1-4 本当は、あきらめたくなんてない
ずっと考えてた。
私は透君が好きで、でも透君にとって私は恋愛対象じゃなくって。
透君はきっと私の気持ちが迷惑なんだろうな。だから可愛い近所の妹分としていて欲しいんだろうな。
たぶんかわいがってくれているんだろうと、思う。だって透君ぐらい年の離れた人が、あんな風に私にかまってくれることなんてない。
頭ではそう思うのに気持ちがそれじゃ足りないって、だだをこねる。苦しくて、あしらわれるのが辛くて、透君の態度に腹が立ってたまらない。
いくらかわいがってくれてるとしても、それが私の気持ちと違うのなら意味がない。
私の背は大人と変わらないぐらい伸びた。胸だってそれなりにある。スタイルだって良いっていうほどじゃないけど、普通体型だし。顔は中の上ぐらいだと思いたい……。化粧すると透君に笑われるからできないけど、ちょっとでもきれいに見えるよう、お手入れはしてるし。体だけなら大人と変わりないのに。
でも透君にとって私はどこまでも子供なんだと、その態度に思い知らされる。
この年になってもダメなら、もうあきらめるしかないんだろうか。
私と透君の年の差は縮まることはない。
年を取ればだんだんと年齢差は気にならなくなるっていう。でも透君はもう二五才の大人だ。結婚だって、いつしてもおかしくない。
私が二十歳になれば透君は二十七才。大人と認めてもらえる年になっても、私はたぶん学生をしていて、透君はずっと大人になる。きっと、今と変わらない。じゃあ、二十二才で社会人になったら? その時透君は二十九才。
透君は一般的に見てもかっこいい。背は高いから、全体的に見ると細身なのに実際は肩幅なんかも広くて、意外とたくましさなんかもあったりして。整った顔立ちでちょっと無愛想なところはあるからきつそうに見えるんだけど、さりげなく優しいところがあるから、きっと女の子にももてるはずだ。ていうか、もててた。だって、ずっと、彼女切らしたことないし。最近は聞いてないけど、去年までは確かに彼女がいた。
私を女性として認めてもらえそうな年は社会人になる五年先。
あの透君が、あと五年も私を待ってくれるわけがない。というか、待つ理由なんてないし。ただの近所の子だし。
五年は、長い。ずっと、ずっと先だ。その頃まで私が堪えてがんばったところで、きっと、その頃透君は他の人の物だ。
今ダメなら、来年、なんて、私にそんな余裕なんて、どこにもない。
彼女がいなくなったせいか、最近話す機会も増えて、嬉しかったのに。
だから、今なら、もしかしたらって思ったのに、言うに事欠いてお兄ちゃん離れしろとか。
……あきらめるしか、ないのかな。
イヤだ。
だって、私の気持ちは透君でいっぱいだ。ずっと透君だけ見てきた。今だって会いたくてたまらない。ちょっと言葉を交わすだけで嬉しくてたまらなくて、どきどきして、世界中の幸せを全て手にした気分になって。ずっとずっと一緒にいたくて。
本当は、あきらめたくなんてない。
でも、彼女が途切れている今が最後の機会のように思えてならない。
いつだって不安だった。いつだって、透君が別の人に取られていくのが怖かった。次、彼女が出来たとき、その時は結婚までいってもおかしくない。あと五年の間、透君がいつまでも独身でいるだなんて楽観視できるはずない。
私には、後がない。
今。今、がんばるしかない。今、透君が振り向いてくれないのなら、次があると限らない。
受験が終わったらなんて、気長に待てない。
あきらめるしかないとしても、私は、あがきたい。
だって私には、今しか、ないから。