがしと撫でられた。でも私はいつものように「髪型が崩れるからやめて」なんて言い返す余裕もない。耳まで響くぐらい心臓の音がどくんどくん鳴っていて、それどころじゃなくて、でも、ちょっとでも良く見せたいと髪型を直すぐらいには、変なところが冷静で。

「……花?」

 様子がおかしいと思ったのか、透君が困った顔をしてのぞき込んでくる。

「おまえ、ほんとどうしたの、そんな怒った顔して」

 そういって笑う声は白々しくって、透君が今の雰囲気を遠ざけようとしているのが分かる。私が真剣なのを壊そうとしているのが分かる。

 でも、いつまでもそうやってごまかされるばかりの子供でいたくないから。

 玄関のドアを閉めると、私は動悸を押さえながら、おもむろに切り出した。

「ねえ。透君はどうしても私のこと、恋愛対象として見えない?」

「……突然だな」

 透君から表情が消えた。逃げ出したくなったけど、私は睨み付けるように向けた目を、彼から離さないようにする。

「全然、突然じゃないよね。ずっと私、透君のこと好きって言ってきたよ」

 透君がため息をついた。無造作に落ちている前髪をかきあげて、眉間に皺を寄せてうつむく。

「私は、ずっと本気だったよ。ねぇ、透君」

 透君はむっつりと黙ったまま、私と目を合わそうとすらしてくれない。小さなため息がもう一度聞こえた。

 呆れているのだろうか。なんにせよ相手にしてくれてないのは分かる。涙がこみ上げてきそうになって、唇をかみしめた。止めていた息を吐き出せば、それは細かく震え、自分の耳にも今にも泣きそうな吐息に聞こえた。

 泣くな。泣くな。

 自分に言い聞かせながら、震える声を抑えながら、ずっと決めていたことを切り出す。

「可能性なんかないって、透君が言い切るのなら、私、透君のこと、諦めるよ。そしたらもう、見かけても声もかけないし、透君も声をかけてこないで」

 伝えた言葉の内容が、自分自身を追い詰めるように苦しくさせる。

 こんな事言いたくない。でも、このくらいの覚悟がないと透君には伝わらないと思ったから。私自身、逃げ道を作ってしまえば、ちゃんと言える自信がなかった。ごまかす透君に流されて、伝わらない苦しさをずっと抱え続けることになると思ったから。

「何も、そこまでしなくても……」

 驚いて顔を上げた透君が、戸惑いながら力のない声でつぶやいた。

 そこまでしなくても?

 カッと頭に血が上る。

 そこまでしないと私の言葉を聞いてくれなかったのは透君だ。

 感情のままに私は呆然としたままの透君にまくし立てた。

「あきらめるって言ったって、好きな気持ちなんて簡単にあきらめられるもんじゃないでしょ。だったら諦めるためには近づかないのが一番じゃない。私に恋愛対象にされたくないのなら、透君は喜んで協力すれば良いじゃない。恋愛対象にされたくない、でも近所の妹として一緒にいろなんて、そんなひどいことを透君は言うの? もしそんなこと言うのなら、透君は私を馬鹿にしすぎだよ!」

 透君は、やっぱり呆然としたまま私を見下ろしていた。

 大好きだよ、透君。

 でもこのままは、ほんとに辛いの。透君が誰か一人を選ぶなんていう、いつ来るか分からない恐怖にびくびくしながら想い続けるのは辛いの。いつかなんて期待し続けるのも辛いの。

 だから、はっきりさせよう?

 私の本気をいつまでも認めてくれないあなたに。

「ねえ、透君。教えて。私が恋愛対象になる可能性があるのか、ないのか」

 私の気持ちは本気だって、気づいて。私を女の子として意識して。

 ねぇ、透君、私を認めて。

 私は覚悟を決めてまっすぐに彼を見つめる。

 分からず屋のあなたに、一世一代の大勝負を。


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