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年上の彼を落とす方法(20のお題)  作者: 真麻一花


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2-6 こっちの気持ちも少しは察してくれないか


 花に絶縁宣言をされてしばらくが経つ。

 ずっと自分から離れていたのに、いざ花から離れられたとなると、その寂しさがじわじわと染み渡ってきた。

 一ヶ月や二ヶ月会わなかったことなんて、何度もあった。そのくらいで寂しいと思う自分はどうかしている。俺だって避けてたくせに。

 花を一度見かけたことがある。

 俺に気付いたとき、花はすぐに顔をそらして逃げるように立ち去った。

 その時になって、俺はようやく実感したのだ。それまではたぶん、分かっていても実感はなかった。花から露骨に避けられて、はじめて俺は実感した。

 もう、花と話すことは出来ないのだ。

 と。

『話しかけないし、話しかけないで』

 決別の日、花はそう言った。

 その意味を、身をもって、ようやく知る。

 じわじわと広がっていくやるせなさ。会えない、言葉を交わせないという焦燥感。あの笑顔は、もう向けられない。一途に思いを寄せて駆け寄ってくれることはもうない。

 手放した物の大きさを俺は知る。

 今ならまだ大丈夫だなんて、なぜそう思った。もう、手遅れだったというのに。手放すことがこれほど辛くなっているなんて気づけてなかった。

 俺は、花の想いの上に、あぐらをかいていたのだ。花に想われているという自信が、俺の感覚を麻痺させていた。花からの好意がなくなるなんて、これっぽっちも思っていなかったのだ。

 花は俺から一度離れた方が良いと思っていた、花のために。けれど違った。俺のためにこそ、必要だった。決別しなければ、俺は自分の感情にすら気づけなかった。

 バカな俺のためにこそ、離れる必要があったのかもしれない。

 きっとあのままもし花と付き合うことにしても、花自身の気持ちが確かに俺に向かっていたとしても、俺は、花の気持ちにあぐらをかいたまま、花を大切に出来なかったかもしれない。

 けれど、気付いたにしても、今更か。

 もう、花は、俺から離れていった。


「最近、花ちゃんに会わないわねぇ」

 ぼそっと母が言った。

「元々そんなに会わなかっただろ」

「あんたはそうだろうけど、私はよく話してたわよ。花ちゃん、会ったらあんたのことばっかり聞いてきて、ほんと可愛かったんだけど」

 それは知らなかった。

「最近、話をする機会が減ったんだけど、あんた、何か知らない?」

「……知るわけないだろ」

「花ちゃんみたいな、お嫁さん、欲しいわー」

 なんだその棒読みは。

「あんた、最近、彼女いなかったわよねぇ」

 何が言いたい。

「花ちゃん、どうしたのかしらねぇ」

 だまれ。

「あんな風に、慕ってくれたら、可愛いわよねぇ? 会っても、頑なにあんたの話をするのを拒否されるのよねぇ」

 がたんと音を立てて立ち上がる。

 これ以上あいつのことを口に出すなよ。

 花の泣き笑いになった顔が脳裏をよぎる。俺を見て逃げていく姿がよぎる。ギリギリと胸が軋んだ。

 もうこれ以上何も言うな。こっちの気持ちも少しは察してくれないか。

「……寝る」

「はい、おやすみー」

 棒読みでひらひらと手を振る母をじろりと睨むが、どこ吹く風だ。

 今頃になって自覚して、なおかつ絶縁宣言で堪えている身に、母のイヤミは、どうしようもなく痛かった。


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