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年上の彼を落とす方法(20のお題)  作者: 真麻一花


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1-7 あなたがしあわせでいてくれるなら、それでいい


 大学に受かった。大学は県外だったため、私は実家を出て一人暮らしをする。

 あれから透君とは言葉を交わしたことはない。たまに見かけるけれど、全力で逃げてる。時には透君がこっちに気が付いていて、私をじっと見ていたりすることがあるけど、何考えているのか分からない。なんで今更って思いながら、私は逃げた。

 透君を避けることに力を尽くして、考えないために勉強に打ち込んで、秋も冬もあっという間に過ぎた。

 なのに、半年経っても忘れられない。

 おばさんにはお世話になったから、透君のいないときに挨拶に行けば、「寂しいわねぇ」って言ってくれた。私も寂しい。何もかもが、寂しかった。

 ずっとずっと透君が好きで、好きなのが当たり前すぎて、忘れかたが分からない。遠目に見つけただけで嬉しくなる気持ちは消えなくて、それに背を向ける度に胸の奥が苦しくなる。

 忘れなきゃ、忘れなきゃって思う分だけ、透君で占められてゆく。

 受験が終わった後の高校生活なんて、考える時間がいっぱいありすぎだ。失恋の重さが嫌というほどのしかかってくる。時間が経つごとに苦しさが増して、「時間が忘れさせてくれる」なんて嘘だって先人達に文句を言う。

 そんな毎日が過ぎていって、途中から卒業式とか別れる友達と遊んだりとか、部屋探しとかで慌ただしさが増しくる。気がつけば、引っ越し日は目前になっていた。


 引っ越しは業者に頼むことなく家族で済ませることにして、大きな荷物は向こうでそろえて、後は日用品を家から持っていくだけだ。

 たいしたことはないと思っていたけれど、何を持っていくかで意外とばたばたするし、荷物も意外と多い。

 慌ただしく荷物を車に運び込んでいるときだった。

 透君が、そこにいた。

 私の方をじっと見つめてくる。

 なんでよ。ふったのは透君のくせに。今更どうして何か言いたそうな顔して私を見るの。

 苦しい。嬉しくて、嬉しくて、苦しい。

 駆け寄りたいのをこらえて顔を背けた。なのに。

「花」

 いつものように、透君がそう呼ぶから。


 交わした言葉は、そう多くない。

 でも、とてもとてもひどいことを言われた。

 可能性はないって言ったくせに。

 今更透君は私を子供でないだなんて期待させることを言う。期待したくないのに、透君が優しくて、だから苦しくなる。

 忘れさせてもくれないつもりなんだろうか。

 好きな気持ちは止まらなくて、苦しくてたまらない。でも頭をぐりぐりと撫でるその仕草は、以前と変わらない子供扱いのままで。

 期待と絶望が入り交じる。

 どちらにしろ私はここを離れる。もう、透君を追いかけることも出来ない距離に引っ越してゆく。

 どうせ期待させるだけさせて、何も変わらないくせに。

 別れの言葉を切り出せば、「いってらっしゃい」と、まるで帰ってくることを期待するような言葉を返されて。

 透君は、とても優しい顔をして私を見つめていた。

 でも「行ってきます」は言わなかった。

 そのまま逃げるように背を向けて、私は引っ越しの準備に戻ってゆく。

 透君の気持ちが分からない。

 どうしてそんなことを言うの。どうして期待させるの。どうせ、そんな気なんてないくせに。

 あきらめるって決めたんだから。

 でも、心の中にさっきの透君の笑顔が刻みつけられる。

 ああ、やっぱり好きだなって思ってしまう。

 でも、それも全部、思い出にしなくちゃね。

 それだけで良いって、思わなくっちゃね。

 あの笑顔が、これから先私だけに向けられることはないのは分かっている。そのうちまた出来る透君の彼女の物になってしまうのだろう。そのまま結婚なんてしちゃったりしてね。

 想像すると、イヤだなぁって、じわっと胸がずうんと重くなる。

 でも、あなたがしあわせでいてくれるなら、それでいいよ。

 透君の笑顔を思い浮かべながら、強がって、そんなことを思ってみる。

 でも、透君が新しい彼女と一緒にいる所なんて、今はまだ見たくない。

 県外の本命に受かったのは、きっと、とても幸運なこと。

 失恋を確定させられる出来事を、直接に見ることはないから。離れていれば、ほんの少しだけでも、苦しい気持ちをごまかせられると思うから。


 引っ越しの準備が終わる。運び終えた荷物たっぷりの車に乗り込んで、家を出発する。

 車の振動とエンジン音を聞きながら家が離れてゆく。それを窓の向こうに見つめながら、私は透君の近所の女の子じゃなくなったんだと、じんわりと感じていた。

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