小さい女の子とわたし
鬼刀が送るちょっとふしぎな短編
私、の目の前に会いたかった女の子が姿を現した。
「ああ・・・・やっと会えた・・・」
女の子はしゃがんだ体制で何かを見ながら、1人遊んでいる。何をしているんだろう?
私、はおずおずとその子に近づき、声をかけた。
「何して遊んでいるの?」
にっこりと声をかけた。
すると女の子は、
「んーとねえ、アリさん見てたの。いっぱいいるんだよ。でもそのいっぱいのアリさん、
なかなか列をはみでないんだよ。えらいねぇ。」
と言い、にっこり笑った。抜けた歯が印象に残るとてもいい笑顔だ。
「おねえちゃんはなにしているの?」
女の子は質問をしてきた。
私はこう答える。
「お姉ちゃんはねえ、あなたに会いに来たのよ。」
「えー、どうして??」
女の子はそう答えた。
どうして?私自身もわからない。何も思い出せないのだ。
でも、私はこの子に無性に会いたかった。
会いたくて仕方がなかった。
なぜかは、わからないんだけども。
この、どこかはわからない場所で。
この真っ白な空間で。
どうしてだかわからないけどこの子に会いたかった。
「ねえ、お姉ちゃんとあそぼっか?」
「うん!なにしてあそぶ??」
女の子はすぐ答えてくれた。とても可愛らしい。
「んー、じゃあねえ、おままごとはどう?」
「うんいいよ。わたしお母さんがいい!お姉ちゃんはわたしの子供だよ。」
無邪気で可愛い。
私はいつ頃からこんな無邪気で可愛い笑顔できなくなったんだろうか・・。
「うん、いいわよ。」
気が付いたら私はこの白い空間にいた。
時間も、景色も、人も、何もない真っ白な空間。ここはどこ?
私は・・・・。
ふと強烈な思いに駆られる。
あの子を探さなきゃ・・・・・!
「はい、ご飯よ。きょうはお母さん頑張ってハンバーグ作ったの」
はっと我に返る。いまはその子とおままごとしているんだった。
「あ、ああ・・・ありがとうお母さん。もぐもぐ、このハンバーグとっても美味しいね。」
「でしょう?お母さんの心のこもったハンバーグは天下一品でしょう?」
女の子が可愛く笑う。
あれ?今のセリフどこかで聞いた・・・・。
ああ、そうか。
わたしが昔付き合ってた人に、
初めて手作り料理したのが確かハンバーグだった。
で、
今のセリフ言ったんだっけ
懐かしい・・・。
「だめだめ。ハンバーグはナイフとフォークをきちんと使わなきゃ。」
あ、これも・・・・。
初めて親友とちょっといい値段のするレストランにいった時、
その親友に怒られたっけ・・・。
「ごめんなさい。ナイフとフォークはどうやって使うの?」
私は女の子に聞いてみた。
「もう、しょうがないんだからこの子は~」
なんて言いながら女の子お母さんは少し嬉しそうだ。
女の子お母さんは、ハンバーグを食べるときに使うナイフとフォークの使い方を、
ゆっくりと私に教えてくれた。
私の後ろに回り込んで、その小さな右手で私の右手を、その小さな左手でわたしの左手を握り、
「こうやって食べるの」
と、
言葉は拙かったが、とても優しく教えてくれた。
私は女の子に
「いいお母さんになるね」といった。すると女の子は
「何言ってんの!もうおかあさんです!」と可愛く怒った。
そうだった。いまはおままごとの最中。
この、おままごと中は女の子は立派なお母さんだ。
「ごめんなさい。」
私はにっこり謝った。
女の子はこういった。
「おままごとはもうおしまい。だっておねえちゃん何も知らないんだもん」
女の子はふてくされてる。
「ごめんごめん。」
「ねえ、おねえちゃんはどうして、わたし、に会いにきたの?」
会いに来た
そう、この子に会いに来た。
でも・・・、
どうしてだろう・・。
私自身もわからない。
ただ無性に会いたくて、
この白い空間を探しただけなのだ。
一生懸命。ただ、それだけ。
「わたしの事みつけてくれたんだよね。」
女の子は言う。
「ありがとうおねえちゃん。」
「私もおねえちゃんに会いたかったんだよ。くるのおそいんだもん。
ずーーっとまってたんだよ。ほんとは、もっとはやく一緒に遊びたかったんだよ。」
ちょっとまって
この子は私がここに来ることを知ってた。
私もこの子を探してた。
会いたかった。
白い空間を探した。
ただひたすら。
見つけたくて仕方なかった。
でもなぜ・・・?
この子は・・・私にとって何なの・・・・・?
「そんなことわからないよ。わたしがお姉ちゃんにききたかった事だもん。」
え?
この子が?
私に?
いや、それよりも私、今考えてる事、口にだした??
・・・・・・・何をききたかったって??
「だから、お姉ちゃんに、わ、た、し、の事。」
ああ
ああ・・・・・
そういうことか
私がこの真っ白な空間で会いたかった女の子
会いたくて仕方がなかった女の子
なんてことはない、それは・・・・・。
私は女の子に言った。
「やっと見つけられた。遅くなってごめんね。」
「私。」
女の子はにっこりほほ笑んだ。
「やっと見つけてくれた。おねえちゃんかくれんぼ、上手だね。隠れるのうますぎるよ。
でも見つける方は時間かかりすぎ、私はやく見つけてほしかったんだよ?」
そっか・・・そうだよね・・・ごめんね、私。
ふ、と目を開くといつもの現実だった。
あの真っ白くて、小さい女の子のいる空間・・・・ううん、小さい私がいる空間はもうなかった。
「あなたは自分の事をどれだけわかってますか?」
ずらっと並んだ面接官が私に質問している。
そっか。私は前の会社を辞め、ここの会社に入りたくて、今日面接を受けているんだった。
あまりの緊張でトリップしてあの真っ白な空間に行ってしまったらしい。
もう緊張はしていない。
きっと大丈夫。
だって、
わたしは、あんな真っ白な空間から女の子、ううん「わたし」を探し出し、
それが「私」だって、気づけたんだから。
「えー、ごほん。もう一度質問します。
あなたは、自分のことをどれだけわかってますか?」
面接官が再びこう言った。
私はにっこりほほ笑みながら、
「はい。私は私自身を見つけました。小さいわたし、ですけど。」
抜けていない歯が印象に残る、とてもいい笑顔で「わたし」は、こう答えた。
いかがでしたでしょうか
皆さんの心に少しでも残れば幸いでございます。